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「私は、朝ご飯を作っていたことまでは覚えているんです。でも、夫が言う人物に心当たりがなく、誰かが訪ねてきた記憶もありません。気がついたら怪我をしてベッドに横たわっていたんです」
「そっか。訳分からんことばっかで辛かったよな。3人ともよく頑張ったと思うわ。助けることができてよかった」
「ありがとうございます。娘が元気になって、本当に感謝しています」
泣きながら頭を下げてくる両親に、アユカは笑顔を絶やさない。
「んでな、色々聞きたいんやけど思い出しても大丈夫? 記憶が蘇って気持ち悪いとかなさそう?」
「大丈夫です。あの……私たちの話を信じてくださるんですか?」
「もちろんやん」
「っぁりがとうございます。話せば頭がおかしいと言われそうで、誰にも話せなかったんですが、でも、やっぱり不可解すぎて……家族を殺そうとした人物が許せなくて……」
そりゃ不可解すぎるよな。
家族が死んだように眠ってて、子供の顔を潰されてたんやもんな。
しかも、爆発ってことは、魔物の襲撃に合わせて誰かが爆弾、もしくは魔法を使ったってことやろ。
いや、魔物が火を噴いたり、石投げてきたりって可能性も捨てられへんか。
「遠目に見たっていう人物は、どんな奴か分かる?」
「いいえ、男か女かも分かりません……」
「やったらさ、1週間以内くらいでいつもと違うことあったりした? 全然見たことない人がおったとか? 初めて見る屋台があったとか?」
「この街は行き交う人が多いので……初めて見る屋台やおかしいことがあったりは……なかったような……」
「あ! あります! 娘が絵を描いたんですが、そこにピンク色の果物を描いたんです」
「ピンク色の果物? 描いてもいいんちゃうの?」
「アユカ様は知らないよな。この世界にピンク色の食べ物はないんだよ」
「はいっす。だから、シリールルは本当に珍しい実だったすよ」
でもさ、子供って好きな色で描くもんちゃうの?
「私たちもシリールルのことを掲示板で知りましたので、娘にピンク色の食べ物は食べないようにと教えていたんです。でも、描いていたので聞いてみたら、ピンク色の実を見たって言われたんです。『明日売るって言ってたよ。食べたいな』と言われ、まさかと思いながら翌日市場に行きました。しかし、ピンク色の実はどこにもなかったので、見間違いをしたんだと思ったんです」
アユカは、まだモグモグタイムの女の子の頭を撫でた。
両親は、不安そうに娘を見ている。
「なぁなぁ、ピンク色の実って大きかった」
ごっくんと飲み込んだだろう女の子が、大きく頷いている。
「おーきかったよ。んとねぇ、えっとねぇ、これくりゃい」
短い指が、アユカの巾着を指している。
「いーっぱいあったの。だからねぇ、おちたの。あたちひろったの。きじゅだらけでいたそうだったの。でもねぇ、いたくないって」
「めっちゃ優しいやん。偉いわー」
「へへ」
照れたように笑った女の子は、またご飯を食べはじめた。
母親が辛そうに目を伏せている。
「私が目を離したのね……いつ1人になったのかしら。外に出る時は手を繋いでいるのに」
「それは分からんけど、1つ分かったことがあるよ。そのピンク色の実は、シリールルと同じでヤバい実なんやわ。それを見られた上に顔も見られたから、口封じのために殺そうとしたんちゃうかな。眠ったままやったら家の下敷きになってたはずやから」
でも顔を潰すんなら、しかも下敷きにする予定なら、殺した上で放置すればって思うんやけどな。
なんで顔を潰すだけにしたんやろか?
お互いを支え合うように手を繋いでいる両親に笑顔を向ける。
「貴重な情報をありがとうな。でも、もう誰にも言ったらあかんで」
「はい。娘にも言い聞かせます」
「できるだけ早く解決できるように頑張るけど、気をつけてな。なんかあったら騎士団の宿舎に来てくれていいから」
「ありがとうございます。動けるように治していただいたので、辻馬車が再開しましたら親戚が住む街に行こうと思います」
「そっか。早く再開したらいいな」
「はい。それまでは大人しく過ごします」
食べ終わった女の子と挨拶を交わして、アユカたちは宿屋を去っていった。
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