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部屋に戻るなり、ボリジが訪ねてきてくれた。

部屋にある机に全員が着くと、グレコマが盗聴防止の魔道具を発動させている。

何の魔道具かボリジは知っているようで、部屋に来たときよりも真剣な面持ちをしている。


「まず、ボリジに明かすことがあるんやけど、この話はポリティモの聖女ホノカにしか話したことがない。まぁ、話さんくっても、シャンやグレコマたちには気づかれてるんやけどな」


ボリジが、小さく頷いている。


「んで、絶対に秘密にしてな」


「かしこまりました」


「うちな、人より目がいいねん。やから、みんなが見えへんもんが見えるんよ」


「えっと……どういうことでしょうか?」


「その人の健康状態とか、毒が分かったり、うちに害をなそうとする人を見つけたりかな」


ボリジが、唾を飲み込んだのだろう。

喉仏がしっかりと動いていた。


「私に明かされたということは、緊急事態になる何かが分かったということですか?」


おお! やっぱ隊長クラスになると頭いいんやね。


「嫌なことにな。そうやねん」


「そうですか。おうかがいいたしましょう」


顔付きが鋭くなったボリジに、何から話せば分かりやすいかなと考え、フォーンシヴィで起こったことから話しはじめた。

そして、それとは異なるが憎悪が住民に纏わりついていたこと、それを竜笛で消したことを伝えた。


「なるほど。把握いたしました」


「ん? 全部信じられるん?」


「無論ですよ。詳しくは知りませんでしたが、フォーンシヴィのことは聞き及んでおります。昼食時の住民の変化に違和感を覚えましたし、何より陛下が選ばれた方ですからね。疑う余地はありません」


はーん! うちの彼氏のすごいことよ!

聖女の肩書きあるのに、シャンのカリスマに負けたってことやもんな。

ハンパないわー。


「ありがとう」


「こちらこそ、私を信じて話してくださり光栄でございます」


座りながらだが、小さく頭を下げられた。

顔を上げたボリジと微笑み合い、話し合いを再開する。


「んでな、うちを殺したいと思ってる人らが住民で4人」


「いつの間にか1人増えてるっす」


「騎士の中に1人」


「はぁ、ここまで大掛かりなんだから、そりゃいるよなぁ」


「すぐに捕まえましょう」


「ううん、まだ様子見しよう。捕まえるんは、憎悪を生み出してる媒体を見つけてからにしたいねん。それに、まだ会ってない人らの中に仲間がおったら取り逃がしてまうやろ。そんなん嫌やん。反乱を起こそうとシャンに喧嘩を売ったんや。ボロ雑巾にせーな気が済まへん」


アユカが口角を上げて悪どい笑みを浮かべると、アユカにまだ慣れていないボリジは「聖女とは?」と少し頬を引き攣らせている。


「懲らしめることには同意見だ。そいつらのせいで、罪なき命が奪われたのは確かだからな」


「そうっす! やることがセコいっすよ! 正々堂々戦いを申し込めばいいんす!」


「ホンマによな! シャンに挑む勇気ないんやったら、何もすんなって話よ! あの完璧な筋肉に怖気付いてるんやわ! 絶対筋肉ない奴が犯人やで!」


小さく吹き出したボリジが、お腹を抱えて笑い出した。

アユカは目を点にして瞬きを繰り返しているが、グレコマとエルダーは呆れたようにアユカを見ている。


「失礼いたしました」


「いいけど、そんな面白いことあった?」


「いいえ。ただ未来の王妃様が、明るい方で嬉しいと思った次第です」


「元気なんは、うちの取り柄やからね」


ボリジはまた笑い出し、グレコマとエルダーの吐き出す息が重なっている。

笑いが落ち着いたボリジが、鋭い表情に戻った。


「まずは、媒体をということでしたよね。私も探すのに協力いたします。懸念されているような物はございますか?」


「住民に行き渡らせるんやから、配給時に配るもんやと思うねん。フォーンシヴィでも飲み水やったし」


「だから、本日は我々が持ってきた物を配ったんですね」


「そうやねんけど、ちょっとおかしいなって思ってんのよね」


「どういうことだ?」


「配給する物とうちらの食事とって、わざわざ分ける必要ないと思うんよ。騎士たちにも憎悪あった方が、国民対騎士で争わせられるんやから。

でも、昼食も夕食も大丈夫やった。それに、騎士は疲れてるけど全員何ともないねん」


「もしかしたら、配給ではなく住民たちが日頃口にする何かがあるということですか?」


アユカは、小さく頷いて空中を見つめる。


ほとんどの住民に纏わりついてたし、吹いても吹いても現れたんよな。

ってことは、やっぱり配給物はちゃうんか。

一体、どこから体に纏わりつくようになってんやろ。


めっちゃ怖いことを考えると空気やけど、それなら、うちらにも纏わりついててもいいし、騎士に纏わりついてへんのはおかしいからな。


騎士と住民……何が違うんやろか?


百面相をし始めたアユカに、ボリジは戸惑っている。

「アユカ様の発作みたいなものです。少しお待ちください」と説明しているグレコマの声は、アユカに届いていない。


そもそも憎悪って、どこから集めてんのやろ。

悪意がそうやったから、憎悪もきっと集めてんやでな。

でもさ、憎むって相当なことがないと……


あ! ああ! そのための魔物襲撃やったんちゃん! 絶対そうやわ!


魔物の襲撃さえ計算されたことやとして、魔物を一直線に街に襲撃させる何かが街にあったってことやんな?

それを回収するための騎士と髑髏の人が忍び込んでるとか?

救助活動しながらなら、周りの目を気にせんと回収できるよな?


いや、でもそれやったら、わざわざ騎士に忍び込まんでも回収できるよな。

んー、分からん。


首を傾げたアユカに、今だとグレコマは声をかけた。

意識が現実に向いたアユカは、考えてたことを話し、難しい顔をする3人を見つめた。


「可能性として高いな」


「陛下とモナルダ様に意見を仰ぐ方がよさそうですね」


「はいっす。アユカは休んでいいっすよ」


「そうですね。報告は私の仕事ですから休んでください。何を話したのか、明日の朝お伝えに来ます」


「分かった。ありがたく休ませてもらうわ」


いつも以上に疲れているのは本当なので、3人の言葉に甘えることにした。

アユカの部屋を退出する3人を笑顔で見送り、自分自身に『クレネス』をかけてベッドに潜り込んだ。


「疲れた……」


小さな呟きは空気に溶けていき、数秒後には深い眠りに落ちていた。




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