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「マツリカ、アユカ様に謝れ。お前たちもな。聖女を守る騎士が聖女を睨んでどうする」
グレコマの言葉に騎士2名は顔を逸らしたが、マツリカは唇を噛んで睨んでくる。
膠着状態が続きそうで、アユカが我先にと声を出した。
「うちから謝るわ」
「どうしてっすか?」
「うちが無知やったんが悪かったんやろうから」
「違うぞ」
「ううん。うちはこの世界のことを全然知らん。まさか魔物を食べへんとは思わんかったし、それを言うことで不快な想いをさせるとも思わんかった。だから、不快な想いをさせてごめんなさい」
いい子ぶっているわけじゃなくて、本心からの言葉だ。
怒らせてしまったということは、自分に非があったということ。
言葉を変えて聞いていたら怒らせていなかっただろうし、険悪な雰囲気にならなかったかもしれない。
「それと、うちはこの世界に来てから、誰のことも野蛮と思ったことないよ。優しくしてくれることに感謝してるしな」
「アユカ様……」
「で、このモンペキングは、うち1人で食べようと思う」
刺々しかった空気から棘がなくなりそうだった空間は、歯が見えるほどの笑顔のアユカによって完全に壊れた。
「「はぁ!?」」
「待つっす!」
「そうだ、待て! 魔物なんて食べるもんじゃない!」
「なんで? 動物と変わらへんやん」
「変わるっすよ」
「そうかなぁ」
「そうだ」
「でも、美味しいお肉を消し炭にするんは勿体無いやん」
「美味しいお肉って、食べたことあるっすか?」
「ないよ。でも、美味しいって分かるねん」
「「どうしてだよ(っす)」」
エルダーとグレコマの息がぴったりで可笑しくて笑うと、2人は諦めたように息を吐き出した。
「絶対に食べるんだろうから、捌くの手伝うわ。お前らは昼食の準備な」
グレコマが、騎士2人に指示を出している。
フラックスが「行きましょう」と、キャラウェイとマツリカを連れていった。
キャラウェイはアユカたちと一緒に居たそうにしていたが、大人しく離れていった。
「アユカ様、悪かった」
「グレコマが謝ることちゃうよ」
「でもなぁ、本当になぁ、はぁ」
項垂れているグレコマに、エルダーが頷いている。
「隊長がしっかりしたらいいっす」
「そんなこと言っていいん?」
「いいんす。あんなんだから、お情けの隊長って言われるっす」
「こら、言い過ぎだ」
「そんなことないっす。マツリカが来るのを許可したのもフラックス隊長っす。来なくてよかったっす」
「そこには同意するけどな。キアノティス陛下を怒らせるとか、恐怖でしかなかったわ」
「キアノティス様って、そんなに怖いん?」
「キレたら島を消したりするからな。普通に怖い」
うん、それは怖いと思う。
マツリカを殺そうとするんも躊躇ってなかったもんな。
「無駄話より捌くか」
「あ、うちがするから大丈夫やで」
剣を抜こうとした2人が、もはや遠慮なく胡散臭そうな目を向けてくる。
「魔物、食べたことないんだよな?」
「ないよ」
「大蛇、捌いたことあるっすか?」
「ないよ」
2人して顔を合わせて、ため息吐かんでもよくない?
うちには、錬金術という素晴らしいスキルがあるんやから。
錬金術は、ポーションとかを錬成するだけやないんやで。
素材を分けることもできるし、材料が揃えば料理や服だって作ることができる。
ただ、銅を金に変えたり、木を鉄に変えたりはできへんけど。
物質を変えることはできへんけど、物質を合わせたり分けたりはできるってこと。
「まぁ、見ててよ」
アユカは、両手をモンペキングに翳して『ケルミーア』と唱えた。
アユカが魔法陣を扱えることにも、モンペキングが一瞬にして皮と身と牙とそれ以外に分かれたことにも、エルダーとグレコマの開いた口が塞がっていない。
錬成が終わった場所には、折り畳まれた皮と、両手で抱えられるほどの大きさに切られた身と、そのままの状態の牙、テニスボールくらいの大きさの赤い球があった。
これは、うちにグロいものを見せないという、ハムちゃんの配慮なんやろうか?
グロいままやったとしても処分に困ったけど、大量にある赤い球をどうすればいいかも分からん。
「すっげー!!!」
「アユカ、すごすぎるっす! 聖女、半端ないっす!」
え、ごめん。
うち、なんちゃって聖女。
「これで食っていけるっすよ」
そうなん?
ちょっと考えてみよう。
「この皮は丈夫みたいでな。隊服に使うんやったら渡すけど、どうする?」
「俺たちはいいから、アユカ様が持ってろ。冒険者ギルドに売れば金になるしな」
「そうなん? じゃあ、そうする」
やったー。お金、お金。
って、冒険者ギルドあるんや!
そうやんな!
魔物がおるんやから冒険者おるよな!
巾着に片付けると見せかけて、空間収納に今日食べるお肉以外を入れていく。
ただ、中身が何か考えたくない赤い球には手が伸びない。
片付けなくてはいけないが、空間収納に入れたくない。
だからと言って、放置はできない。
戸惑いながら赤い球を眺めていたら、熱い視線を感じて振り返った。
熱のこもった視線を送ってくる先には、涎を垂らした獣馬たちがいる。
「なぁ、グレコマ。これ、獣馬にあげてもいい?」
「いいぞ」
「いいん!?」
「あいつらは雑食だからな。何でも食べる」
「俺、獣馬の餌かご持ってくるっす」
エルダーが担いできてくれた木箱の中に赤い球を入れ、エルダーとグレコマが運んでくれた。
獣馬の前に置いた途端、獣馬たちは餌かごに顔を突っ込み、勢いよく食べはじめた。
怒っているような唸り声が聞こえたが、エルダー曰く、獣馬が喜んでいる時の鳴き声だそうだ。
持て余すものを美味しく食べてくれるなんて本当にありがたいと思い、後で獣馬たちにも『クレネス』をかけてあげようと決めたのだった。
投稿分の改稿ばかりしてすみません。
どれだけ改稿しても内容は変更していません。
そろそろ落ち着く予定です。
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