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マトーネダル在住の騎士数名と、早めの昼食をとりながら会議をし、街の現状を報告してもらった。


魔物は北側から攻め入ってきたらしいが、人命救助に手を取られ、まだ調査を開始できていないとのこと。

昨日から喧嘩をしだす住民が増えていて、そちらの見回りにも骨が折れているとのこと。

炊き出しも少ないと文句を言われるようになり、そんなに色々言われてもと思いはじめていたそうだ。


疲れ切っている様子を見る限り、そろそろ限界だったように感じる。


アユカは、マトーネダルの騎士たちに栄養ドリンクをあげ、今日は午後から休むように告げた。

ボリジも了承してくれ、「よく頑張った」と騎士たちを労っていた。


「3組に分けて作業をしようと思っていたが、全員で炊き出しをし、それから3組に分かれよう。アユカ様、いかがでしょうか?」


「うん、それでいいよ。住民が多いからな。全員で一斉にご飯配ろう。んで、みんなが配る前に竜笛吹くわ」


「竜笛をですか?」


「ご飯の合図みたいなもんよ。それに、音楽は癒しの効果もあるっていうやん」


「まぁ、住民たちも和めるでしょうしね」と納得してくれ、深く問われることはなかった。


それもそうだ。ボリジは、竜笛で瘴気以外も祓えるなんて知らないのだから。


マトーネダルの騎士たちから状況を聞いたアユカは、先ほど見かけた住民たち以外にも憎悪が纏わりついているんじゃないだろうかと思ったのだ。


やりきれない想いや不安はあるだろう。

「なぜこの街が」「どうして自分が」という不平もあるだろう。

だが、そこまで不満たらたらになるだろうかと。


誰かが起こした争いで被害にあったのなら、怒りが爆発しても理解できる。

でも、今回は地震や台風、竜巻などといった自然災害と似たようなものだ。

騎士たちの不手際によって起こったことではない。

何が悪いのかと決めつけるのならば、魔物が悪いのだから。


騎士なんやから、守るべきやったっていうんかもやけどな。


本分的には、そうなるんだろう。

でも、完璧に守りきることなんて不可能だ。

力の差や襲ってくる人数の問題もあるし、守る範囲の問題もある。


しかも、予測していなかった事態の襲撃なら尚更難しい。

護衛が何人もいた時に殺されたアユカが、身をもって体験したことだ。


性格や感覚の違いはあれ、この街全体に摩擦が生じすぎている気がしてならないのだ。


外に出たら、ずっと『アプザル』しとかなやわ。


ボリジたちと食事の配給に向かうアユカは、外に出た瞬間『アプザル』をしたのだった。


そして、憎悪は、炊き出しをする場所になっている広場に着くまでに見かけた人たちの大半に、広場に着いたアユカたちの周りを囲むように立っている人たちのほとんどに、当たり前のように纏わりついていた。


「グレコマにボリジ、街全体に響かせられるほどの風魔法ってできる?」


「街全体は難しいな」


「そっか。まぁ、できるだけ遠くまでお願い」


しっかり頷くグレコマに対して、ボリジは何かを問いたそうにしていた。

だが、そんな時間はない。

アユカが、言い終わるなり吹きはじめたからだ。


竜笛の音が流れる時間が長くなるにつれ、住民たちの表情が柔らかくなっていく。

胸に溜まっていたシコリのようなものが、涙で流れたのだろう。

どこか薄暗く感じていた街も住民たちも、春の日差しに照らされているような穏やかな明るさを纏っていく。


吹き終わったアユカは、笑顔で大声を上げた。


「今からご飯配るから、みんな並んでなー!」


拍手しながら頷いている住民たちを見て、ボリジは目を疑っているようだった。

さっき聞いたばかりの話とは、真逆なのだから仕方がないだろう。

でも、到着するまでの間、いや、アユカが吹き終わるまでの間の雰囲気は報告された通りだったから、余計に混乱しているのかもしれない。


唾を飲み込んだボリジが、アユカを見てきた。

ボリジの視線に気づき、アユカは歯を見せながら笑った。


「配るご飯は、飲み物も含めて、王宮から持ってきたものな。ここの騎士たちが用意したもんは渡さんとって」


「え? あ、はい。しかし、なぜでしょうか?」


ごもっともな意見だと思う。

ボリジの立場からしたら、急に理解ができないことを言いだしたのだから。


「配ってくれるんは有り難いって思ってても、同じ食べ物ばっかって飽きるやん。うちがみんなの立場なら違うもん食べたいわ」


騎士たちは「そうですね」と笑顔で頷いてくれたが、ボリジだけは密かにグレコマに視線を投げかけていた。


貧民街の時と同じように、配る担当と整列させる担当に分かれて、配給が始まった。

アユカは積極的に住民たちに話しかけ、時折、短い演奏を繰り返した。




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