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アユカたちは、マトーネダルの騎士たちと会議をする前に、それぞれの部屋に案内された。

アユカの部屋の両脇の部屋を、グレコマとボリジが使用する。


アユカは部屋に入るなり、ベッドに倒れるように寝転んだ。

グレコマとエルダーは、部屋の間取りと内装を確認している。


「アユカ、行儀が悪いっすよ」


「うん……」


上の空のように、ただ返事を返しただけのようなアユカに、グレコマとエルダーは顔を見合わせた。


「何かあったか?」


「うん……」


「疲れたっすか?」


「うん……」


「さっきのことか?」


「うん……」


「アユカは、お転婆で馬鹿っすか?」


「う……ちゃうわ! うちは元気なだけや」


「あ、調子が戻ったっすね」


アユカは「もう!」と呟きながら起き上がった。


「なぁ、気になることあるんやけど、普通に話していける?」


「ちょっと待て。シャンツァイ様から盗聴防止の魔道具を受け取っている。アユカ様が叫びそうだったら使うようにって言われたんだ」


グレコマは、巾着から盗聴防止を取り出し、すぐに発動させている。


「ひどいわ。うち、そんなに叫んだりしてへんやん」


「休みなく働くことになるからな。息抜きしたくなるだろうってことだよ」


「そうっす。シャンツァイ様の優しさっす」


ベッドの上で腕を組んで納得していない顔をするアユカを、グレコマたちは気にも留めていない。


「それで、どうしたんだ?」


「あ、うん。衝撃なこと言うんやけど、この街おかしいわ。さっきの人らの大半に憎悪が纏わりついてたねん」


住民が怒気にも近い感情を突如露わにしたことに、様子がおかしいと思ったアユカは『アプザル』をしていた。

そして、「憎むほど怒ることやった?」と思っていた。


しかし、1人2人ではなく多くの人が同調していることが奇怪すぎて頭を捻っていると、ペペロミアに纏わりついていた悪意が頭をよぎったのだ。

だから、あの場で竜笛を吹いてみていた。


「は?」


「待て……衝撃すぎるだろ」


「しかもな、さっきの集団の中に、うちを殺したいと思ってる人たちがおったみたいやん」


人が多すぎてきちんと顔は見えなかったが、確かにいたのだ。

トックリランと同じ髑髏マークを表示させた者が。


ただ、トックリランが、本当にアユカを殺したかったのかは分からない。

起こった騒動を思い返してみると、捕まえたかっただけなのかもしれない。

でも、捕まった後にあるのは、死のみのような気がしている。


アユカの言葉に、グレコマとエルダーは頭を抱えている。

聖女が来たことは、すでにバレてしまっている。

その上、全員を治すと宣言したところだ。

今から隠すこともできなければ、王宮に戻ることもできない。

そんなことになったら、民衆の不満を買ってでるようなものだからだ。


「顔は分かるっすか?」


「ううん、頭しか見えんかったし、竜笛吹いたら逃げるように去ってたねん」


「人たちって言ったよな? 複数いるんだな」


「3名おったけど、あの場で3名ってことは、もっとおってもおかしくないかも」


「王様か聖女様が来ると思って、機会を狙うためにすでに紛れ込んでいたのか」


「んで、うちは、その人らが憎悪を振り撒いてると思うねん。さっきも暴動を起こさせるために誘導したんちゃうかなぁって」


「アユカの頭の回転が速くなる現象が起きてるっす」


「茶々入れらんと、真剣に考えてや」


「入れたくもなるっすよ。救助活動が暗殺事件になりそうなんすよ。大事になるんすよ」


「うちの護衛騎士なんやから、食い止めてくれたらいいねん」


「それは頑張るっすよ。じゃないと、シャンツァイ様に殺されるっす」


怒り狂ったシャンツァイを想像したのか、エルダーは顔を青くし、震える体を自分自身で抱きしめている。


グレコマは、エルダーの言葉に同意するように頷いているが、とりあえず頷いただけなのだろう。

いつもはエルダーと一緒にふざけても誰かが話を進めてくれるから問題ないが、今は一緒にふざけている場合ではない。

冷静に話しかけてきたことが、その証拠だ。


「さっきボリジ隊長に話したいって言ったのは、そのことなんだな」


「うん、そう。ここでの指揮権はボリジに与えられてるし、もし何かあったら責任問われてまうやん。『何も知りませんでした』やったら流石に可哀想やからさ。それに、何か起こる前に食い止められるかもやしな」


「だったら、今すぐ話をしよう。早い方がいいだろう」


「それも考えたんやけど、もう少し見回ってからの方がいいかと思って。常駐してる騎士の中に敵がおったら困るやん」


グレコマがやるせなさそうに顔を顰め、エルダーはきつく手を握りしめている。

所属が違うとはいえ、同じ主人に仕えている騎士を疑いたくない気持ちは分かる。


「可能性の話をしてるだけで疑ってるわけちゃうから。さっきの陽動みたいに、操られてる人がおったら困るしってことやから」


「その点に関して、一緒に来た騎士たちに問題はないんだな?」


「ないよ。みんな優しい人たちやよ」


「よかったっす」


ドアを軽く叩かれる音が聞こえ、グレコマはアユカとエルダーに向かって頷いた後、盗聴防止の魔道具を片付けた。


アユカたちが話し合いをしている間に、会議の時間になったようだ。

「そろそろ行きましょう」と同行してきた騎士の1人の声が、ドアの向こうから聞こえたのだった。




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