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「グレコマ、エルダー」
「「はい」」
「数時間後に出発だ。3ヶ月は戻ってこれないだろう。家族に連絡はしとけよ」
「「かしこまりました」」
2人は小さく頭を下げると、従務の間を出ていった。
今は、アユカの側にシャンツァイがいる。
護衛の心配はないので、家族に連絡を取りに行ったんだろう。
「アユ、今から可能な限り薬を作ってくれ。全てポーションでいい。奇跡を起こしてこい」
「任せて」
シャンツァイに柔らかく頭を撫でられ、アユカは歯を見せて笑った。
鼻で笑いながらも微笑むシャンツァイに、迷いは感じない。
自分を信じてくれているということに、アユカは頑張ろうと意欲が湧いてくる。
「それと今回、第1騎士隊はつけられない。何かあった時に、俺が動ける体制でなければならないからな」
「何かあった時?」
「どうしても俺が顔を出さないといけない案件が舞い込んでくるかもしれないし、他の街が襲われる可能性もあるからな」
「ふーん、分かった。シャンとリンデンに3ヶ月も会われへんのは寂しいから、マッハで怪我人全員治して帰ってくるわ」
「ああ、速攻で帰ってきてくれ」
優しく微笑んだシャンツァイに、頬を撫でられる。
「陛下。救援部隊は第2騎士隊を予定しておりましたが、そのままでよろしいですか?」
「いいや。第3騎士隊をあてる。マトーネダルでの全指揮権はボリジに委ねよう」
「手配いたします」
モナルダが、文官を呼び指示を始めた。
家族への連絡が終わっただろうエルダーが戻ってきたので、アユカは薬を作るため医局に向かった。
シャンツァイは、モナルダをつれて執務の間に行くそうだ。
そこでしかできない決済や話があるらしい。
アユカが医局に着くと、すでに連絡があったようで王宮にある薬草が掻き集められていた。
出来上がっている薬を鞄に入れている医師もいる。
ゲイムとソレルが、心配そうにアユカを見てきた。
「今日の講習に付き合われへんくってごめんな」
「いいえ、問題ありません。できるなら、ついていきたいくらいです」
「2人には講習と、後は予備の薬作ってもらわなあかんし、医局をまとめてもらわなあかんしな。うちがマトーネダル行ってる間に、他の街に何かあったら頼むな」
「はい。お任せください」
ゲイムとソレルと頷き合ったアユカは、その場で錬成を始めた。
医局にいた全員が、目を見張るのは仕方がない。
医局に来たアユカと一緒に総動員で薬を作ろうと思っていたのに、アユカが1人で次から次へと錬成していくのだから。
第2騎士隊の人たちからの話で小耳に挟む程度、噂程度に、アユカが魔法で解体も料理もしてしまうとは聞いていた。
それに、ゲイムとソレルは貧民街が綺麗になったところを見ている。
だが、薬もとは思っていなかった。
感動を通り越して、跪いてしまいそうになる人が数人いてもおかしくはない。
それほどにアユカの魔法(錬金術)が、神の域のように思えるのだ。
全部、ポーションと毒消しにしたけど問題ないよな。
シャンもポーションでいいって言ってたしな。
毒消しは念のため。毒持ってる魔物がおったかもしれんからな。
「余った薬草は使わへんから片付けといてもらっていい?」
「も、もちろんです」
「ありがとうな。んじゃ、後はよろしく」
手を振って笑顔で去っていくアユカに、ゲイムが祈るように腰を折ると、我に返った宮廷医たちも頭を下げていた。




