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アユカは、エルダーに食料と隔離部屋の用意をお願いした。
去っていくエルダーの背中から、青い顔を俯かせている3名に視線を動かす。
1名が罹っている感染病を『アプザル』で検索してる間ずっと眺めていたが、3名はどうして来てしまったんだろうという後悔をおんぶしているように見えた。
「あのさ、自分らはここに何をしに来たん? リコティカスに必要な薬の勉強に来たんやろ? やのに、なんで全部に否定的なんよ。気合い入れな、講習についていかれへんで」
「我々は宮廷医の見習いでして……」
「見習いばかりなんですか? 薬の調合経験は?」
「練習中の身です。ですので、効果がある薬を作ることが、どれだけ難しいか分かっています。聖女アユカ様の薬は効き目がいいことは知っております。だから、教えてもらえると聞いて自ら手を挙げました」
「私もです」という声が、残りの2名から聞こえる。
「しかし、聖女アユカ様の力をどこまで信じていいものか分かりませんし、すぐに人を殺してしまうというウルティーリ国は恐ろしくて仕方がありません」
「ちょっと待ってや。自分から手を挙げるほどやったのに、なんで信じてくれへんの?」
3人は、気まずそうに顔を合わせている。
「旅立ち前に菌を持ち込んではいけないからと、聖女ユウカ様に治癒魔法を施してもらっているのです。その後は、道中もこのメンバー以外の誰にも会わないようにしてウルティーリ国に入ったのです」
あーね、そうやったんやね。
それは感染してる言われても信じられへんよな。
「そして、その、聖女ユウカ様から、聖女アユカ様は、その……わがままに振る舞うだけの暴力的な人だと聞いておりまして……」
ユウカちゃんよ。ひどいこと言うやん。
うち、何もしてへんやん。
ってか、うちのことはどうでもいいけど、治癒魔法ホンマにしてあげたんか?
「先ほども『殺す』発言がありましたから、調合を失敗したらころさ……ああ! すみません! すみません! 失礼なことを申しました! 許してください!」
「いいよ、いいよ。正直に話してくれてありがとうな」
「え? あの……」
「そんなことで怒らんから安心して」
アユカの曇りない笑顔に、3名はさらに心を乱したようだ。
異様に瞬きをしたり、唇が震えていたり、握りしめていた拳から力が抜けていたりしている。
「今から重要なこと言うで。もし調合に失敗するくらいで処刑するんやったら、今この2人は生きてない」
ゲイムとソレルが、しっかりと頷いて肯定してくれる。
「それに、うちが言うわがままなんて可愛いもんや。お腹が空いたか、どっか行きたいか、デートしたいか、リンデンの筋肉触りたいかのどれかや」
「……きんにく?」
今度は、グレコマとリンデンが頷いている。
「『殺す』発言は国のことを考えてやからしゃーない。ってか、言うただけで殺すわけないやん。無理矢理飲ませたらいいだけなんやから。でも、そういうこともできるって伝えとくべきやろ。それに、ホンマに感染してるんよ。なんで感染してるんかは、うちにも分からんけどな」
「簡単な話だ。馬鹿な女が治癒魔法失敗したんだよ。アンゲロニアから失敗するって聞いてるからな」
見なくても声で誰が来たのか分かる。
「シャン!! 来たらあかんやん! もしもがあったらどうするんよ!」
横を向くと、シャンツァイとクレソンとエルダーが到着していた。
「怒るなって。それに、アユがいれば問題ないだろ」
「そういうことちゃう」
シャンツァイに頭を撫でられると同時に、「失敗……」「先輩たちが話していたことは、本当だったのか」などの声が聞こえてきた。
「失敗に関しては、1人隔離することで証明できるだろう。アユの寛大な処置に感謝するんだな。こんな馬鹿げたこと、俺だったら許してねぇからな」
シャンツァイの睨みに、3名は片膝をついて頭を下げている。
顔は見えないが、血の気はないだろう。
後から知ったことだが、リコティカス国の正式な挨拶の仕方だそうだ。
「アユ、3名とも教えるでいいんだな?」
「悪い人らではないやろうからね。それに、コヴィド病の薬の作り方教えて、めちゃくちゃお金もらおうと思うしな」
「……コヴィド病?」
「うん、リコティカス国を苦しめてるっていう流行り病の名前。綺麗薬で治るみたいやから大丈夫やで」
3名が勢いよく頭を上げているが、顔を輝かせているわけではない。困惑を浮かべている。
綺麗薬を飲んでくれた2名が治ったので綺麗薬で問題ないと分かっていたが、アユカは念のため薬の検索をいていたのだ。
検索にて間違いなく綺麗薬がヒットして、人知れず安堵をしていたのだった。
「そうか。アンゲロニアから、たんまりともらわないとな」
「やね」
翌日隔離した1名が発症し、アユカが作った薬で治ったことで、3名の記号は2重丸に変わったのだった。
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