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息を切らし、ふらつきながらソレルが戻ってきた。
「ぉまたせ、し、ました……」
「ごめんな。ありがとうやで」
ゲイムがソレルから薬を受け取り、リコティカス国の3名に持っていく。
3名のうち2名は素直に受け取ってくれたが、もう1名はゲウムの手にある薬を見つめたままだ。
「あの、本当に感染病を罹っているんでしょうか?」
「は?」
「おおおおまえは何を言ってるんだ!」
リンデンの「は?」とも「あ?」ともとれる声が怖かったのだろう。
3名は、また震え上がっている。
「しししかし、どこも悪くありませんし、食欲もあります。見ただけで分かると言うのはおかしいじゃないですか。
リコティカス国とウルティーリ国は婚約破棄のせいで仲が悪いですし、聖女アユカ様は姫様に嫉妬をしている可能性もありそうですし……だから、講習を受けさせないようにしているんじゃないかと……」
1歩踏み出したリンデンに、3名は縮めた身を寄せ合っている。
「リンデン、落ち着いてや」
「許せない」
「うちのために怒ってくれるんは嬉しいけど、一旦落ち着こ。な?」
アユカの穏やかな笑顔に、リンデンは鼻息荒く息を吐き出した後、腕を組んで3名を見下ろすだけで留めてくれた。
「帰ってもらいましょう」
「そうですね。この人たちに教える必要はありません」
ゲイムとソレルも目くじらを立てて、3人を威嚇し始めた。
グレコマとエルダーに至っては、怒るというより呆れ返っていて、嫌悪感が瞳から滲み出ている。
「まぁまぁ、みんな落ち着こう。病に感染してるって言われたところで疑ってしまうんは仕方がないよ。証明できるもんないしな」
「アユカ、そういうことじゃないっす。アユカは変な女の子っすが、功績は本物っす。そっちの聖女がどれだけ役立たずかは知らないっすが、一緒にするんは間違っているっす」
「そうだな。変だが、救う力は本物だからな。アユカ様の言うことを疑うんなら、効果がいい薬を信じてないのと一緒だからな」
なぁ、2人とも。
庇ってくれるんは嬉しいで。めちゃくちゃ幸せを感じるよ。
でもな、「変」て言う必要どこにあったん?
褒めてくれるだけでいいんやで。
「まままってください! お叱りは受けます! でも、本当に我が国には薬が必要なんです! お願いします!」
失礼な物言いだった青年の頭を、2人の青年が手を添えて下げさせ、3人は深く頭を下げている。
いや、だからさぁ、いつ発症するか分からん感染病を先に治してから話し合いをしたいと思うんよ。
他の人らにうつったら、どうすんのよって話でさ。
はぁ、ここはしゃーないな。
「講習は受けたらいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
「でもな、薬飲んでへんと受けさすことはできひん。他の国からの人らもおるし、王宮で流行ったら困るしな」
「もちろんです! すぐに飲ませます!」
「あ、それはいい。飲まんでいいよ」
「え? どういうことでしょうか?」
そんな疑うように見てこんでもいいのに。
教えを請う姿勢ではないよな。
別に敬ってほしいわけちゃうけど、聖女を信じなさすぎやで。
「うちを信じられへんのはしゃーないよ。やから、その人には体感してもらおう思って」
アユカの真っ直ぐな視線に、薬を飲んでない男性が唾を飲み込んでいる。
「ご飯は用意した上で隔離させてもらうわ。リコティカス国との距離を考えると、数日中に発症するやろうからな。そしたら、うちのこと信じられるやろ」
「監禁ですか? 非道ではありませんか?」
「いやいや、優しい処置やん。本来なら殺さなあかんとこやで」
「こ、殺す……?」
「だって、そうやろ。受け入れ拒否で帰ってもらうにしても、薬飲んでくれんかったら帰り道で発症するやん。そしたら、ウルティーリ国のみんなにうつってまうやん。大惨事になることを許すと思う?」
「い、いいえ」
「やろ。殺さんことを感謝してほしいくらいやわ」




