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涙を舐めとるように目尻にキスをされた。


「うち、もう2度と『なんちゃって』も『もどき』も付けへんし、思わんようにする。うちは大聖女になる。シャンをめちゃくちゃ幸せにするねん」


小さく吹き出したシャンツァイに、軽く抱きしめられる。


「ずっと側にいてくれ」


「当たり前やん。シャンの全部はうちのもんなんやから、勝手にどっか行ったり、不幸になったり、死んだりしたら許さへんから」


「俺の台詞だ」


慈しむようなキスを繰り返しているうちに、いつの間にかベッドに移動をしていて愛を確かめ合っていた。


「お腹空いた……」


「ダメだ」


暴走を始めたシャンツァイを止める術はなく、気力を振り絞って頑張っていたが、とうとう空腹値が限界を迎え、盛大に音が鳴りはじめたのだ。


1週間分の食事は、あらかじめ部屋に用意されている。

ソファの横に置かれている空間収納が施された箱の中に入っていると、説明を受けていた。


「お腹! 空いた!! シャンも食べなあかん!」


「アユを食べていたら問題ない」


「うちが餓死する!」


餓死という言葉が効いたのか、発情期が始まって1日経ったころに、どうにか食事にありつけた。

ただ、ソファで食べている間もシャンツァイからの攻撃は止まず、アユカがシャンツァイの口に無理矢理ご飯を入れるという攻防戦を繰り広げている。

ささやかな休憩を得るためにも、絶対に負けられない戦いだ。


「ここで、うちからの誕生日プレゼントを渡します」


「紙に書いたことを叶えてくれるのか?」


「ちゃう! これ、あげる!」


ソファの下に乱雑に脱ぎ捨てられているアユカの洋服の中から巾着を見つけ出し、取り出したプレゼントをシャンツァイに渡した。


「後で開ける。ご飯はもういいな」


「今、開けて確認してや。シャンが喜ばんかったら紙の願い事をするわ」


「開けにくいことを言うんじゃねぇよ」


眉根を寄せながらプレゼントを開けたシャンツァイは、手のひらの上にパワーストーンを取り出し、まるで奇妙なものの正体を探るような瞳で見ている。


「石?」


「それをな、おでこに当てるねん」


「は?」


「いいから、やってみてよ」


小さく息を吐き出したシャンツァイが、石をおでこに当てた瞬間、石が崩れて砂になった。


見ていたアユカも顔を伸ばしているが、シャンツァイは微動だにしなくなった。

それでも瞳だけは、不審者のように右、左、上、下と動いている。


「シャン、どう? 何か変わった?」


「……これ、どうしたんだ?」


「屋台で見かけたんよ。確信はなかったけど、もしかしたら発情を抑えられるんかもって思ってん。どう?」


「ああ、飢えと苦痛がなくなった。信じらんねぇくらい落ち着いてる」


「ホンマに!? よかったわー。うちがおる言うても、それでも辛いかもしれんやん。それが無くなるんやったらと思ってんよ。シャンに効果ある石でよかったわ。

あ、でも、どれだけの時間、効果あるかは分からんねん。やから、お店にあったやつ全部買っといたよ。シャンに渡しとくな」


アユカがずっと話しているほど、シャンツァイは言葉を発しようとしていない。

ずっと苦しみ続けていた呪縛から解き放たれたことに、心が追いつかないのだ。

アユカが差し出した石を見ているが、受け取ろうともしてくれないでいる。


アユカは1度石を机に置いて、シャンツァイに抱きついた。

ゆっくりと抱きしめ返される。


シャンは気にしてない風に発情期のことを教えてくれたけど、気にせーへんわけないって思ったんよ。

だってやで、別に悪いことしてへんのに、それを悪いみたいに言われ続けてきたんやで。

はじめは不思議に思うくらいでも、だんだんと気にしてしまうもんやと思うねん。


人ってホンマに『普通は』や『大勢と違うこと』があったら、容赦なく非難してくるからさ。

勝手にヒーロー気取りする人も出てくるしな。

放つ言葉たちに、どれだけの殺傷力があるか分かってないんよ。


それらを受け入れてるわけちゃうのに、勝手に心に定着するから、仕方がないって「無」になるしかないもんな。

気にせーへんって言葉で、心の真ん中を守るんよな。


うちが、この世界に来るまでそうやったからさ。

シャンの言葉を借りるわけちゃうけど、この世界に来て心が救われたから。


お返しには全然足りへんから、これからもシャンが幸せになれるように頑張るな。


シャンは、うちが守るよ。

シャンやみんなに降りかかる火の粉は、うちが全部払うし、打ち砕いちゃるねん。


心の決意を表すように、アユカの腕に力がこもった。

シャンツァイが、甘えるように擦り寄ってくる。


「アユは、すでに大聖女だな」


「やったら、大大聖女を目指すわ」


「可愛すぎて発情しそうだ」と笑いながら言うシャンツァイと、甘い時間を過ごしたのだった。


パワーストーンの効果は切れることなく、発情期が終わるまでの期間、甘く穏やかな時間が流れた。

シャンツァイは「ただの休暇になったな」と、おかしそうに笑っていた。


1度だけの効果があるという1度が、生涯で1回でいいのか、1年で1回なのかが分からないため、モナルダと話し合って石を集めるそうだ。


ボソッと呟かれた「愛し合うなら乱暴したくねぇだろうからな」という言葉に、シャンツァイの優しさと本音が詰まっているような気がした。




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