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アユカから贈る誕生日プレゼントがパワーストーン以外見つからないまま、シャンツァイの誕生日前夜祭を迎えた。


キャラウェイと一緒に飾り付けをし、食事はアユカ監修の揚げ物を中心にこしらえてもらい、お酒は麦酒を用意してもらった。


普段のシャンツァイは葡萄酒を嗜むことが多く、麦酒は飲まないそうだ。

だが、「揚げ物にはビールって言ってた」というアユカの記憶から、今宵は麦酒を準備してもらっている。


「……珍しい食べ物ばかりだな」


「美味しいから食べてみて」


カツを1口食べるシャンツァイから、サクッとした小気味いい音が聞こえてくる。


「……美味い。それに、麦酒がすすむ味だ」


「気に入ってもらえてよかったわ。キャラウェイ、うちらも食べよ」


「うん。姉上に聞いてから、僕楽しみにしてたんだ」


キャラウェイもカツを選んで口に運んでいる。

目を丸くして食べている姿が可愛くて、アユカからは笑みが溢れる。


「これらの料理は、アユ発案なのか?」


「発案ていうより、うちがいてた世界では当たり前やった料理やよ」


「そうなのか。他にもあるなら、どんどん言っていいからな」


「ご飯に不満はないからなぁ。また思い出したら言うようにするわ」


「ご飯以外に不満はあるのか?」


「それもないよ」


「なら、よかった」


カツの他にもメンチカツ、コロッケでもクリームコロッケやチーズ入りコロッケ、唐揚げや天ぷらが食卓に並んでいる。

キャラウェイが気に入ったのはフライドポテトで、シャンツァイの食が進んだものはタコの唐揚げのようだ。


甘い物が苦手なシャンツァイのために用意されたデザートは柚子のシャーベットで、誕生日に外せない「おめでとう」のチョコレートプレートはシャーベットに添えてある。

眉間に皺を寄せたシャンツァイは、チョコプレートをキャラウェイのお皿に移していた。


「兄上がくれた」と口元をニマニマさせているキャラウェイを見ながら、アユカはシャーベットを口に運んでいる。

「シャーベットは、たくさん食べた油を中和してくれるんよね。美味しい上に優秀やわー」と、見ているものと一致しないことを思っていた。


食後にキャラウェイからの誕生日プレゼントを受け取ったシャンツァイは、優しい顔で微笑み、キャラウェイを軽く抱きしめていた。



「こんなにも便利な物があるんだな」


キャラウェイと別れ、シャンツァイの自室に来たアユカは、「シャンとリンデンのチュー見た以来やわ」と興味津々に部屋を見渡していた。

前回来た時と内装は何も変わっていないが、彼氏の部屋にお泊まりという状況にアユカは浮かれているのだ。


シャンツァイは、そんなアユカを横目にルーヴェペンの試し書きをしている。


「なんで流行ってないんか不思議よな」


「ああ。書ける文字数は多いし、何より滑らかだ」


アユカは、シャンツァイの試し書きを見ようと、シャンツァイの手元に視線を移した。


「なっなっ! 何書いてるんよ!」


「何って、アユへのお願い事だが?」


「そんなエロい言葉、紙に残したらあかんねん! あかん! あかん! あかーん!」


真っ赤になって叫ぶアユカが相当面白かったのか、シャンツァイは声を出して笑っている。

アユカは、『メファ』を使って紙を燃やし、頬を膨らませた。


「俺の誕生日のはずなんだけどな」


「うっ……で、でも、あんな教育によくない言葉を残したらあかん」


「口で言えばいいのか?」


「そ、それもあかん」


「だったら、どう伝えればいいんだ?」


「そ、それは、え、えっと、分からんけど、あかんもんはあかんねん」


「分かったよ。もうアユには伝わってるはずだからな。今後は残さない」


読んでもたから伝わってるで間違いないけど、うちはオッケーしてへんから。

ああああああんなまぐわう以上のヤラしいことせーへんから。


で、でも、シャンの誕生日やもんな。

婚約者のうちが頑張らなあかんことやしな。

やってあげなくもない。


興味があるのに、素直になれないお年頃である。


「そんなことより」


「俺にはこれ以上のことはないが、なんだ?」


今すぐにでもエロスが爆発しそうなシャンツァイを流すように、小さく咳払いをした。

微かに笑っているシャンツァイがいつも通りで、アユカは平常心を取り戻していく。


「発情期って、日付け変わったら起こるん?」


「いいや。俺の場合は明け方くらいからだな」


「そうなんや。やったら、それまでは眠れるんやね」


「何言ってるんだ? 寝かすわけねぇだろ」


「なっ!」


シャンこそ、何言ってんだーやから!

睡眠なしで、あんな激しいことできるわけないやんか。


アユカの言いたいことが分かるのだろう。

鼻で笑ったシャンツァイは、アユカの手を柔らかく叩いている。

そして、手を繋いできた。


「アユは自分で『なんちゃって聖女』とか『聖女もどき』とか言うが、俺からすれば、俺の聖女はアユだけだ。本物も偽物もない。アユだけが俺の聖女だよ」


うん? うち、別に聖女に憧れないし、聖女って言ってほしいわけちゃうんやけどな。

真面目やのに甘いシャンの言葉に、心が動かへんこともあるんやな。


「俺は、今まで人生で楽しいと思ったことがなかったんだ。ただ生きているだけ。王子だからという理由で、国をよくしたら生きる理由になるんじゃないかと思ってた。国王になったのは、腐った大人たちを見ることに嫌気がさしていたという理由もあるがな。


と言いながらも、生きる理由が欲しいわけじゃなかった。ただ生きていることが暇なだけだったんだよ。


だから、心のどこかで、国がよくならなくていいとも、いつ死んでもいいとも思っていた。


でも、アユが来てからは毎日が楽しいと思えてる。生きようと思えてる。

アユは、俺を呪いから救っただけじゃなく、死んでた心も救ってくれたんだよ。だから、間違いなく俺の聖女はアユなんだ」


心動かされたー!

愛おしそうに見つめながら、そんなん言われたら泣いてまうやん。




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