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「あそこが、屋台では最後っぽいな」


グレコマに言われ、思考が買い物に戻ってきた。


南から北に向かって移動している西側の大通りは、もうすぐ終了になる。

西側の大通りで見つからなかったら、休憩を挟んで中央の大通りに引き返す予定だ。


「いらっしゃいませー」


元気よく迎えてくれたのは、ほどよく日焼けをしている若い女性だった。


並んでいる商品はルーヴェ細工のようで、宝石のように煌めいている。

宝石だと言われれば、目利きできない人は騙されるかもしれない。それほどまでに巧みな品々だ。


ルーヴェとは、こちらの世界のガラスにあたる名称になる。


「めっちゃ綺麗!」


「ありがとうございます。可愛いお嬢さんにはバレッタなんていかがですか?」


赤と黄緑と紫と透明の小さなルーヴェが散りばめられているバレッタを指された。


「可愛い! これ、プレゼント用にってできる?」


「もちろんです」


女性は笑顔で頷いて、バレッタを包みはじめてくれた。


「姉上……まさか兄上にですか?」


アユカは、小さく吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。

アユカと同じように、バレッタを着けたシャンツァイを想像しただろうグレコマたちも笑っている。


「ちゃうよ。チコリにあげようと思ってん。きっと似合うと思うんよ」


「待つっす! そういうことなら俺が買うっす!」


「嫌やよ。もううちが買ったんやもん。悔しいならエルダーも何か買えばいいやん。他にも可愛いもの多いで」


ガラス細工を真剣な表情で見はじめたエルダーを見て、他の騎士たちもパートナーにと思ったのか、商品を選びはじめた。

グレコマは、早々に緑色のルーヴェがぶら下がっているイヤリングを購入していた。


「みなさん、ありがとうございます!」


忙しなく手を動かしながら喜んでいる女性の視線が、残念そうに眉尻を下げているキャラウェイに向いた。


「僕の欲しいものはなかったか。何か希望があるなら、今度来てくれるまでに仕入れとくよ」


「ありがとう。でも、欲しいのは羽ペンなんだ」


「あ! それなら、高くて売れ残ってしまった物があるんだけど、どうかな? 少しだけなら安くできるよ」


思い付いたように手を1回叩いた女性は、空間収納が施されているだろうボストンバックに手を突っ込んでいる。


数秒後、女性が取り出したのは、銀色の粉が混ざっているルーヴェの棒だった。

尖ってる先から丸みを帯びた螺旋が2センチほど続いている。


「これね、ペンなんだよ。羽ペンより長く書けるの」


「ペンなの?」


アユカは、戸惑っているキャラウェイや疑うように女性を見ているグレコマたちを見て、首を傾げた。


「どうしたん? ガラスペン、めっちゃいいやん。うち、何本か持ってたで」


「「え!?」」


「姉上、これがペンだって分かるんですか?」


「分かるよ。この渦巻いてるところがインクを吸い上げるんよ」


「そうなんです! 売り物だから試せなくて、誰にも信用してもらえなかったんです。あなたが知ってくれていて本当に嬉しいです」


「そうなん? でもさ、これやったら書類仕事してる人ら欲しがるんちゃうの? 羽ペン書きづらいやん」


フォーンシヴィで1度、羽ペンを経験しているアユカの感想だ。


「それが、中央にお店を構えられたら違ったのかもしれませんが、みんなに高すぎると言われまして。革命だと思ったんですけどね。という私も、高くて1本しか仕入れできなかったんです」


「いくらなん?」


「20000ベイです」


たっか!

いや、前の世界で、うちが持ってた1番高いのは3万ほどしたからな。

おこしやす地域の職人さんのガラスペンは、高校の入学祝いでもらったんよね。

安いものやったら、100円均一にあったしな。


「姉上、買わない方がいいの?」


うん? 難しそうな顔してもてたんかな。

ってか、店主さんやい。そんな祈るような顔で見んとって。


「どっちでもいいと思うで。ガラスペンが便利で有能なんは本当やから、キャラウェイがどうしたいかやよ」


「兄上、喜んでくれるかな?」


「それは間違いなく喜んでくれるよ」


キャラウェイから貰えるんやったら、河原の石でも……いや、それはないか。

でも、ガラスペンは絶対喜ぶと思うよ。


「買います。プレゼント用に包んでください」


「ありがとうございます! 1000ベイ値引きをして、インクはサービスでお付けしますね。それと大変申し訳ありませんが、ペンの名前はガラスペンではなくルーヴェペンになります」


そうやった。ガラスちゃうんやった。ガラスもどきなんやった。

この世界の人からしたら、ガラスがルーヴェもどきなんやろうけど。


「ごめんごめん」


軽く謝ると、女性は首を横に振っている。


ルーヴェペンの包装が終わり、お礼を伝えて去ろうとした時に「この国に来ていただきまして、本当にありがとうございます」と、深く頭を下げられた。


気づきながらも騒がずにいてくれたことに感謝し、「また来るな」と言って、その場を後にしたのだった。


グレコマ曰く「キャラウェイ殿下の名前を出したし、兄上のプレゼントだから、そこから気づいたんだろう」とのことだった。




いいねやブックマーク登録、誤字報告、ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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