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王都にある貧民街を訪れていたので、帰路にかかる時間はあっという間だった。
ルベウス城のエントランス前に降り、リンデンたちの獣馬3頭は騎士たちが馬小屋に繋ぎに行ってくれるそうだ。
執務室に着くと、モナルダも待ってくれていた。
「アユ、お疲れ様。お腹空いてないのか?」
「めっちゃ空いてる。でも、先にお願いがあるねん」
「なんだ?」
「隠密部隊っておるんやでな?」
「……いるぞ。それがどうした?」
「つけてほしい子たちがおるねん」
「アユの帰りが遅くなった原因の子供か?」
「うん、そう」
「……理由は?」
「うーん、なんとなく。どういう訳か気になるねん」
「普通に騎士をつけるじゃだめなのか?」
「うん、誰にもバレずに見守ってほしいんよ。それと可能なら、その子らがおった孤児院を調べてほしい。んで、うちを送り込んでほしい」
アユカは、チャービルが帰ってくるまでに、アーティから聞いた内容を話した。
はじめは、たくさんの子供と住んでいたこと。
夜眠って起きた時には馬車の中だったこと。
そこで、アーティはチャービルと会ったこと。
チャービルが「逃げよう」と言って、大きな屋敷から逃げたこと。
「なるほど」
「たぶんやけど、孤児院が子供を違法な手続きで売ってるんやと思うねん。2度と孤児院には行きたくないみたいやったし」
「調べてみよう」
売られているのは、奴隷としてとは言わなかった。
ここまで話せば言っているようなものだが、アユカが分かっていて伝えるのはおかしいからだ。
すでに「見ただけで分かるんだろうな」と思われているとしてもだ。
それでも、聞かずにはいられないことがある。
「なぁ、シャン。この世界に奴隷は普通なん?」
「いいや。どの国も禁止しているはずだ」
「そっか。なら、いいわ」
「お願い事はもうないのか?」
「うん、ないよ」
ソファから腰を上げたアユカを見送ろうと、シャンツァイも立ち上がった。
「もう少しで仕事終わる?」
「そうだな。後30分くらいだろう」
「んじゃ、ご飯待ってるから一緒に食べよ」
「分かった」
ドア前でアユカの頬を撫でたシャンツァイに、グレコマとエルダーは小さく頭を下げ、3人はロッククリスタル宮殿に向かって去っていく。
シャンツァイはソファに戻り、リンデンを見た。
「リンデン、説明しろ」
リンデンは、見たままのことを話しはじめた。
シャンツァイは、相槌もせず静かに聞いている。
「アユのデタラメな魔法は置いておくとして、奴隷で間違いねぇのか?」
「間違いないだろう。アユカ殿が怪我を治した時に、少女が服を捲ってアユカ殿にお腹を見せたんだ。俺は背中側にいたからな。背中に奴隷の刻印があった」
「アユカ様の薬でも消えないのですね」
「何をしても消えない印だったか……模様覚えているか?」
「見えた半分なら分かるぞ」
リンデンは、シャンツァイの執務机で立ったまま紙に模様を書いた。
モナルダが紙を取り、シャンツァイに渡している。
クレソンは、シャンツァイの後ろから覗き見ている。
「子供の足で逃げるなら、そこまで遠い屋敷じゃないだろうな」
「ええ。非常に残念ですが、我が国で起こっていることでしょうね」
「まだ膿が残っているのか」
「負の遺産と願いたいですが現在進行形かもしれません。今まで見たことがない刻印のようですから」
シャンツァイが、ため息を吐きながら紙を机に置いた。
「この子供たちに影をつけるねぇ。奴隷以外に奇妙に思う点はなかったか?」
「兄の方が、子供の割に礼儀正しかったな」
「そうか。アユが気にするくらいだから何かあるんだろう。鬼が出るか蛇が出るか……いいことではねぇだろうな」
疲れたように言うシャンツァイの言葉に、モナルダたち3人は頷いたのだった。
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