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騎士の1人に「戻りは遅くなる」と、広場に残っている騎士と王宮に伝えに帰ってもらうことになった。

宮廷医の2人も先に戻ってもらうことにし、アユカはリンデンの獣馬で帰ることにした。


アユカはアーティと「アーティがどんな暮らしをしてきたのか」の話を雑談しながら聞き、アーティの兄が帰ってくるのを待っていた。


アーティの頭が船を漕ぎ出す頃、1人の少年の声が外から聞こえてきた。


「なんだ! お前ら! 家に何の用だ!」


家が小さくて全員入ると満員電車状態になるので、アユカとリンデン以外は外での待機となっていた。

グレコマやエルダーにも、外で控えてもらっている。


「お兄ちゃんなのです!」


寝かかっていたアーティが元気よく起き上がり、外に駆け出していった。


アユカとリンデンがゆっくりと外に出ると、ちょうどアーティが黄色い髪の猫に似た少年に抱きついているところだった。


「おかえりです!」


「アーティ、無事でよかった」


あの子がお兄ちゃんか。


少年を『アプザル』したアユカは、心の中で首を傾げることになる。


9歳の少年が、こんな時間まで働いてたとは。

何の仕事してるんやろか。胸が痛なるわ。

んで、この子も奴隷……ん?


カッコ付きの髑髏?

うちをまだ誰かって分かってなさそうな子やのに、髑髏マークってどういうこと?

しかも(ドクロ)って、なんじゃらほい。


「お兄ちゃん、ご飯あるですよ」


「ご飯? そういえば、今日は聖女様が来るって街の人が言ってたな」


「聖女様……」と呟いた少年が、勢いよく顔を上げ、アユカやリンデンたちを見回して顔を青ざめている。


「すすすみませんでした! しし失礼なことを言いました!」


「気にせんでいいよ。遅くまでお疲れ様。疲れてるやろ? 中でゆっくり話そ」


「え? は、はい」


困惑している少年と楽しそうなアーティと一緒に、家の中に戻った。

先ほどと同じようにリンデンだけが家の中についてくる。


もらった食べ物を見せているアーティを、少年は優しい顔で見ている。


「うち、この国の聖女でアユカっていうねん。なぁ、名前聞いてもいい?」


「はいっ! 僕はチャービルっていいます。ご飯をくださってありがとうございます」


頭を下げるチャービルを見て、アーティも頭を下げている。


「どういたしまして。んでな、アーティからチャービルが怪我してるって聞いてん。治したいんやけど、背中見せてもらっていい?」


「いえ、僕の怪我は治ってます。跡が残っているだけなんです。でも、ありがとうございます!」


もう1度頭を下げるチャービルに、アユカの思考はこんがらがっていく。


わざわざ「この国の聖女」「アユカ」と両方名乗ったのに、チャービルの態度に変化はない。

カッコ付き髑髏から何も変わらない。

トックリランの髑髏と、チャービルのカッコ付き髑髏の差が分からない。


「傷跡なんか。試したことないけど、消えるかどうかやってみよか?」


「していただかなくていいです。僕は大丈夫です」


「そう? ってかさ、子供2人で住んでるってアーティから聞いてんけど、孤児院に行かへんの?」


「行かないです。2人でやっていけます」


わずかに瞳に鋭さが宿ったが、アユカは気づかないふりをした。


「そっか。もし、困ったことがあったら王宮においで。王宮の場所は分かるやんな?」


「あ、あの、 はい。でも、どうして?」


「うーん、2人とも優しい子やからかな。それに、偶然やとしても知り合いになったからやね」


「そんな理由で?」


「十分やん。今日ここに来ーへんかったら、2人には会えてへんのやから」


アユカは2人に近づき、それぞれの頭を撫でた。


「そろそろ帰るわな」


「ありがとです」


「ありがとうございます」


微笑んだアユカは手を振って、リンデンと家の外に出た。


アーティの家は、街と雑草が生い茂る空き地の境目。

騎士たちが、家の前まで獣馬を移動させてくれていた。


リンデンに手伝ってもらい獣馬に乗ると、獣馬はすぐに空に向かって駆けていく。

宮廷医たちが帰るのに馬車を使ったので、小回りがきく獣馬だけになったのだ。


「なぁ、リンデン。戻ったら、すぐにシャンにお願い事があるんやけど」


「報告しに行くから、一緒に来ればいい」


「うん、そやね」




12時にもう1話投稿します。

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