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リンデンがグレコマとエルダーに視線を投げかけると、2人は直ちにアユカの傍に戻ってきた。
食べ終わった人たちで体調がおかしいと思う人に並んでもらい、アユカが『アプザル』で状態を確認していく。
アユカの診断結果を元に、薬はゲウムとソレルが渡してくれる。
ご飯と一緒に栄養ドリンクを渡していたおかげで、体調不良を申し出る人は少なく、広場での診察は滞りなく終わった。
後は、広場に来ることができない人たちの家に訪問をして治すだけだ。
食事を配る要員の騎士を3名だけ残し、アユカたちは街を練り歩くことにした。
「動けない人がいる場合、家の前で声をかけてほしい」と、グレコマの風魔法で声を飛ばしてもらいながら移動をする。
声をかけられ病人をアプザルすると、風邪が悪化して肺炎になっただろう人が多かった。
手持ちの薬では治せないこういう人たちを、どう治すかというと……ポーションを使用することになる。
しかし、ポーションはアユカにしか作れない代物。
実は、「別に教えてもいいんちゃん? そしたら争う理由にやらんやろ」と思っていたアユカだったが、ポーションやハイポーション、エーテルに関しては作り方が表示されないのだ。
講習会前にモナルダに「ポーションの作り方を残さないでください」と注意されたことがあったが、そもそも残せないのだ。
だから、薬の調合方法の冊子を錬成した際に省かれていたのだろう。
難病の薬に関しては、作り方が表記されるが2個の作り方が混ざっているので、アユカが見ても難病の薬としてしか分からないのだ。
アユカが見ても理解できないものを、他の者が気づけるわけがない。
今回、ポーションの使用は当初から視野に入っている。
シャンツァイとモナルダは「とうとうバレるのか」と危惧していたが、アユカは「演出でポーションを治癒魔法に偽造できないか」と必死に考えを巡らせ、答えを導き出したのだ。
うちが使える空間収納は、どこからでも使用できる。
ってことは、手から霧みたいに出せたら治癒魔法に見えるんちゃん!
その考えに至ったアユカは、乾燥の『ドラグ』で起こる風を利用して、水を使い密かに練習をしていた。
といっても、昨日1日の練習だが。
グレコマやエルダーに白い目で見られながらも頑張ったおかげで、手から霧を出す方法を会得していたのだ。
例に漏れず、グレコマによって報告されていて、夜にシャンツァイに尋ねられていた。
「手から出せるようになったねん」としか説明しないアユカの鼻を、シャンツァイは強く摘んだのだった。
アユカは「見せ場だ!」と鼻高々にポーションを手から霧にして噴出し、治癒魔法に見せかけ、病人を治していく。
奇跡の1日は、貧民街の住民の心を強くしてくれたことだろう。
涙を流しながら笑ってくれる人々に、アユカたちはピースをしながら笑顔を返していた。
「予定よりも遅くなったな」
「早く帰るっす」
「あ、待って。寄りたいところあるねん」
アユカの言葉に、グレコマたちはリンデンを見やる。
リンデンは、心配そうにアユカを見ていた。
「疲れてないか?」
「ちょっと疲れてるけど、寄りたい場所は1箇所やから問題ないよ」
「そうか」
リンデンが了承したことで、誰も進言や異議を申し立ててこない。
アユカの進む方へ、一同歩みを進めていく。
「アユカ、どこに行きたいっすか?」
「うちが広場で会話した女の子分かる?」
「見てたっす」
「その子の家」
「どうしてだ?」
「んー、ちょっと気になるんよ」
アユカは、ほとんど言葉を濁して話したことはない。
濁したとしても、2回・3回聞けば答えてくれる。
アーティについて尋ねたのは、これが2回目になる。
となると、何も言いたくないということなのだろう。
ハッキリと言わない理由は分からないが、気を引き締めておく必要があると、グレコマたちは視線だけを合わせていた。
12時にもう1話投稿いたします。




