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アユカが行う慈善活動の初日が、幕を開けた。


朝から一緒に行く相手がシャンツァイかリンデンかで揉めていたが、モナルダの怒り具合をアユカが恐れ、シャンツァイをモナルダに差し出すことで事なきを得ていた。


今日訪れる貧民街は、王都の外れにある。

時代の流れの中で、いつの間にか貧民街になってしまっていたそうだ。


アユカは宮廷医2名と馬車に乗っていて、リンデンはもちろんグレコマやエルダーの他に第1騎士隊から10名が獣馬に乗って護衛をしてくれている。


同行してくれる宮廷医は、眉が長いおじいちゃん医師のゲウムと、伊達眼鏡をかけている女性のソレルになる。

2人は親子だそうで、2人ともアライグマに似ている。

アユカが薬の調合を指南している人たちなので、気心知れた仲の2人である。


「うち、ホンマに不思議なんやけどさ」


「どうされました?」


「なんで貧民街って薄汚れてるんやろか?」


貧民街にある広場に到着したアユカの感想だ。


「たしかに、どんよりしている雰囲気ではありますね」


掲示板で知らせてはいたが、貧民街の人たちは掲示板を見ないのだろうか。

貧民街に降りたったアユカたち一向を、怪訝そうに遠巻きに眺めている。


「思ってたよりも住んでる人、多そうやね」


「ここら一帯は、空き家になった家に破格の値段で住める地域になっているっすよ。行き場のなくなった人たちが共同生活をしている家も多いらしいっす」


「冒険者になって日銭を稼いでいる人もいるだろうが、大体は今日食べる物にも苦労する人たちだろう」


「冒険者だとしても、ランクが上じゃないと意外に稼げないっすからね」


「怪我がついて回るしな」


アユカは、遠巻きに見ている人たちを見回してから、小さく頷いた。


「うちが一気に街を綺麗にするから、グレコマたちはその間に住民たちを外に誘導しといてほしいねん」


「待て。一気に綺麗にするって、どういうことだ?」


「魔法やよ」


「ま、ほう?」


アユカが使える生活魔法の中に、掃除の『リーグ』が存在する。

だが、チコリをはじめメイドたちが掃除をしてくれるので、アユカは使ったことがない。

グレコマたちが久々に驚くのも無理はないのだ。


「大丈夫やって。シャンは知ってるから」


シャンツァイと初めて会った直後に、アユカが使える魔法については話していた。

シャンツァイなら、きっと覚えているだろう。


「本当だな?」


「本当やって」


なんで1回は疑ってかかってくるんやろ。

そろそろ、うちは嘘を吐かへんて分かってほしいわ。


「家の人を外に出す時なんやけど、家の窓やドアは全部開けてほしいって伝えといて。

んで、リンデンは獣馬で、うちを空に運んでほしいねん。空からの方が綺麗にできる範囲広そうやん」


「分かった」


「リンデン隊長と2人乗りかー」「俺らが怒られるっすか?」という声を聞き流しながら、リンデンの獣馬に乗って貧民街の空中に連れて行ってもらった。


「広いが魔力は大丈夫か?」


「きっと大丈夫やよ。それに、炊き出しや怪我人の治療は、綺麗になってからの方が気持ちいいやん」


「そうだな。でも、無理はするなよ」


アユカが振り向いて笑顔で頷くと、リンデンは薄く微笑んでくれた。


アユカは、獣馬の首を挟むように両手を突き出し、顔を横にズラしてから『リーグ』と唱える。


魔法が窓やドアから家の中に入って、まるっと全部綺麗になりますように。


アユカが丸を描くように視線を動かすと、視界に入る一帯が淡く光っていく。


リンデンからは月のきらめく光が暗闇を照らしているような幻想的な景色に見え、グレコマたちや住民たちは夢幻的な世界に迷い込んでしまった感覚だった。


魔力が、ものすごい勢いで減ってくやん。

他の生活魔法は一瞬で終わるのに、何分かかんの?


いつもは2秒とかからない生活魔法だ。

グレコマたちも「珍しく長いな」と、アユカが心配になっていく。


実際は3分ほどだったが、アユカたちにとっては10分くらいに感じていただろう。

淡い光が消え、掃除が終わったことが分かった。

街からは歓声が上がっている。




12時にもう1話投稿します。

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