120 〜 モエカ 1 〜
なんなのよ、なんなのよ。なんなのよー!
本当に一体どうしてこんなことになっているのよ。
会議が終わり、モエカはメイドたちを下がらせ、部屋で1人悶々と考え事をしている。
憂虜を払拭するために挑んだ会議だったのに、逆に危惧する種を植えつけられたのだ。
どうしてアユカばかりが持て囃されるの?
さっきの会議でも、結局はお金を払っての勉強会になったし、瘴気を消すには風魔法と組み合わせるといいとか役立つこと言うしさ。
しかも、それをすでにホノカが検証して成功してるとか、意見する隙なかったじゃない。
そもそも召喚の時からおかしいのよ。
フォーンシヴィの聖女は私なのに、キアノティス様は忙しいからって朝のお迎えがなかったのよ。
それなのに、アユカと一緒に朝食会場に来たし、アユカを気遣ったり、アユカに笑いかけたり。
おまけに最後は抱きしめたりしてさ。
私を抱きしめてくれたことなんて、1度も無いのに。
瘴気の浄化の時だけ怖いからってお願いして、手を繋いでもらうだけなのよ。
聖女って、もっとヒロインじゃないの?
トップに現れて、どこよりも大きな国の聖女である私が、誰よりも優れているもんでしょ!
もう! 絶対そうだと思ったのにー!
小説のヒロインたちみたいに何をしても成功すると思って、か弱くて一生懸命で慈悲深く見えるように行動してたのに。
失敗だよね! 失敗になるんだよね!
ああ! どうしよう!
私が悪いのは分かってるけど、ホノカのせいで嘘がバレそうになってるのも問題なのよ。
どうして急にあんなこと言い出すのよ。
わざとなのかな?
わざとだったら、相当性格歪んでることになるよ。
私、ちゃんとはじめは断ってたのよ。
でも、トックリランが民には心の拠り所が必要って言ってくるから、みんなのためになるならってやることになっただけで。
確かに、ちょっと気が大きくなってたとは思うけど。
そこは反省しようと思うわ。
私に話を持ちかけたトックリランは、反逆企ててたらしく殺されてるしさ。
謀反なんて怖いこと計画してたなんて知らなくて、資金調達のために私は利用されていたって、グンネラに教えられて血の気が引いたよね。
クテナンテ様やペペロミア様のことを、何も知らなくてよかったよ。
メイドが何回かお願いをしにきたらしいけど、本当に知らないのよね。
私の耳に入る前に、トックリランか私付きのメイドに断られてたんだと思うのよ。
だから、これに関してはアユカとホノカには感謝してるわ。
もし、死んでしまってたら、私が利用されただけだとしても、法律を盾にして皇后側の人間に処刑されただろうし。
いくらキアノティス様が助けようとしてくれたとしても、法律には勝てないと思うもの。
派閥に関しても、何のこと? 状態なのよね。
唯一納得したことは、ここ数ヶ月で親切にしてくれる人と親切じゃない人に分かれたのは、知らない間にできてた派閥のせいなんだろうってことよ。
別に、私はクテナンテ様と争うつもりなかったんだけどな。
周りが勝手に争っているだけで、とんだとばっちりだよ。
だって、私は聖女なのよ。
この世界で1番の美人だと思うしね。
聖女と王様か王子様の恋って鉄板でしょ。
そう思ってたから、争うとか想像してなかったよ。
選ばれるのは、私なんだから。
キアノティス様だって、私に気があるって分かるほど優しいしさ。
手を出してこないのは、キアノティス様が誠実な証拠だろうし、実は好きな人にほど何もできない照れ屋さんってことだと思うの。
だから、クテナンテ様が姿を見せないのは離婚の話が難航していて、キアノティス様と不仲になったからだと思ってたんだよね。
実際、そういう噂も流れてたし。
不仲を晒したくなくての仮病だと思ってたしね。
仮病だとしても、何かしら贈った方が聖女としての印象がいいかなと思ってお香を贈っただけだし。
そのお香に問題があるとは知らなかったけど。




