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「うちが教えて、調剤師や宮廷医の人たちが作ってくれてるねん。さすがにうち1人では販売する量は無理やから」
「では、アユカ様。その知識を教えてくれないかな。リコティカスの民を救えるかもしれない」
ん? めちゃくちゃ切羽詰まってる顔されてるんやけど。
なんかあるんかな?
「ア、アユカ。意地悪しないで教えて」
「意地悪してへんし、教えへんとも言うてないやん」
「ご、ごめん。だから、そんな風に言わないで」
そんな辛そうな顔されてもなんやけど。
ユウカを虐めてへんのに、虐められてます感出されるとモヤっとするわ。
「アユカ、教えてくれるのか?」
モヤっとは気にせんとこ。
どうせ、また会わへんようになるんやし。
今は会議中やしな。
キアノティスの言葉に気持ちを後回しにすることにし、考えていることを伝えることにした。
「んー、シャンとモナルダに相談してへんから、モナルダは怒りそうやけどいいよ」
隣から、笑いを堪えるような声が聞こえた。
「好きにしろ」と言ってもらえてる気がして安心する。
「本当によろしいんですか?」
「うん。でも、各国から3人ずつくらいウルティーリに来てもらって、教えるんはウルティーリの宮廷医の人たちな。それに、滞在費や教材費、研修代とかもらうで。しかも、来てもらった代表者に本当に教えるんかどうかは、お城に来てもらった時に決める。少しでも怪しかったり、ウルティーリをバカする素振りを見せたら教えへん。それでいいんやったら、いくらでも作り方教えるよ」
「お金取る気? 意地汚いと思わないの?」
「モエカ様!」
おお、グンネラの注意する声は怖くないと。
堂々としててスゴいわ。
でもな、本気で怒られたら、うちら聖女なんて片腕で殺されると思うで。気をつけや。
「お金取るよ。当たり前やん。本来ならウルティーリから薬を輸出していいんやから。うちは、ずっと買い続けるよりは、勉強代払った方が他の国的にもいいと思ったんよね。習った人が自国に帰ったら自由に教えたらいいんやしさ」
まぁ、この考えの裏側には、偽物が出回るのを防ぐためってのがあるし、シャンが言ってた輸出できる量がないっていう解決策でもあるんやけどね。
薬1種類につきいくらっていう、研修代もらったほうがいいんちゃうかなぁって。
「聖女の知識なのよ。共有するものでしょう」
「知識も財産やんか。それに、教える宮廷医たちの時間を奪うのと一緒なんかやら、賃金は発生するやん」
「アユカが教えればいいじゃない。面倒事を押し付けようとしているんでしょ」
「ちゃうよ。うちは帰国したら予定が詰まってるねん。勉強会してる余裕がないんよ」
モエカと応酬をしていると、ユウカも加わってきた。
「じ、時間は作るものだよ。お金を取るのも押し付けるのもよくないよ」
「そうやね。時間は作るものやと思うよ。でもな、時間が作れたんならウルティーリのために使うよ。うちはウルティーリの聖女やからな。まぁ、数年後とかなら全部の問題解決してるやろうから、教えるんはそん時でいいか」
「アユカ、待ってくれ! 俺としては今すぐに教えてほしい。宮廷医たちの時間を金で買おう」
おっっっ金持ち発言! さすがキアノティス様。
時間を金で買う。大人な発想やわー。
いつか言うてみよ。
「今、みんなの前で作り方を言えばいいじゃない」
「モエカ、薬だぞ。きちんと教えてもらうべきものだ」
「でも、聖女の知識を売るなんて、やっぱりおかしいわよ」
「あのー」
遠慮がちだけどハッキリとした声が聞こえて、視線が集中した。
笑顔のホノカが、モエカを見ている。
「ねぇ、モエカ。モエカは、どんな知識だとしても惜しむことなく教えてくれるってことよね」
「ええ、そうよ。私はアユカみたいに性格悪くないもの」
「じゃあ、教えてほしいんだけど、聖水ってどうやって作るの? 祝福は魔法なの?」
「聖水は祈れば作れるわよ。後、祝福はデテメル様が特別にくださった魔法よ。だから、教えることはできないわ」
「いいなぁ。私も神様と話せばよかった。あれ? でも……」
ホノカの悩んだような顔を、モエカは不思議そうに見ている。
「アユカが遅かったのは、薬の話をしていたからでしょ。でも、モエカって1番目に現れたんだよね。そんな話する時間あったの? 私、本当に説明しかされてないんだよ。なのに、3番目だったんだよねぇ。変なの」
こっわ!
ホノカも笑顔で怒るタイプなんやわ! 絶対そうや!
何に怒ってるんかは知らんけど、めちゃ怒ってるってことやろ。
笑いながら怒る人って、口角の上がり具合エグいねん。
今、めちゃくちゃ上がってるもん。
「そぅ言われればそうね。ぉかしいわね」
ほら、モエカも声裏がってもたやん。
ホノカが怖いんか、後ろめたい何かがあるんか分からんけど。
まぁでも、両方やろうな。
聖水も祝福もさっきの言葉も、全て嘘なんやろね。
「あ! 今、私に祝福もらえる? ほしい」
「ぃいわよ」
「ホノカは何がしたいんやろ?」と思いながら見ていたら、一瞬ホノカに視線を送られた。
「見といてね」と言われたような気がして、咄嗟に『アプザル』をかけた。
モエカの隣まで移動したホノカに、モエカは両手を組んで目を閉じながら「ブレス」と呟いている。
ん? 英語で祝福する?
英語呪文って、お初やわ。
ってか、いや、まぁ、ごめん。ホノカ。
今は何も表示されんかったけど、魔法を鑑定できるかどうかは分からんねん。
したことないからさ。ごめんやで。
「もういいよ」
「嬉しい。ありがとう。でも、何も変わった感じしないんだね」
笑顔のホノカは、イフェイオンの隣に戻っている。
そして、戸惑っていると分かる顔をモエカがしていた。
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