表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/209

11

こんなことやってる場合ちゃう。

トイレー! 誰に言えばいい?


本来なら同じ女性のマツリカに言いたいが、極力関わりたくない。

誰に聞こうかと悩んでいる間に限界が近づいてきて、近くにいたフラックスに声をかけた。


「それならば、この紙の上で済ませることになります。匂いはせず、最後に紙を燃やせば、跡形もなく無くなります」


呪文や記号、数字が描かれている1枚の紙を見せながら説明された。


「分かった! ありがとう! 1枚もらうな」


ひったくるように紙をもらい、林の中へ駆けていく。

アユカには、悠長に話している時間はないのだ。

説明されている間も、右足を左足に引っかけて我慢していたのだから。


「聖女様! 誰か護衛を!!」


「大丈夫!」


ついてこられる方が恥ずかしいから。


用を足していると分からない場所まで走り、急いで済ませた。

体から力が抜け、その分を補うように歓喜が満ちていく。


「漏らさんでよかった。火つけたらいいんよな」


『メファ』と唱えて、火をつけた。

料理をするために薪に火をつけたりする用だろうが、火は火なので、使えることが本当にありがたかった。


『クレネス』を使った時も光った気がしたけど、気のせいちゃうかってんな。

魔法使ったら、ハムちゃんの印の鳥が薄く光るんやわ。


すでに光っていない手の甲を確かめてから、紙が無くなった地面に視線を落とす。


「これ、火魔法使われへん子、どうすんやろ。慣れるまで地獄ちゃう」


この世界の少女たちを不憫に思いながら、戻ろうと足を踏み出そうとした時、草むらがすれ動いた音がした。


警戒しながら目を凝らしていると、ゲームや漫画でお馴染みの水色や青色の生き物、スライムが跳ねるように草の中から現れた。


「スライムやん! マジで異世界やー! すごすぎる!」


感激して小さく拍手をするが、何かがおかしいと気づいた。

四方八方、色んなところから音がする。


え? 囲まれてない?

1匹なら感動もんやったけど、さすがにこれは気持ち悪いわ。


未知の生き物だが怖いと思う要素はなく、恐怖心など湧いてこない。


倒せばいいだけやと思うけど、どう倒せばいいんやろ?

殴ってみる? 踏んでみる?

踏む方が効果ありそうやな。

でもなぁ、害はなさそうやから倒すんもなぁ。


とりあえず、鑑定してみよ。

きっと魔物も何かしら表示されるやろ。


『アプザル』っと。

うわっ! 画面、めっちゃ出てきた!

スライムさんやい。こんな大勢で何しに来ましたの?


って、なるほどなぁ。

頭っぽい場所を射抜けば、溶けて蒸発するんやね。


後は、薬瓶作れるって書いてる。

そっか。ポーションとか作っても、入れ物ないとあかんもんな。

スライムに会えてラッキーやん。

ずっと使ってみたかった錬金術、使わせていただきます!


大袈裟に両手を前に突き出し、錬金術の呪文『ケルミーア』を唱える。


すると、スライムを囲うように、地面に魔法陣が浮かび上がった。

外円と内円の間に古代文字が連なり、内円の中はバコパ・コピアの花が描かれている。

外円から白い光が上空に伸び、ドームを形成する。


ハムスターから教えてもらった錬成を失敗させない方法は、錬成するモノの文字を正確に頭の中に思い浮かべること。

そして、必要量の魔力を込めること。

欲しいモノや作る量によって、必要な魔力量は違うとのことだった。


ドームにヒビが入り、砕け散ったら錬成終了になる。


想像するじゃなくてよかったと、本当に思う。

知らないモノは想像しにくいし、知っていてもあやふやな記憶もあるから。


砕け散ったドームの中には、薬瓶が3個あった。


続けて、何匹も同時にできるか試してみる。

成功し、今度は見える範囲にいるスライムに、一気に錬金術をかけられるかを試みる。

逃げるように跳ねているスライムには、空中に魔法陣が浮かび上がった。

ドームの中に閉じ込めてしまえば、逃げることはできなくなる。


これも、できた……

うち、めっちゃ優秀やん。


拍手しながら飛び跳ね、バンザイをして喜び、転がっている薬瓶をドヤ顔で見回した。


小さいことやろうけど、分かったこともあってよかった。

使う魔力量で、鳥の光り方が違うんやわ。

だんだんと光が強なったもん。


薬瓶を集めながら、スライムの大きさで錬成できる本数が違うことにも気づいた。


あれ?

倒すのもって思ったけど、結局倒したことになるんか。

ごめんやで。有効活用するから許してな。


薬瓶を集め終わり、しゃがんで少し痛くなった体をほぐす様に背伸びをする。

深呼吸して心が緩くなるのは、澄んだ自然のなせる技であろう。


折角やから素材集めながら帰ろう。


駆けてきた道のあらゆる物を鑑定しては、採取しながら野原に戻った。


「アユカ様!!」


「ん? キャラウェイ様、そんな慌ててどうしたん?」


瞳に涙を溜めて抱きついてきたキャラウェイの頭を撫でる。


「よかった……戻ってこられないから、何かあったのかと……」


「心配してくれてありがとう。大自然が珍しくて、のんびり歩いてしまってた。ごめんな」


「楽しかったみたいだからよかったけど、森は危険なんだ。1人で移動しないで」


「トイレだけは1人にして。次からはすぐに戻ってくるから」


「でも……」


「絶対、すぐ戻るから」


「……分かった。でも、お手洗い以外は1人にならないでね」


「約束する」


なんとか納得してくれたキャラウェイと手を繋いで、食事が用意されている机に向かった。

「本当に大丈夫だった?」と聞いてくるキャラウェイに「もちろん」と自信満々の面持ちを返すと、やっと可愛い笑顔を見せてくれた。


机に到着すると、すれ違い様にマツリカから「迷惑かけるんじゃないわよ」と言われた。

ごもっともと思い、心の中で謝っておいた。


机の周りには椅子が人数分用意されていて、机の横に置いてある網で焼いて食べるようだ。

別の机で切られた肉や野菜が次々に焼かれては、アユカたちの机に置かれていく。

隣に座っているキャラウェイもアユカ並みに食べているので、朝はやっぱり萎縮してたんだなと思った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ