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聖女たちの知識を交換しよう、という会議が始まった。
司会進行役は、グンネラが行なうようだ。
前回まで参加していたアガベとヘミグラフィスの姿はなく、議事録係りの補佐官が1名いるだけだった。
「まずは、結論が出ていない『聖女様の交換について、どうするか』を決めたいと思います」
ああ! そうやった!
ホノカにイフェイオン様と恋仲なんかどうか聞こうと思ってたんやった。
今日の会議終わったら、お茶に誘おう。
根掘り葉掘り教えてもらおう。
「先に、陛下たちのご意向をお教えください」
「俺は前回と同じで、やっと慣れてきた聖女を移動させるのはどうだろうと思っている。交換をするとしても2年は必要だろう」
「私も前回と変わりません。ポリティモ国の聖女はホノカだけです。ホノカがいれば問題ありません」
「私も変わらないよ。というか、希望の聖女は無理なんだから、誰がいようと一緒だよ」
ええええ!? 急に何を言い出すねん。
それは、ユウカちゃうって言ってるようなもんちゃうの?
そんなん言われたらショックで寝込んでもおかしないで。
ほら、ユウカの俯き方が深なったやん。
「俺は拒否だ。それに、キアノティスが言う2年後の可能性もない。遅くても、その頃にはアユは王妃になっているからな」
いや、ユウカちゃんよ。
そんな勢いよく顔上げらんでいいやん。
そして、モエカちゃんよ。
なんで悔しそうに睨むん? あんたの彼氏を取ったわけちゃうやん。
「陛下たちのご意向は分かりました。では、聖女様たちはいかがでしょうか?」
さっきの順番通りに発言するのかと思っていたが、モエカは発言しようとしない。
ユウカは困ったような顔をしていて、ホノカは様子見をしているように感じる。
3人の気持ちはどうであれ、うちの意見は考えるまでもないからな。
「うちは、ウルティーリの聖女のままを希望するよ。シャンが言ったように、ウルティーリが落ち着いたら結婚するって決まってるし」
グンネラがアユカの言葉に頷くと、ホノカが発言した。
「私は、キアノティス様の意見に賛成です。ようやく慣れたところです。交換になるとしても、私ができる所まで頑張ってからにしてほしいと思っています」
「どうしてそのように言うんですか? あなたは私の愛する人なのですよ。どこにも行かせませんよ」
うわー! 公開告白ー!
んで、それを無視してるー!
「わ、私は! アンゲロニア様と相思相愛ですので、他国は難しいです!」
ユウカの突然の大声に、全員の意識がユウカとアンゲロニアに集中した。
ええええ!? そうなん!?
でも、アンゲロニア様の顔がめっちゃ怖なったで。
「やめてよ。私は好きだなんて思ったことないよ」
「う、うそはいいんです。私は分かっていますから」
「あー……やだ……」
「わ、わざと冷たくしなくちゃいけないのは辛かったですよね。でも、もう隠さなくてもいいんです」
アンゲロニア様の顔から生気が消えてもたやん。
なんやろか。途轍もなく可哀想に見えてきたわ。
小さな咳払いが聞こえた。
顔を向けると、モエカが優美に微笑んでいる。
「私は、フォーンシヴィ帝国にいたいです。皆様のように不純な動機ではなく、優しくしてくださった方々に恩を返したいのです」
不純な動機でもいいやん。
恋する気持ちって心の支えにもなるし、やる気にも繋がったりするんやで。
「かしこまりました。聖女様たちの意見を尊重し、聖女交換は無しといたします」
シャンが言うには、グンネラはモエカをどっかに行かせたいんやんね。
真顔のままやけど、心の中では残念がってるんやろなぁ。
「次に、本日の本題になります。聖女様たちの知識の交換を行いたいと思います。第1に神様とお話された特別事項がございましたら、お教えください」
アユカがシャンツァイを横目で見ると、シャンツァイもアユカを見ていた。
鼻で笑われ、柔らかく頭を撫でられる。
シャンと決めてたんよね。
この話題の時に話そうって。
「うちからでいい?」
ホノカとユウカに確認すると、2人は頷いてくれた。
「私は問題ないよ。というか、私、神様と会話してないんだよね。一方的に説明されただけなの」
「そうなん!? ユウカもなん?」
「わた、私は少し話した。けど、この世界についての話はしてない」
2人はそうなんやね。
ってか、ホノカは転生の確認なく、この世界に来たってこと?
ええ!? めっちゃ大変やん!
いや、まさか……転生していいかどうかの確認、ハムちゃんやからしてくれたってことなんか?
「そうなんや。まぁ、うちもこの世界に関しては説明してもらったくらいやけど」
「では、アユカ様も特別事項は無しということでしょうか?」
「ううん。うちは、ミナーテ様から色んな薬の作り方を教えてもらったよ。ミナーテ様は知恵の神様やからね。めちゃくちゃ天才で、めちゃくちゃ優しいねん」
鑑定のおかげやけど、そもそも鑑定はハムちゃんが与えてくれたものやからね。
ぜーんぶ、知恵の神様の恩恵やねん。
ってことにしようって、シャンと決めたねんな。
これなら、錬金術を疑われることはないやろうってね。
まぁ、ここにいる人たちには、魔法陣で何かしているって耳に入ってるかもやけど。
「錬金術」というのは分からんはずやからね。
口に出さへんかったら聞いてこーへんやろ。
「なるほど。ウルティーリ国の薬の効き目がいい理由が分かった。本当にアユカが作っていたんだな」
ナイスアシスト、キアノティス様!
「それは、うちちゃうねん」
「どういうことでしょうか?」
不思議そうに尋ねてくるグンネラに、笑顔を向けた。




