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テルゴルゴ地区にあるクテナンテの実家に着くと、白髪混じりの赤い短髪で黄色の瞳をした壮年の男性が、驚いた様子で姿を見せた。

皺は深く刻まれているが、リンデン並みの筋肉の塊で、優しそうな雰囲気を纏っている。


「お祖父様、お久しぶりです」


「クテナンテ……元気になったのだな。ヘミグラフィスから聞いてはいたが、ここに来られるまでの回復だったとは思わなかったぞ」


涙しながら抱きしめ合い、その後にペペロミアを紹介している。

ひ孫に初めて会うそうで、号泣しながら抱いていた。


その後でキアノティスが挨拶をし、アユカたちを紹介してくれた。

クテナンテの祖父の名前は、アスプレニウムというそうだ。


「この度は、孫とひ孫を救ってくださり誠にありがとうございます」


「気にせんとって。それに、毎回言うてるんやけど、クテナンテ様を治したんはホノカって聖女やから」


「そうだとしても、アユカ様も救ってくださったお方になります。何かお礼をさせてください」


「ホンマに!? んじゃ、腕をさわ一一


「アユ。ダメだ」


そんな怒った顔せんでもいいやん。

リンデンと会えてへんから、筋肉の塊が恋しなっただけやん。

はぁ、早く帰って、リンデンの腕にぶら下がりたいわ。


「あの……」


「お礼はキアノティス様から貰うからホンマに気にせんとって」


「さようですか。しかし、何か思いついたら仰ってください。必ずご用意いたします」


「ホンマにいいから」


笑顔のアユカに、アスプレニウムは深くお辞儀をしている。


そんなアスプレニウムに近づいてきたのは、この家の執事だろう男性だった。

紫色の髪をオールバックにしていて、メガネをかけている。もちろん瞳は黄色だ。


「アスプレニウム様、昼食の時間までサンルームでお過ごしになられますか? 温室の方がよろしいでしょか?」


「サンルームの方が暖かいだろう。そちらにお茶の準備を」


うーん……そこまで遠くなかったけど、ずっと馬車の中やったからなぁ。

お茶よりも外で動きたいな。

王都よりも寒ないし、ペペロミア様も外の空気に触れてたいはず。


「先に浄化するわ。その方が、ご飯も美味しく食べられると思うし」


「浄化ですか? 可能なのですか?」


「驚くよな、アスプレニウム。アユカはきっと浄化してくれるぞ」


自分のことのように自慢顔で自信満々に言い放つキアノティスを、シャンツァイが軽く蹴っている。

「別にいいだろ」と不貞腐れるキアノティスを、クテナンテが微かに笑っている。


信じられないというように戸惑っているアスプレニウムを引き連れて、瘴気が溜まっている場所に移動することになった。


移動中に、キアノティスが「公式でないこと」「アユカが遊びに来たついでに、気紛れで浄化すること」という話をアスプレニウムにしていた。

アスプレニウムは「承知いたしました」と頷いていた。


瘴気の場所は5分もかからないそうで、すぐに「ここら辺一帯になります」と声をかけられた。

馬車の窓から瘴気を覗き見たアユカは、見えた瘴気の大きさに目を疑った。


「めっちゃ大きい!」


「そうだな」


「アユカ。アユカの体調優先だから、無理ならすぐに言ってくれ」


「大きさに驚いたけど、これぐらいなら疲れたりせーへんよ」


「そう、なのか?」


キアノティスが疑うようにシャンツァイを見ているが、シャンツァイは顔色を変えずにアユカの頭を撫でている。


「まぁ、本物の奇跡を楽しみにしてろよ」


「あ、ああ」


瘴気の近くに降り立ったアユカは、いつも通り竜笛で瘴気を浄化した。

風魔法が使える騎士は、今回の旅ではグレコマともう1人いる。

フォーンシヴィまでの道中での浄化も共にしてきている。


3人で浄化作業をしている間、アスプレニウムは男泣きをしていて、クテナンテは浄化されていく景色に心を奪われているようだった。


ペペロミアは、竜笛の音色に合わせて歌っているように声を出していた。


キアノティスはシャンツァイから「風魔法を組み合わせるといい」と説明を受けていたが、耳には届いていないようだった。


全てを消すのに吹いては移動しを繰り返していると、少しずつ住民たちが集まりはじめた。


風魔法で可能な限り住宅地には届かないようにしてもらっていたが、黒い塊が消え、青空が広がっていくのだ。

気になって見にきた人たちが増えていくのは、誰にも止められない。


となると、毎度のことだが、拍手喝采で称賛の嵐になる。


アユカは「うちは、治癒魔法より浄化の方が得意なだけやよ」と忘れずに住民たちに話しておいたし、いつもならする住民との触れ合いをせずにアスプレニウムの家に戻った。


だが、住民たちにとっては、何が得意とか関係ない。

不安の原因を消してくれた、という事実が全てなのだ。

それに、モエカとの触れ合いもしていないので、聖女とは親交できないものと思っている。


だからこそ、せめて贈り物で感謝を伝えたいという住民が後を絶たず、アスプレニウムの家にはアユカ宛の贈り物で溢れかえってしまった。


「えー、ちょっと待ってや。もらっても困るわ」


「しかしアユカ様。住民たちの気持ちですので」


アユカとアスプレニウムの間で、贈り物の押し付け合いが繰り広げられていた。


「でもさぁ、うちは衣食住に困ってへんけど、ここの人たちは瘴気のせいで色々困ってたんやろ。そんな人たちから貰われへんよ」


「それでもという気持ちですので」


「うーん、じゃあ、ここにある食材全部使って、料理人総動員で食事を用意してほしいねん。んで、それを住民のみんなに配ろう。そうしよう」


大きく頷くアユカをシャンツァイたちは誇らしげに見ていて、アスプレニウムやアスプレニウム家の使用人たちは絶句している。


モエカとは、何もかもが違いすぎるのだ。


モエカが来た時は、瘴気を消せなかった代わりにと、治癒魔法を数名に施してくれた。

そのお礼にとアユカ同様にお礼の品が贈られたのだが、モエカは全部持って帰り、仲のいいメイドたちにあげたのだ。


モエカの行動も、メイドたちにとったら優しい行動になる。

ただアユカの方が、大勢の人に心優しく映ったのだ。


「なぁ、クテナンテ。聖女の差ってどこまで広がるんだろうな」


「アユカ様の心根が素晴らしすぎるだけですよ。私は出会えたことを、心より神様に感謝いたしますわ」


「それもそうだな。俺も感謝しかないよ」


キアノティスとクテナンテは、眩しいものを見るように目を細めてアユカを見ている。


「住民たちに還元するなら、ペペロミア宛に贈られた食材も使ってもらおう」


「ええ、そのようにいたしましょう。」


両陛下に初耳の皇子様まで来ていると、3人を見た住民から話が広まり、皇子様宛の贈り物も届けられていた。

すでに、街ではお祝いムードになっているそうだ。


「会議が終わったら、正式にペペロミアのお披露目をしないとだな」


「はい。きっとみなの希望になるでしょう」


「瞳が初代龍王様にそっくりだからな」


こうしてアユカは、フォーンシヴィ帝国テルゴルゴ地区にて人気になり、元騎士団総督だったアスプレニウムと知り合いになったのだった。


余談だが、晩餐時にアスプレニウムの筋肉の話になり、元騎士団総督だと教えてもらっていた。

今でも一騎当千の実力があると、キアノティスでも勝てたことがないと聞いて鑑定をしてみると、レベル132だった。

「絶対に怒らせたらあかん」と、心の中でビビっていたことは秘密の話である。




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