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死亡事件の翌日の会議は、聖女たちの体調を考慮してなくなった。1日の休暇を挟むそうだ。


「早く終わらせて帰りたいんだがな」


「そう言うなよ」


「で、お前はどうしてここにいるんだ?」


朝食後に顔を見せにきたキアノティスを、シャンツァイが睨んでいる。

キアノティスは、クレソンに「コーヒーを淹れてくれ」と頼んでいた。


「会議がなくなったことを伝えに来てやったんだろ」


「そうか。もう聞いたから、さっさと出ていけ」


「嫌だ」


「遊んでいる時間あるのかよ」


「ない! だけど、俺1人だけが仕事をするのは嫌だ」


シャンツァイがキアノティスと一緒に来た執事を見るが、執事は申し訳なさそうに頭を下げただけだった。

アユカはというと、シャンツァイの隣で大人しく食後のコーヒーを飲んでいる。


シャンツァイの重い息が、部屋にいる全員に届いた。


「コーヒー飲んだら消えろよ」


「嫌だ。そこは一緒に仕事しようだろ」


「はぁ?」


「ってことで、アユカ。今日はどこに出かけるんだ? 俺とシャンツァイが護衛するぞ」


シャンツァイはキアノティスを冷たく見ているが、キアノティスはクレソンが淹れたコーヒーを飲んで上機嫌だ。


「今、会議ないって聞いたところやからなぁ。1日あるんやったら、クテナンテ様とペペロミア様とお出かけしようかな」


「街か?」


「ううん。一昨日行った森で七色の魚を見てん。ペペロミア様にも見てほしいなって思うんよね」


「自然と触れ合うことはいいことだからな。それなら、30分後にエントランスで待ち合わせにしよう。クテナンテとペペロミアを連れて待ってる」


もう1口コーヒーを口に含んだキアノティスは、笑顔を残し、軽い足取りで部屋から出て行った。


「キアノティス様、そんなに遊びに行きたかったんかな?」


「あれは遊びをダシにして、アユに瘴気の浄化をしてもらおうという算段だろうよ」


「そうなんや。普通に言ってくれてよかったのに」


シャンツァイの予想は近からず遠からずで、キアノティス的には浄化作業が見られるなら見てみたいという考えからだった。

出かけた先でアユカが浄化作業をしないのであれば、気分転換に楽しもうと思っているだけだ。


「それはダメだな。キアノティスからの依頼でアユが浄化したとなると、他の国が依頼してくるかもしれねぇからな。断って、フォーンシヴィだけ贔屓しているって言われても鬱陶しいことになる」


「うーん……クテナンテ様たちを治したんと同じで、うちが勝手にっていうのが必要なんやね」


「でも、折角遠くまで出かける時間あるんやから」と思ったアユカは、浄化してほしい場所があるならと馬車に乗り込んでからキアノティスに尋ねてみた。


「いいのか?」


「いいよ。でも、うちがたまたま浄化したってことにしてな」


「もちろんだ」


キアノティスとクテナンテが、視線を合わせて頷き合っている。

浄化をしてほしい場所が一致しているのだろう。


「私の祖父が取り仕切っている穀倉地帯があるのですが、そちらでもよろしいのでしょうか?」


願うようにうかがいを立ててきたクテナンテに、アユカは笑顔で頷く。


「かまへんで。ってか、そしたらペペロミア様は、ひいじいちゃんに会えるってことやんな。めっちゃいい案やん」


アユカは本当に、遊びに行くついでに瘴気の浄化をするくらいの感覚なのだ。


だが、遊びに行く先は4ヵ国随一の穀倉地帯で、どこよりも裕福だった区域になる。

そのどこよりも豊かだった土地は、土地の半分が瘴気に覆われてからは苦しい生活を余儀なくさせられていた。

移住しなければいけない可能性があり、仕事ができなくなった人たちは不安を抱え、眠れぬ夜を過ごしているという場所なのだ。


「……穀倉地帯か。キアノティス、いいんだな?」


「ああ。国民のことを考えるなら、あの地区は真っ先に浄化してもらうべきなんだ」


2人は難しそうな顔をしているし、クテナンテは困ったように微笑んでいる。


「なんかあかんの?」


「穀倉地帯ということは、不細工が1度浄化しようとしたはずだ。それが今もなお瘴気があるということは、浄化できなかったということだ。それをアユが浄化したらどうなる?」


そうか。

モエカが浄化できんかったとこを、うちが消してもたらか……


「うちの人気が鰻登りやね」


「そうだな」


「それでもモエカの人気は落ちへんやろ。聖女にも得手不得手があるでいいんやし」


「アユカ、いい考えだな」


「ああ、それで押し通そう。実際にアユは治癒魔法使えないしな」


全員の視線が、クテナンテの腕の中で気持ちよさそうに眠っているペペロミアに集まる。


「それを確認しておこうと思ってたんだが、アユカは薬が作れると公言していいのか?」


「表向きは治癒魔法で通そうと思っている。薬は知識としてあるくらいだ」


「分かった。俺もクテナンテもそうしよう」


「はい。それに、もし何かございましたら仰ってください。力の限りご協力いたします」


「うん、ありがとう」


馬車が進行方向を変えて進んでいる間、フォーンシヴィ帝国の観光名所などを教えてくれるクテナンテに、アユカが気になることを質問して過ごしていた。


残りの2人はいうと、楽しそうに会話をしているアユカたちを眺め、心を穏やかにしていたのだった。




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