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「これが、証拠になります」
まぁ、そうくるやろうなと思ってたよ。
うちを捕まえるには、絶対的な証拠がいるもんな。
定刻通りに参加したくないが参加しなくてはいけない会議が始まり、トックリランが高らかに声を上げたのだ。
「昨日はキアノティス陛下に止められ捕縛に至りませんでしたが、ウルティーリ国の聖女様が犯人だという証拠を見つけました。聖女様を引き渡し、監督不行き届きとして国としても責任を受け止めていただきたい」と。
キアノティスは大きな息を吐き出しながら天を仰ぎ、シャンツァイは鋭い瞳がより一層鋭くなっている。
あの人、死ぬな。ご愁傷様やわ。
昨日、注意された時点で諦めればよかったのに。
もしかして、もうすぐ死ぬ人が髑髏なんか?
いやいや、うちに対しての感情部分。そんなわけない。
「キアノティス、お前ところの臣下がまだ馬鹿なことを言っているが、フォーンシヴィこそ国として責任取れるんだろうな?」
「待て、シャンツァイ。国の意見じゃない。そもそもアユカが事を起こす動機としては不十分すぎるだろ」
「私もアユカ様ではないと思います」
おお、イフェイオン様が味方についてくれた。
ホノカが口添えしてくれたんかも。
うちは、もうホノカを親友やと思うで。
ありがとうな。
「私も同意見だよ。聖女に順位をつけるなら、間違いなく1位はアユカ様だからね」
アンゲロニア様まで!?
そんなに褒めても何もでーへんで。
って、ユウカが、めちゃくちゃ驚いた顔してる。
何に驚いたんやろ?
「皆様、そう思われても仕方がありません。ウルティーリ国の聖女様は、悪巧みをされなさそうな無邪気な方のように見受けられます。しかし、先ほども申しました通り、私は証拠を見つけました。これが証拠になります」
そう言ってトックリランが補佐官から受け取ったのは、羊皮紙を丸めたものだった。
「ここに襲撃犯を雇う際の契約書がございます。ウルティーリ国の聖女様のサインが入っておりました。サインが偽造ではないと証明するために、今ここでサインを書いていただき、見比べをしたいと思います」
うちの文字を真似たサインが書かれてるってことやんな。
うち、この世界に来てから文字書いたことないんやけどなぁ。
それをどうやって真似してんのやろ?
トックリランの補佐官が、紙とペンをアユカの前に置いた。
うーん……素直に書くんもなぁ。
余裕綽々な顔してるしなぁ。
何考えてるかは分からんけど『アプザル』してみよ。
『アプザル』っと。
うん。やっぱり考えてることは分からんよな。
知ってた。
そして、髑髏は髑髏のままかぁ。
「どうされました? 名前を書けないのですか?」
書きたくないって拒否ったら、犯人だからって言われそうやもんな。適当に書くか。
アユカは、俯くように目の前に置かれた紙に視線を動かした。
あっぶな。
魔術道具って出てますやん。
書いた文字が複写転送されるってなってますやん。
こわっ! あの人、こっわ!
アユカは顔を上げ、満面の笑みでシャンツァイを見た。
「なぁなぁ、シャン。好きなようにするな」
「していい? って聞くんじゃねぇのかよ」
小さく笑ったシャンツァイが頷いてくれる。
悪戯っ子のような笑みを浮かべたアユカは、紙にデカデカと文字を綴った。
隣からシャンツァイの独特の笑い声が聞こえてくる。
「書いたよ」
「では、その紙をこちらに」
アユカの斜め後ろで待機していた補佐官に、紙とペンを渡した。
補佐官は高速で瞬きをしながら回収して、トックリランまで持っていく。
アユカは、トックリランの反応が楽しみで、ニヤける口元を隠しきれない。
周りは、不思議そうに様子を窺っている。
補佐官から紙を受け取り、文字を確認するように見たトックリランの顔が引き攣るように固まった。
「どうした?」
「い、いえ、その……」
歯切れの悪いトックリランに、キノアティスの片眉が怪訝そうに上がる。
「さっきまでの勢いはどこに消えた? さっさと証拠を見せればいいだろ?」
「へ、陛下……そ、それが、聖女様が悪口を……」
「確かにうちが書いたんは『トックリランのまぬけ。アホ』やよ。でも、筆跡が分かればいいんやろ? やったら、何書いても問題ないやん」
おーおー。キアノティス様は怖くて睨めんけど、うちは怖くないから睨めるってか。
こういう時も笑顔一択よなぁ。
今、むちゃくちゃムカついてるやろなぁ。




