112 〜 ユウカ 1 〜
わっ! ビックリした!
目が覚めたら近距離に、冷静な瞳で見つめてくるアンゲロニアの顔があった。
「この状況で赤くなるの?」
「そ、それは……」
「君が昨日怖がったから一緒に眠ったんだよ。何もないんだよ」
「ぁ……」
アンゲロニアが、ため息を吐きながら起き上がって、ベッドから降りている。
お礼を言わないとと思い、慌てて体を起こした。
「入浴でもしなよ」
言いながら隣の部屋に移動するアンゲロニアの背中が、抱きしめてあげたくなるほど辛く悲しそうに見えた。
ベッドの上で三角座りをして顔を埋めていると、メイドが「お風呂の支度ができました」と呼びにきた。
召喚された頃は仲良くなれると思っていたのに、誰とも仲良くなれていない。
入浴時はお世話されながらたくさん話したメイドも、今では必要最低限の会話しかしない。
「外で待機しております」
髪の毛や体を洗ってくれたメイドが、浴室から出ていった。
湯船の中で三角座りをし、膝を見つめる。
こんな世界、どうして来ちゃったんだろう。
人生をやり直せるってあんなに喜んだのに、全くやり直せてないんだもんなぁ。
ウェスティア様は、頑張れば幸せになれるって言ってたのに。
どんなに頑張っても少しも幸せになれない。
私はこんなに頑張っているのに……きっと嘘をつかれたんだ……
私は、私を拒否した世界から抜け出したかった。
だから、自ら死を選んだ。
あんな世界で生きていたくなかった。
薄れゆく意識の中で最後に聞こえたのは、家族の声だった気がする。
そして、目の前が真っ暗になったと思ったら、急に明るくなって神様が目の前にいた。
透き通るような美しさに、すぐに神様だって分かった。
はじめは死にきれなくて夢を見ているのかと絶望したけど、話を聞いているうちに夢じゃないって分かって安心した。
しかも、私を必要としてくれる世界に行けるって聞いて本当に嬉しかった。
可哀想な私に神様が慈悲をくれたんだって喜んだんだ。
見た目を可愛くしてもらったし、特別な聖女の力も授けてもらった。
これから本当の人生が始まると期待して召喚された場所には、一見冷たそうに見えるけど、柔らかく微笑むと可愛い顔になるアンゲロニア様がいた。
好みすぎる顔に理解が追いつかなかったけど、神様が私のために寄り添いあえる相手を用意してくれたんだって気づいたの。
新しい人生をくれた神様だもん。
私が恋愛したいことを知ってたんだよ。
だから、本当に私の居場所がある世界なんだって、胸が弾むのを感じたんだ。
あんなに未来に期待したのは、いつぶりだったかな。
たくさん話したかったけど長い間家族以外と会話してなかったから、大人数の宴の席にオドオドしちゃってアンゲロニア様と話せなかった。
でも、ずっと優しかったんだよね。
絶対お互い一目惚れをしたのに、今はあの時みたいに優しくない。
答えは分かっている。
アンゲロニア様の妹と使用人が、私の陰口を言ってるんだ。
有ること無いこと言って、アンゲロニア様を困らせているんだ。
じゃないと、アンゲロニア様の態度の説明ができないもの。
一緒に眠るほど気遣ってくれているのに、私が虐められるかもしれないから人の目があるところでは冷たくしてくる。
優しいアンゲロニア様に「私は大丈夫だから」って言いたいけど、これ以上の板挟みは可哀想だからと思って言えないでいる。
アンゲロニア様を救いたくて、心に活を入れてアンゲロニア様の妹と話をしたんだよね。
「そんなことしていると、いざという時に助けてもらえなくなるよ。どんどん不幸になっちゃうよ」って。
彼女は大好きだった人と婚約してたらしいんだけど、横槍が入ったせいで破棄になったって聞いてる。
それから引きこもりがちだって。
自分を見つめ直すために休みたい気持ちは分かるから、余計に彼女にも幸せになってほしいと思ったんだよね。
だから、一生懸命気持ちを伝えた。
気持ちが届いたのか、あの時は何度も謝ってたのに。
あれは嘘だったんだろうな。
伝わったって純粋に信じた私を笑ってるのかな?
アンゲロニア様の家族だから仲良くしたかったのに。
悲しいな。




