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10

馬車に乗り込み、窓からキアノティスに手を振る。

元気いっぱいの笑顔で見送られたが、一瞬で見えなくなった。


え? マジで?

馬車やけど、新幹線以上やん。

これで10日はかかるって、めちゃくちゃ遠いやん。

それやのに隣の国なんか。すごいな。


感動していた気持ちも落ち着き、馬車が出発してからアユカはずっと外を眺めている。

景色を楽しむようなスピードではないが、ずっと窓の外を見ているのだ。


馬車に乗っているのはアユカとキャラウェイとマツリカの3人しかいなくて、会話を楽しむ雰囲気ではない。

荷物を詰め込んでいるのかとも思ったが、荷物は空間収納の箱に入れているらしく、中は広々としている。


「アユカ様、あ、あの」


「どうしたん?」


キャラウェイに話しかけられたので、正面に向き直った。

キャラウェイの横にいるマツリカを、視界から消そうと頑張ってみる。


「キアノティス陛下とは、いつ恋人になったの?」


「恋人? なってへんけど」


「え? だ、だって、抱き合ってたよね?」


「あれは別れのハグなだけで、友愛みたいなもんやで」


まぁ、めちゃくちゃドキドキしたけどな。

男の人に抱きしめられるって、あんな感じなんやね。

あんなにドキドキしたってことは、キアノティス様とでもワンチャン恋愛できるんちゃうかな。


「友愛……恋人じゃないんだよね?」


「ちゃうよ」


「そっか」


安心したように微笑むキャラウェイに、首を傾げてしまう。

何に安心したのか全く分からない。


「何が友愛よ。ただの尻軽なだけじゃない」


尻軽……ちょっと悲しい言葉やわ。

この世界では、簡単にハグしたりせーへんてことやんね。

うちも前世では家族以外としたことないけどさ。


「マツリカ! 失礼なことしないって約束したよね!」


「……はい」


「もうダメだからね!」


「……はい」


睨むことも失礼なことの一種やと思うよ。

嫌われてるんはしゃーないとしても、睨んでこんといて。

睨む方も疲れるんちゃうの?


理由なく嫌われることには慣れているので、憤りなんて湧いてこない。

それに、仲良くなろうという努力もしない。

小さい頃は努力していたが、何度も挫折をして、嫌われたなら関わらないことがお互いのためにいいと思うようになったのだ。


「アユカ様、住んでいた所の話を聞いてもいい?」


瞳を輝かせて、キャラウェイ様は本当に可愛いなぁ。

他の世界から来たとか、興味津々になるよな。


「いいよ。何が知りたい?」


「この世界と、どんな風に違うの?」


「そやなぁ……まずは、こんなに速い馬車はない」


「じゃあ、どうやって移動するの?」


「燃料で動く乗り物があって、それで移動するねん。空を飛んで移動する乗り物もあるよ」


「今は走っているけど、獣馬は空も駆けるんだよ」


「獣馬すごいな」


「カッコいいよね。僕ね、馬車じゃなくて獣馬に乗れるよう練習中なんだ」


「キャラウェイ様、すごいやん! 乗れるようになったら見せてな」


「うん」


大きく頷いているキャラウェイに、アユカは微笑む。


弟おったら、こんな感じやったんかな。


「獣馬以外には、何かある?」


「いっぱいあるよ。魔法がない世界やからね」


「魔法ないの? どうやって戦うの?」


「うーん、うちが住んでた世界は、魔物がおらんから戦いがなくて、騎士みたいに剣を持つことさえできへんねん」


「魔物がいない世界があるんだ……」


アユカは、魔法があるだけでも驚いたことや、空間収納という便利な鞄に感動したことを話した。

携帯電話の話をした時は、すごい勢いで色々質問された。

そして、この世界にも携帯と似たような板状の水晶があって、それを用いて連絡を取り合えると教えてくれた。

しかも、その水晶に身分証明書を入れることができるそうだ。


キアノティスが言っていた連絡が取れるというのは、この水晶の板が巾着の中に入っているということだろうと理解した。

それと同時に、初めから入れていたということだから、ウルティーリ国に行く聖女に渡そうと用意していたのかもと考えた。


信用するな、か……

一体どんな国なんやろか。


まぁでも、ストーカーされたり、急に殺されたりせーへんかったら、何でもいいけどな。


いや、何でもよくないか。

せめて清潔な国であってほしいな。


うー、トイレ行きたい。

こういう移動中って、どうするべきなんやろ。


どうして清潔が浮かんだかというと、今トイレに行きたいのはもちろんだが、フォーンシヴィ帝国のお手洗いが新品と思うほど綺麗だったからだ。

腰掛便器の形をしていて、用を足した後、壁のスイッチを押せば、便器の中が光って消えるという摩訶不思議なお手洗いだったのだ。

アユカは初めて体験した時、感動から小さく拍手をしていた。


窓がノックされたので開けたら、馬車は野原に停まっていて「昼食にしましょう」と灰色の短髪の騎士に言われた。

この騎士が隊長だそうで、名前はフラックスというそうだ。

副隊長のグレコマが教えてくれていた。


揺れもなく快適な移動なので、どこも凝り固まっていないが、外で出ると背伸びをしてしまう。

そして、大きく深呼吸をする。

空気の味の違いは正直分からないが、木や草の匂いがするので「空気が美味しい」と感じるのは、もはや自然の摂理である。




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