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シャンツァイたちがソファに座る中、騎士たちは他の部屋から机と椅子を移動させている。
アユカは、周りを気にせず魔物肉を錬成し始めた。
キアノティスとクテナンテと執事は、神秘的に見える光景もそうだが、一瞬にして解体される魔物に目を見張っている。
アユカが錬成していくたび光るからか、ペペロミアは笑い声をあげている。
「キアノティス。アユが今日消した瘴気の場所だ」
シャンツァイが机の上に、グレコマが印を付けた地図を広げた。
「2ヶ所も!? それに、ここは特に濃かったはずだ。モエカでは無理だったんだ」
「そんなに濃かったのか?」
シャンツァイが、グレコマに問いかけている。
「アリトルナの海くらいでした。でも、小さな瘴気でしたよ」
「確かに小さいと言えば小さいが……」
キアノティスは仰天するように呟いた後、濁声で「あー」と言いながらソファにもたれた。
「聖女は大切だ。この世界に喚び寄せた責任がある。聖女を傷つけるのは以ての外だ。でも、この差……辛い……分かるか、シャンツァイ。この辛さが」
「分かるわけねぇだろ」
「聞いた俺がバカだった」
「そもそも俺はアユだから大切にするだけであって、他の聖女なら会話すらしてないと思うぞ」
「いや、それはしろ」
2人が本音で話しているだろう内容を、誰も心に留めないようにしている。
オフレコだとしても国のトップ同士の会話だ。
昨日の会話といい、外に漏らしてはいけないのだ。
静かに見守るだけなのだ。
でも、そんな中、堂々と話しかける強者がいた。
「なぁなぁ、ペペロミア様は魔物肉すり潰したら食べられるかな」
アユカだ。
そして、皇后のクテナンテからしても、何てことない会話なのだ。
「食べさせてあげたいのですが、後2ヶ月は必要かと」
「そうなんか。残念やわ」
肩を落としたアユカは、気分を紛らわせるために、捌いた魔物肉を休む間なく錬成していった。
香ばしい匂いが部屋中に漂い、騎士の1人のお腹が豪快に鳴り響いた。
恥ずかしそうにする騎士を全員で笑い、錬成できたものからクレソンたちによって運ばれていく。
机にギリギリ乗るまでのお肉を錬成したら、豪華な夕食が始まった。
「うまい! こんなにもうまいのか!」
魔物肉を1口食べたキアノティスの第一声だ。
クテナンテも口に含んだ後、片手で口元を隠し、目を大きく見開いている。
「美味しゅうございますわ。ペペロミアが食べられるなら、さぞ喜んだことでしょう」
「俺たちの国でも取り入れればいい。美味しく食べられる物を捨てるなんて馬鹿げている」
ほーん。うち、最初にキアノティス様と恋愛できるかもって考えたのは間違いちゃうかってんね。
結婚してなくて、うちがフォーンシヴィの聖女なら、間違いなく付き合ってたな。
まぁ、うちはウルティーリで運命の人に出会ったから、もしもを想像するだけ無駄なんやけどね。
ホンマにシャン以上の男性っておらんわ。はぁ、好き。
「何回も食べているはずなのに、それでもニヤけるほど魔物肉が好きなんだな」と、アユカを見た周りの気持ちは一致している。
「ポリティモ国から文句言われるぞ」
「あの国は自分たちが崇高な存在と思ってるからな。魔物肉関係なく、自分たち以外は野蛮なんだよ」
「そうなん? イフェイオン様から、そんな感じせんかったけど」
「あいつは、フォーンシヴィの血が混ざってるからな。王になるときに大変だったこともあって、そういう古臭い考えを嫌ってるんだよ」
「王になるのは大変だからな」
「間違いない」
シャンツァイの鼻で笑いながら解き放たれた言葉を、キアノティスが笑いながら同意している。
会話をしながらもアユカの食べるスピードが早いのはもちろんだが、キアノティスも上品なクテナンテも飲み込んでいるんじゃないかと思うほど早い。
騎士たちに混じって食事をとっている執事も無我夢中で食べている。
あっという間になくなり、アユカは第2弾の魔物肉を錬成し、楽しい夕食会は過ぎていったのだった。
執筆アプリのバグが1日で直って本当に安堵しましたε-(´∀`; )
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