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怒りを抑えきれていないキアノティスの声が聞こえてくる。


「あれを用意したのは誰だ?」


「わた、わたしです」


額に青筋を立てながら怒って席を立つキアノティスを、クテナンテはキアノティスの服を掴んで止めようとしている。


「でも、用意したんは中の水ってことやろ?」


「は、はい」


「この水差しは?」


「こ、皇后様の水差しになります」


半分泣いている状態で、怯えながらもしっかりと答えてくれる。

こういうところは、さすが皇后付きメイドといったところだろうか。


「もしかして、プレゼントとか?」


「いいえ。そちらは、行商人から冷水にも温水にもなると勧められて購入しましたの」


今回はモエカちゃうんか。

好きちゃうけど、やっぱり仲間意識みたいなもんあるんかな。

ちょっと安心したわ。


「いつ買ったん?」


「お腹が少し出てきた頃でしたので、8ヶ月、9ヶ月くらい前ですわ」


「うちらが、ちょうど召喚されたくらいやね」


「そうなりますね。体調を本格的に崩す前にモエカ様にお会いしており、自分への買い物はお会いする前が最後でしたから」


「うーん、考えたくない。考えたくないけど、そういうことなんか」と呟くアユカに、誰もがアユカの言葉を理解できないでいる。


「とりあえず、見てもらった方が早いよな」


アユカは、後ろに控えていたグレコマに顔を向けた。


「風魔法で、水差しをこの向きで綺麗に切ってほしいねん」


「この向き?」


「この向きは、この向きやん」


アユカが手のひらを斜めにし、グレコマは真似をしている。

手のひらを斜めにするときに、体も斜めになってしまうのは仕方がないことだ。

そして、その姿が奇妙に見えることも仕方がないことなのだ。


「アユ、水差しに触って教えてやれ」


「そうやね」


立ち上がったアユカはカートまで早足で近づき、水差しの口元にチョップする形で手を置いた。


「この向き」


「分かった。離れろ」


アユカが2歩ほど下がり、グレコマが親指で人差し指を弾くと、水差しが2個に分かれた。

綺麗な切り口を隠すように中の水が溢れ、アユカは酸っぱい物を食べた時のように顔を萎めている。


「ごめん! 先に水を捨てればよかったわ」


「いい、気にするな。そんなことよりも、これ……」


「すごいよな。この水差し自体が魔石でできてるって。魔石でこんなことできるんやね」


近くで見ようと来ていたキアノティスたちに、水差しの断片を指しながら伝えた。

そして、その指を水差しの球体になっている部分の内側に持っていく。


「……魔法陣か」


「うん。こっちが毒の魔法陣で、こっちが悪意を集める魔法陣やわ」


「外に出せない代物だな。悪用されかねない」


伝えたくないなぁ。

仮説やしなぁ。

でも、たぶんそうなんよなぁ。


「めっちゃ辛いこと言うんやけど」


「何でも言ってくれ。何が糸口になるか分からないからな」


力強く見てくるキアノティスに、アユカはしっかりと見つめ返した。


「これ微量に毒と悪意を摂取していくみたいやねん。やから、段々と体に溜まっていって、そのうちっていう仕組み。どこから毒摂取したか分からんようにしてるやと思う」


「犯人を特定させないためか」


「たぶん。で、本来ならクテナンテ様は死んでたと思う。妊娠してなかったらやけど」


「それは……まさか……」


「犯人としては、妊娠中に親子諸共って思ってたんやと思うよ。でも、ペペロミア様が母親を守るために、自分の体に吸収してたんやと思う。で、踏ん張って生まれてきたんやろうね。やから、ホンマに瘴気関係あらへんよ。あの姿は、母親を守る立派な男の子の証やってんよ」


泣き崩れたクテナンテを、大粒の涙を流しているキアノティスが抱きとめた。


「さすがは俺の子だ。生んでくれてありがとう、クテナンテ」


「はい。あの子を生むことができ、この上ない幸せでございます」


あー、あかん。今日、何回も我慢してんねん。

泣いたら化粧崩れるやん。化粧してへんけど。

そう思って止めな、うちまで号泣してまうわ。


「キアノティス。気持ちは分からなくもないが、泣くのは後にしろ。やらなきゃいけないことが多いだろう」


「そうだな、ああ、そうだ。商人のリストは残っているはずだ。調べよう」


「ついでに、トックリランを調べてみろ」


「何かあるのか?」


「今回のことと関係ないかもしれないが出てくると思うぞ」


「分かった」


「それと、アユが宮の中が安全か調べてくれる」


え? そうなん?

別にいいけど、初耳やから驚いてもたやん。


「お礼に、この2個の魔法陣を写させてくれ。調べたいことがある」


「いいだろう。もし有益なことが分かったら教えてくれ」


「売ってやる」


顔を見合わせた後、シャンツァイは鼻で笑い、キアノティスは声を出して笑っている。

「友情やなぁ」と思っていたら、シャンツァイにまた頬を引っ張られた。


アユカが宮の中を練り歩き、全部を鑑定した結果、水差し以外に怪しい物はなかったが偵察員や背信者がいた。

どう伝えるべきか分からず、「ちょっと気になるかも」という風にだけ伝えておいた。




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