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美味しそうなお菓子ばっかりやわ。
会議には甘いもんが必要よな。
分かってるぅ。
「お手元の資料をご覧ください」
会議の進行役兼フォーンシヴィ帝国内務大臣のアガベが、机の上に置かれている紙を見るように促してきた。
肩までの緑色の髪を縦ロールにしている、でっぷりとした中年男性だ。
アユカはアガベの縦ロールを見てから、部屋の壁に沿うように控えているグレコマのドレッドヘアを見た。
緑色の巻き髪という点では同じだが、全く似ていない2人を見て「色々あるんやねぇ」と思っていた。
会議をする部屋には進行役のアガベの他にも、宰相のグンネラ、財務大臣のヘミグラフィス、外務大臣のトックリランと、それぞれの補佐官がいる。
グンネラは青年だが、ヘミグラフィスとトックリランは壮年の男性だ。
アガベ以外は、キアノティスたちから2メートルほど後ろの位置に立っている。
国際会議って言ってたもんなぁ。
やから、偉い人多いんやろなぁ。
うちに対する好感度は、グンネラとヘミグラフィスとアガベが丸で、トックリランが髑髏かぁ。
悪い人って髑髏好きよなぁ。
後、ビジュアル系の人たちとかも髑髏好きなイメージ。
イメージやから違っても怒らんとってほしい。
ってか、髑髏って何やねん。
ここにきて、まだ分からん記号があったとは。
他の見知らぬ人たちは丸と。
キアノティス様もイフェイオン様もアンゲロニア様も変わらず丸と。
んで、ユウカがバツ1個で、モエカのバツは2個に増えてると。
いつもなら地味にショックを受けるとこやけど、うちもモエカに対してはバツ1個の気分やからね。上等やわって感じ。
まぁ、シャンに言われた意味は分かってるから、偏見ないように見ようと思ってるよ。
偏見が、どれだけ辛いかは知ってるからな。
それにしても、あのホワイトボードすごいなぁ。
掲示板と兄弟なんやろうな。
魔法で文字が浮かび上がるんやもん。
書かんでいいって楽やねぇ。
アユカが会議内容とは異なることを考えていても、アガベの書類説明は進んでいく。
マカロンの中が分厚いのってトゥンカロンやっけ?
ウルティーリでは見たことないのに、フォーンシヴィではお茶請けで出てくるとは。
こういう所でも、フォーンシヴィが最先端って言われる所以なんやろか。
魔術省があって、そこが生み出す魔道具が素晴らしいだけちゃうんやね。
「ウルティーリ国の聖女様。何か気になる点がございましたか?」
「え? なんで?」
うち、マカロンの分厚いやつ食べてただけなんやけどな。
「私の話に真剣に耳を傾けてくださっているようでしたので」
ん? 何も聞いてなかったで。
興味ないのなんて、資料見ずにお菓子食べてるんで分かるやんな?
「アガベといったか。うちの聖女は気になったら発言をする。そちらに気を使っていただかなくともだ」
「は、はい。失礼いたしました」
シャンツァイの睨みと低い声に、アガベは汗を大量にかきながら視線を逸らしている。
「これが気に入ったのか?」
「うん、美味しいで」
「俺の分も食べていいぞ」
「もらおうと思ってた」
シャンツァイが、アユカの前に置かれたままの資料の上に、トゥンカロンが乗せられている細長いお皿を置いた。
周りは騒ついているが、アユカは大口で食べているし、シャンツァイはアユカの口周りについた食べカスを指で取っている。
「口で言ってくれたらいいやん」
「悪かったよ。だから、そんな可愛い顔をここでするな」
あああああああ!
会議中! 参加してへんけど、今、会議中!!
さっきの甘い言葉でまだ頭溶けたままなんやから、これ以上は止めてほしい。
シャンの方がシリールルより中毒性がある気がする。
マジで、トリップして帰って来られんくなる。
「アユカは、ここに何をしに来たの?」
声をかけられた方を見ると、モエカが頬を膨らませていた。
モエカ……なんでバツが2個に増えてんやろね。
うちらが、クテナンテ様や王子様を治したこと聞いたとか?
クテナンテ様を治したんはホノカやで。ホノカの功績やからね。
でも、キアノティス様を見る限り、まだバレてないと思うんよね。
ホンマに、なんで嫌われてんのやろか?
「会議やろ」
「分かっているなら邪魔しないで。みんな一生懸命なのよ」
「邪魔してるつもりないよ。逆に邪魔せんように消極的でおるんやし」
「なによ、それ。消極的だなんて会議にいる意味ないじゃない」
あー、んー……何を言っても言い返されそうやなぁ。
喧嘩は嫌いやねんなぁ。
疲弊するだけで、何もいいことないやん。
この先、うちが本格的にモエカを嫌いになったとしても、喧嘩したいとかは湧き上がらんやろうしな。
「うち、おらん方がよさそうやわ。遊びに行ってきていい?」
「おおお待ちください!」
シャンツァイに許可をもらおうとしたのに、慌てたアガベに止められた。
「聖女様たちのお話を聞かせてほしいのです。知恵を貸していただけませんか?」
「知恵って言われてもなぁ」
アユカはホワイトボードを見てから、お皿を両手で持って資料に目を通した。
シャンツァイの前にあった資料は数ページあるが、アユカの前にあった資料は1枚のみ。
読み終えるとお皿を資料の上に戻し、アガベに顔を向ける。
「悪いけど、うちが分かることは何もないわ」
「本当に何一つございませんか?」
「うん、ない。魔力の代わりに電気をって言われても、電気を生み出す発電所があって、それを電線で繋いで供給ってことしか知らんもん。発電所の仕組みなんて知らんもん」
ってかさ、なんで電気がいるんかが分からんのよね。
今の何が不便で、何に電気が必要なんやろ?
「よろしいでしょうか?」
イフェイオンが資料から顔を上げて、真っ直ぐにアガベを見ている。
「記載がある『魔力の残滓が集まって魔物や瘴気を生み出している』の部分なのですが、何か実験をされたのでしょうか? 瘴気の解析ができたのでしょうか?」
「いえ、こちらは我が国の聖女様が教えてくださったのです」
「聖女様が知っていたということですか?」
イフェイオンがモエカを見ると、モエカは顔を少し傾けて微笑み返している。
「はい。この世界に召喚される前に神様にお会いしておりまして、その際におうかがいしました」
イフェイオンはホノカを見るが、ホノカは首を横に振っている。
アンゲロニアもユウカを見ているが、ユウカは高速で頭を横に振っている。
シャンツァイは話に興味がないのだろう。静観するようだ。




