99 〜 ホノカ 2 〜
で、心を奮い立たせてポリティモ国に向けて出発したらさ。
襲ってきた魔物たちは怖いし不気味だし、魔法も意味分かんないしで、何度も「こんな世界で生きていけない」って思ったよね。
それでも、ここで生きていくしか道はなくて、頑張ろうって言い聞かせてた。
やっとポリティモ国に着いたって安心したのに、着いたら着いたでパレードをすることになってさ。
この見た目に生まれ変わってて、本当によかったと思ったよね。
街の人たちもみーんな綺麗で、自信がないって人さえも元の世界のアイドル並みで意識が遠のいた。
卑下するところが、どこにあるの? って。
何もかも感覚が違ってて、周りから敬愛の瞳で見られることが息苦しくて、焦燥してる時に「聖女アユカが、ウルティーリの王シャンツァイと婚約したそうです。私たちも結婚しましょう」ってイフェイオンに言われて、白目剥いた。
こっちは毎日倒れそうになるまで治癒魔法使わされて、瘴気の浄化で大声で歌わされる辱めを受けて、どんどん心が死んでくのに、「何が結婚だー」「何もかもすっ飛ばしすぎだろー」ってブチ切れした。
全部、ぜーんぶ、ぶち撒けた。
頑張ろうと決めたけど、こんな世界で生きていたくないと思っていることも、元の世界に戻りたいことも、家族ことも彼氏のことも、ここには居場所がないことも。
みんな「聖女様」と呼んで、誰も「ホノカ」と呼んでくれない。
ここに必要なのは、聖女であって私じゃない。
どんなに頑張っても、誰も私を見てくれない。
泣き叫ぶ私に対して、イフェイオンは静かに聞いているだけだった。
全てを出し切った私がただ泣くだけになったら、抱きしめられた。
そして、何度も謝られた。
でも私は、この人が冷たい人だって分かっている。
私が聖女だから、あやそうとしているだけだって分かっている。
だって、キャラウェイ様と呼ばれた少年のこともマツリカと呼ばれた少女のことも、この人は助けなかった。
騙されちゃいけないって思っている。
だけど、全部ぶち撒けた時に気づいたんだよね。
イフェイオンだけが「ホノカ」と名前で呼んでくれていたことに。
冷たい人だけど、私のことを私として見てくれているのかもって、心を絆されかけた。
でも、でもよ、その次の日から更に大変になったのよ。
イフェイオンの婚約者っていう女たちが、私を品定めしに来たのよ。
5人も順番に来ては、嫌味を言って帰ってくの。
どれだけ長いため息を吐いたことか。
すぐに、イフェイオンに抗議に行ったよね。
勘違い女たちを、どうにかしてくれって。
そしたら、平然と「私は、ホノカを愛していると気づきました。他の婚約者とは縁を切りましたので、あなただけです」って言われて、また白目剥いたよね。
「どこにどう愛を感じたんだよ」ってブチ切れて、そこからは遠慮するのも聖女だからって頑張るのも止めた。
私は私なんだから、私らしくできることをしようって。
何もかも吐き出したことで、生きやすくなったから結果よかったし、みんなとの距離も縮まったような気がしてる。
仲良くなれたメイドもいるしね。
今回は、護衛第一だから一緒に来られなくて寂しいんだよね。
イフェイオンとの距離は縮めていない。と思ってる。
彼は毎日のように愛を囁いてくるし、プレゼントも頻繁に贈ってくる。
この前なんて「そんなに初めの男がよかったんですか」って泣かれたしね。
泣いてる姿にクラッときて慰めちゃったら、涙を使って迫ってくるようになった。
恋愛をしたことない小娘に卑怯だと思う。
綺麗なイフェイオンに迫られて、ドキドキしないわけないのに。
でも、このドキドキが恋かどうか分からない。
でもでも、アユカが恥ずかしそうに幸せそうに「王妃になる」って言っていて、「恋っていいなぁ。無理矢理じゃなくてアユカは好きで婚約したのか」って温かい気持ちになれたから、私も好きな人が欲しいってなった。
そして、イフェイオンの顔が浮かんだ。
好きなのかな?
やっぱり、まだ分からない。
なんて、考えているうちに会議をする部屋に到着した。
正方形のテーブルの4箇所に、椅子が2個ずつ置かれている。
「丸よりいいか」と思って、イフェイオンに続いて席に着いた。
アユカたち以外は揃っていて、モエカとユウカを盗み見た。
モエカは初対面の時が嘘のように堂々としていて、ユウカは変わらず身を縮めている。
「どうして気持ち悪いと思ってしまうんだろう」と考えていたら、アユカたちがやってきた。
お揃いのパーカー!?
会議にお揃いのパーカーで来たの!?
ダメ、笑ったらダメ。
キアノティス様、お願いだから声を出して笑わないで。
引っ張られて出そうになる。
笑いを噛み殺していると、イフェイオンに手を触られたので振り払った。
「淋しそうに見てきて私の心を揺さぶるつもりだ」と思ったから、敢えてイフェイオンを見ないようにした。
やっとこの世界に慣れてきたし、恋愛がしたい。
ドキドキしたいし、一喜一憂したい。
アユカを見て、その気持ちが大きくなった。
でも、イフェイオンに落ちたくない。なんか悔しいもの。
イフェイオンの視線を無視していたら、もう1度手に触れてきた。
でも今度は払わず、そのままで、会議の始まりを聞いていた。
いいねやブックマーク登録、ありがとうございます。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




