転生した世界はクソゲー ~攻略対象は年上だけ!?ショタコンヒロインは義弟を全力で可愛がります~
人気が出れば続くかもしれないショタコンヒロインの物語。
2024.5 ちょっと手直ししました。
「クソゲーじゃん……」
前世の記憶を思い出した時、私──ミチル・リールベルが発した言葉はそれだった。
スチームパンク風のファンタジー世界を舞台とした乙女ゲーム、花の瞳のキミヘ──通称花キミの世界に転生したと気付いたのはつい一昨日のこと。
高熱を出して一晩苦しんだ後、目が覚めたら風邪を拗らせて呆気なく命を落としたオタク大学生の記憶と知識を得ていた私は、すぐに自分が花キミのヒロインだと気付いた。
それと言うのもこの私、光彩のような虹色の髪に、タイトル通り目の中に花の形の光があるという目立ち過ぎる見た目をしているのだ。立ち絵で見ていた時はヒロインだしと納得していたけれど、いざ鏡を見た時は正直引いた。
しかも、そんなに目立つ容姿をしているというのに物語序盤までは自他共に認める普通の子だったというのだから、ヒロイン周りだけ価値観がバグっているのだろうか?
「……けど、問題はそこじゃない」
そう。私がこの世界をクソゲーと呼んだのには理由がある。
一般的には、やや不評──ボリューム不足だという声や、一部ユーザーからパッケージ詐欺だという声があったくらいの評価だったと思う。それでも、決してクソゲーオブザイヤーなんかにノミネートされたりはしていなかった、筈だ。
しかし。
「攻略対象が全員年上だなんて、私にとっては最低のクソゲーよ!!」
前世でのこと。その日、予約していたゲームの発売延期を嘆いていた私は、半ば自棄気味に、よく調べもせずパッケージに描かれていた金髪碧眼の美少年に惹かれて花キミを購入した。
当然、パッケージに描かれているのだから攻略対象だと思ったのだけれど……甘かった。
「まさか、パッケージに描かれてるキャラの内二人も攻略できないなんて思わないじゃない!」
そう。パッケージ詐欺という声は、そこに掛かっているのだ。描かれている五人の男性キャラの内、幼馴染みの少年と義理の弟の二人がまさかの攻略対象外。
件の金髪美少年は義理の弟で攻略できず、立ち絵こそあるものの、スチルはバッドエンドの一枚のみだったのだ。
──いやいや、バッドエンド?私にとっては、あれこそがトゥルーエンドですけど!?
ぼふんとベッドに倒れ込んで、義弟のスチルを思い出す。
どこか寂しげな夕日の差し込む部屋で、可愛い義弟が得意のピアノで傷付いたヒロインの心を癒してくれる。誰のルートにも入れなかった場合に辿り着くエンディングだが、まだ声変わりもしていない可愛い弟が、姉さんと慕うヒロインの為に笑顔でピアノを弾いて聞かせてくれるシーンが私は大好きだったのだ。
だがしかし、あくまであれはバッドエンド扱い。義弟との間に恋が始まるどころか、そこで物語は終わる。
ちなみに、幼馴染みの少年に至ってはスチルすら存在しない。攻略対象の情報を教えてくれる、所謂お助けキャラだからなのだろう。
「血が繋がってない弟なんて最高のポジションじゃない!なんでルートがないの!?」
じたばたと足を忙しなく動かしてみたところで、現実は変わらない。
とはいえ、この世界も悪いことばかりではない。ルートがないのは残念だが、好みの金髪美少年に姉と慕われ、一つ屋根の下暮らすだなんて、前世から考えれば間違いなく夢のような生活なのだから。
「よく考えたら、別に恋仲になる必要はないわよね?美少年もいずれはおじさんになっちゃうんだし……イヤー!自分で言ってダメージ、うっ」
私は生粋の年下好きであり、中でも美少年が大好きだ。
どれ程愛した推しだろうと、美少年が美青年になる頃には興味が薄れ、それ以上になれば完全に魅力を感じないどころか拒否反応を起こす、我ながら少々厄介な性質の持ち主なのである。
悲しいことに、主にゲームや玩具販促の為の少年向けアニメ作品なんかで、このパターンをくらったことが何度もある。
「ゲーム通りなら、あの子がうちに来るのは二年後……」
義弟は、血縁的には本来は再従姉弟にあたる。
今から二年後──ゲーム開始の三年前に、従兄弟同士仲が良かった私のお父さんが、飛空艇の事故で両親を亡くした十歳の少年を放っておけず、家族に迎え入れることで我が家に来る。
つまり、ゲームの物語開始は今から五年後。
それまでに私は、花キミのヒロインとしてのフラグをバッキバキに折らなければならない。
推しキャラとさえ出逢えればそれでいいのだ。むさ苦しいパイロットも、魔法研究家の残念イケメンも、爽やか兄貴系冒険者も私には必要ない!
「飛空魔法をさえバレなきゃいいんだもの。学校に遅刻しそうになって使ったのがきっかけだった筈だし毎日早起きして……もし物語の強制力が働いたら、その時は堂々と遅刻してやるわ!」
でも、まだ今暫くは何もしない。
飛空魔法は勿論使わないけれど、変に幼馴染みを避けたり、逸る気持ちを抑えられずにお父さんに再従姉弟に会いたいなんてわがままを言ったりも──不承不承ながら──しない。
だって、そのせいで可愛い弟がうちに来なくなったら大変だもの。両親を喪わせてしまうのは可哀想だけれど、だからといって今の私が何か言って事故が防げるとも思えない。
だから、今は──
「来るべきお姉ちゃん記念日の為に、姉力を鍛えましょう。手作りお菓子と美味しいご飯で、少しずつ悲しみを癒してあげるからね!」
義弟がヒロインから手作りお菓子を貰ったり、好物のシチューを振る舞ってもらったりして少しずつ笑顔を見せるようになったという過去が、ファンブックにさらっと書いてあったのは覚えている。
そして数年を姉弟として過ごしたら、弟が美少年から美青年に変わってしまう前に家を出よう。どこか遠くの町で、孤児院の職員になるのはどうだろう?うん、きっと天職に違いない!
「ふふっ、クソゲー世界も意外と悪くないかも!」
少し前までの絶望や怒りはどこへやら。すっかり元気になった私は、未来の可愛い弟の為にも料理を教えてもらおうと母のいるキッチンへ向かうのだった。
この時の私はまだ知らなかった。
前世の自分が死んだ一年後に、義弟ルートが追加された別ハードへの移植版が発売されていたことを──
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