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そこではセオは今よりずっと大きく成長した状態で、まばゆい光の中、誰か白装束をまとった金髪の美しい女性と言葉を交わしていた。
――は、――――けど、まだ――――――できる。
――れば、――――思う。だから――――て。
――った。ごめん――――。私は――――――する。
そしてその最後に、その女性がはっきりと言った。
顔はまだ全然思い出せないけど、その迷いを知らないよく通る声で、セオに。
『――あなたなら、できる。あなたにしかできないの、セオ』
ハッと。
セオは、唐突に目を覚ました。
けれど目を覚ましたセオは、再びすべてを忘れてしまっていた。
夢の中で会った白装束の女性も、その女性にかけられた大切な言葉も。
まるで強すぎる光が逆に視界の全てを遮ってしまうように、強烈すぎる夢はセオに「夢を見ていたこと」を忘れさせるほど、セオの頭からすっかり消え去ってしまっていた。
やがてセオは自分の置かれた状況を思い出し、慌てて窓の外を覗く。
(……あの男性に手術を頼んだ代わりに外の監視を任されたというのに、なんて失態だ)
しかし幸いにも窓の外の景色は眠る前となんら変わりなく、魔物の気配も特に感じられない。
「……ふう」
そこでようやくセオは振り返り、ビルディークの姿を探した。
「…………?」
ところがそのビルディークの姿がなぜか見当たらない。
とはいえ机の上には少女の姿があって手術器具もまだそこに放置されていたので、先の男性が自分の作った妄想か何かだったという線は薄いだろう。とにかくセオは簡易な手術台となった机に近づき、少女の容体を確認する。
「…………ん」
するとタイミング良く(悪く?)少女が小さく声を上げ、「……っ⁉」とセオをどっきりさせる。
「だ、大丈夫か⁉ おい!」
セオが慌てて声をかけると、その声に反応してか、少女がゆっくりと目を開ける。
「うーん……」
よかった、無事だったか……
セオが安心したのも束の間、目を開けた少女が放つ一言が、セオに思わぬ衝撃を与える。
「あなた、だれ……? わたしは……だれ?」
――――っ⁉
少女の言葉にセオが衝撃を受けたのは、決して「命を取り留めたものの少女が記憶喪失になってしまっていたから」ではない。
むしろ、
「俺……おれ、は……一体だれ、だ?」
少女に言われてセオはようやく気付いたのだ。
自分が、セオ・ノイギアーテという自分の名前以外、何一つ思い出せないことに。