1-4
――――数刻後。
ズキッと、頭に響く強い痛みでかろうじてセオが目を覚ました。
「くっ……痛ってぇ」
意識が戻ると頭の痛みがより強く感じられて、たまらずセオは頭を押さえる。まるで間近で巨大な時計塔の鐘を鳴らされているかのようだった。それでもセオはまだ痛む頭を左手で強く押さえて、なんとかその場に立ち上がる。
「ここは……あっ!」
そして一瞬こそ記憶が混濁したものの、すぐに意識を失う前に何があったかを思い出し、周囲を見回した。
「くそ……あいつらは? ……いない? あっ、あの子は!」
するとすでに自分を襲った魔物たちの姿は見えず、代わりに地面に横たわる一人の少女を見つけて、セオは急いでその少女の元へと駆け寄る。
「お、おい、大丈夫か⁉ おい!」
「…………っ」
セオの呼びかけに少女は何も反応しなかったものの、幸いにもまだ息があることだけはわかった。一方で少女の頭からはかなりの量の血が流れ出ていて、状況は一刻を争う。
(早く医者に見せないと……でも)
しかし、そう、問題はそこに至るまでの道のりだ。
見知らぬ土地。
遠くからいまだ聞こえる魔物の唸り声と人々の悲鳴。
そして、赤黒い大地と同じかそれ以上に疲弊しきっている自身の体……
それら全ての要素を勘案した時、生きている人がいるかもわからない、どころか出会えば確実に死が待ち受けている魔物が闊歩する町中で、見つかるアテもない医者を小さな女の子を抱えながら探し出す……それは一体どれだけ無謀な賭けだっただろう。
それでも……
「……くそ…………くそっ、くそッ‼」
それでもセオはなお……
「絶対に、死なせてたまるかっ‼」
無意識に魔物の前に飛び出した時と同じように、気づけば少女の身体を抱え、絶望にまみれた町中を必死に駆け回っていた。
「はあっ……はあっ!」
これまで水も飲まずずっと歩いてきたことによる疲労、魔物の攻撃を受けたことによるズキンズキンという激しい頭痛、そして一歩間違えば再び魔物と出くわし一瞬のうちに少女もろとも蹂躙されるかもしれないという極度の緊張……それらすべてが逆に、馬車馬のようにセオの足を動かす。
「はあっ、はあッ、はあっっ‼」
けれど当然、医者などそう簡単には見つからない。
走って、走って、走り回って……しかしセオの目に映るのはもう動かなくなった町の人々の死体や、ゴウゴウと火の手を上げる半壊した家屋ばかり……
「はぁっ……はぁっ……!」
その光景はセオが走る回る間、何度もセオの心を折りそうになった。
見つからない医者。
人々の死体。
見つからない誰か。
燃える世界。
………………
「くそっ! くそっ‼」
無我夢中だった。
絶望しかない光景を前にして、なおそれが見えなくなるぐらい、セオはただ必死だった。
「誰か……いま、せんかっ。だれ、かっ‼」
だからセオがわずかな気配を感じてバンとその家のドアを開けた時、セオはもう自分がどれぐらいの時間町中を走り回ったか、すっかりわからなくなっていた。けれどもそれは、決して短い時間ではなかっただろう。