ダンジョン探索①・アルカディア英雄の道筋
洞窟探索から1時間が経過した。
しかし、特に何も見つけることはできなかった。
「ねぇ、ここって本当に洞窟なの?」
「だと、思うけど…」
1時間だ、1時間も探索しているのに、あるのは一本道のみ。
分かれ道があるわけでもなく、風の音すらしない無音の空間。
「もしかしたら、ここ洞窟じゃないかもな」
「え〜〜」
探索を1時間もして、何も得られていない以上、その可能性を考える必要がある。
とはいえ、一本道しかない以上、いくら考えたとしても、憶測で止まってしまう。
結局、俺たちは休憩を挟みながら、一本道を進み続けた。
「ねぇ、流石にこれ、やばいんじゃない?」
「そうかもな…」
もう何時間歩いたか分からない。
風景も変わらず、ひたすら真っ直ぐ、同じ様な道を進む…頭がおかしくなりそうだ。
すると、天井の岩のかけらがポツっと落ちてきた。
俺はそれを腰を曲げながら拾った。
特に変哲もない、ただ岩のかけら、触りごごちもただ固くざらざらしているだけ……。
「……?なんだこれ…」
少しの間、触っていると岩のかけらの異変に気づいた。
岩のかけらをすり潰そうとしても一切、潰れず、割れなかった。
俺はふと天井を見上げる。
「どうしたの?何か見つけたの?」
「そういうことか…」
天井からは岩が欠けて落ちてくるのに、手で潰そうとすると潰れないのはおかしい。
「アルカディア、剣は持ってるよな」
「もちろん、持ってるけど…」
「じゃあ、今すぐ、この壁に重い一撃で叩き斬れ!!」
「え…」
「説明は後でする!!斬れ!!」
「わ、わかった……」
アルカディアは剣を構え、思いっきり壁に向けて振り抜いた。
すると、斬られた壁が崩れ落ち、新たな道が現れた。
「う、うそ…」
「よし、いくぞ」
「え、ちょっと…」
新たにできた道に入り、後ろを向くと……。
「え、ちょっと真也!!道が塞がっていくんだけど!!」
「やっぱり、そういうことか、ふん、喜べ、ここの場所がわかったぞ」
一本道に隠された道、それに穴の自動修復、間違いない、ここは。
「ダンジョンだ」
「ダンジョン?、ダンジョンって確か、よく異世界ものにある迷宮のこと?」
「そうだ…」
「てか、この世界にダンジョンあったんだ」
「問題はここがどこのダンジョンでどの階層にいるかによるな…」
「そいういえば、ここがダンジョンなら、どうして魔物が1匹もいないんだろう」
「確かに…そうだな」
ダンジョンは基本、下層、中層、上層、深層に分かれている。
そしておそらく、このダンジョンの層は中層以上だ。
不自然な点を挙げるなら、アルカディアが言っていた魔物が1匹も現れていないことだが…。
まぁまだ、遭遇していないという考えもあるが、果たして1時間以上も探索してそれがあり得るのだろうか。
とにかく、ダンジョンである以上、上を目指すのが一番なんだが……。
「階段がない…」
「階段?」
「ああ、上に続く階段が…」
「ああ、確かに、ダンジョンだから普通は次に続く階段があるはずだよね」
「その通りだ、そして一番問題なのが、さっきまで俺たちはずっと真っ直ぐ歩いていたということ」
「一本道…そもそもあの先に次に続く階段があったのかってこと?」
「まぁ、それもあるんだが…」
ここがダンジョンなのは間違いない、だがこんなダンジョンを俺は知らない。
俺はふと地面を見ると不自然な小さな穴を見つける。
「なんだ、この穴…」
わずかに微風を感じる。
だが、それはおかしい、そもそも下にいけばいくほど風を感じなくなるのが普通だ。
「アルカディア、この小さな穴に向けて、また剣で叩き斬ってほしいんだが…」
「別にいいけど…これって大丈夫なの?」
「分からない、ただ…ここにヒントがあるような気がする」
「わかった」
そしてアルカディアは小さな穴に目掛けて、剣で叩き斬った。
すると小さな穴からギシギシと亀裂が広がっていく。
「ねぇ、なんか嫌な予感がするんだけど…」
「ああ、俺もだ…」
そして亀裂から、ボロッと音がした瞬間、俺は察した。
「アルカディア、今すぐに走るぞ」
「え?」
俺は猛スピードでその場から逃げ出した。
それとほぼ同時に、地面が完全に崩れ始め、俺たちを襲った。
「ちょっと!!私を置いて逃げないでよ!!」
「それに関してはごめん…じゃない!!いいか、もし穴にでも落ちてみろ、もう二度とダンジョンから出れないと思った方がいい!!」
「どういうこと?」
「いいか、ダンジョンには下層、中層、上層、深層に分かれていて、下にいけば行くほど、生存率が下がり、魔物もより凶暴になる、そして!!俺の予想では今俺たちがいる階層は最低でも中層以上!!つまり!!これ以上落ちたら、俺たちが死ぬ確率が高くなる!!いいか!死にたくなかったら、とにかく走れ!!」
「で、でも真也、もう穴はそこまできてるよ…」
「え?」
そう後ろ振り向いた瞬間、俺たちが走っていた地面はすっぽりと崩れ去っていた。
「あ、終わった…ぎゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜」
「キャぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」
俺とアルカディアはダンジョンの下へ下へと落ちていった。
目を開けるとそこは壁から地面まで全てがレンガで敷き詰めらている空間にいた。
「ここは…」
「ねぇ、真也…あれ?」
「うん?」
アルカディアが指で示した方には大きな石でできた大きな扉があった。
明らかな人工物、そして俺の中ですでにここがどこか予想がついていた。
「初めて見たけど、ここは間違いない…」
「え?」
「ここは深層の最下層だ…そしてこの扉で予想できることは階層主の部屋に続く扉だ」
「てことはこのダンジョンのラスボス?」
「そういうことになるかな…」
「私たち、終わってない?」
「う〜ん、それはどうだろうね……いや、待てよ…」
俺の中であるプランが思い浮かんだ。
この最悪な状況、俺ですら予想できなかった状況、だがそんな絶望的な状況を利用しつつ、脱出する方法が……。
「ねぇ、聞いてるの?」
「ああ、うん…いやそんなことより、実はいい方法を思いついてね」
「いい方法って碌な方法じゃないような気がするのだけど…」
「安心しろ、アルカディアにとってすごくメリットのあることだ」
「顔に悪巧みをしますって書いてあるよ」
「まぁまぁ、とりあえず、ここから離れよう…詳しいことは歩いて話すよ…」
とりあえず、俺たちはここを後にした。
奥深くにつづく道を歩き、音もなく、風もなく、灯りすらない。
「ねぇ、何を考えてるの?」
「ふふふ、英雄にとって一番、目立つのはなんだと思う?」
「え、え〜と、見た目?」
「まぁ、それもあるな、確かにそれもある、だが見た目だけでは遅かれ早かれ皆、離れてしまう…なら?」
「う〜ん、強さとか…」
「そう!!そうだ!!強さだ!!だから、今から…」
「あの、すごく嫌な予感がするんですけど」
「ふふ、しばらくの間、ここでアルカディアには魔物と戦ってもらう!!」
「やっぱり……」
「何よりも実践が一番…早く、強く、成長する、それにスキルの効力も把握しておきたいだろう?」
「た、確かに…でもここって最下層なんだよ、いくらなんでもいきなりレベル高くない?」
「大丈夫だって…アルカディアのスキルはかなり強力だからな、それに俺もついているから死ぬことはないと思うし…というわけで早速、魔物のお出ましだ…」
すると、暗闇の中から、数匹こちらに向かってくる足音が聞こえる。
音の聞こえ方から四足歩行……。
「3匹かな…よし!!アルカディア!!君の力を見せつけてこい!!」
「なっ!?私だけ!!」
「当たり前だろう、俺が戦ってどうする、ほらほら、魔物の姿が見えてきたぞ」
暗闇の中から現れたのは白毛皮が特徴的で鋭い瞳に鋭い爪をしたオオカミのような魔物だった。
「明らかに、ヤバそうな感じなんだけど…」
「初めて見る魔物だな、やっぱり深層にはまだ知られていない魔物がたくさんいるってことだな…メモメモ…」
「ちょっと!!他人事みたいに!!」
アルカディアが外を向いた瞬間、魔物が襲い掛かる。
「なっ!?」
鋭い爪が襲い掛かり、反射的に剣で弾く。
「あ…危なかった…」
「よそ見はダメだぞ〜〜〜」
「あ、あの野郎〜〜!!あとでぶん殴ってやる!!」
とりあえず、今は魔物に集中しよう。
魔物はこちら側をかなり警戒している。
さっきみたいに油断でもしない限り、猛攻はしてこなさそうだけど。
「ふう…仕掛けるかな」
これでは集中が切れた一瞬の油断を突かれる。
まずは一匹……。
私は最初に一番左側の魔物を狙った。
魔物は3匹、できる限り、3匹を注視しながら、左側の魔物を重点的に狙う。
「すばしっこい!!」
重点的に狙うのはいい作戦だった。
ただ、動きが速い、壁や地面を使った高速移動に、空気を蹴っての縮地による不規則な攻撃。
「いったぁ!!このぉ!!」
数の振りもあるだろうが、何よりこの3匹の魔物による連携攻撃。
「当たらない…どうしたら」
仕掛けるとしたら、攻撃を仕掛けている瞬間、地面もしくは壁に足をつく瞬間、だけどその瞬間を狙えば、他の2匹に攻撃される恐れがある。
これは数と連携による強さ…私にはない、圧倒的な差……。
もしかして、これを伝えたくて真也は私を……。
とふっと真也の方向を向くと、呑気に居眠りをしていた、しかも幸せそうな顔で……。
「あぁ?」
急に怒りの感情が湧いてきた。
その瞬間が狙われ、魔物が一斉にアルカディアに飛びかかる。
注視を外し完全に油断した隙を突かれた。
「邪魔……」
反射的に私は魔物3匹を捉え、一撃で3匹の足を斬った。
魔物達は倒れ込み、動きにくそうな動きを見せる。
「あれ?なんか斬れちゃった?」
あれ、さっきまで斬る以前の問題だったのにあっさり斬れてしまった。
3匹の魔物は足の筋を切られたのか、歩こうにも歩けない状態。
「まぁ、いいや、とりあえず…とどめを刺そう」
私は一匹一匹を確実に首元を狙って殺した。
「これでよし…」
「お、早かったな」
俺はフラフラとしながら、アルカディアに近づいた。
「よくまぁ〜私が危なかった時に寝れましたね…」
「うん?あ〜〜いや、眠かったから、アルカディアだって眠かったら寝るだろう?そういうことだ…いったぁ!!」
とりあえず、一発殴って、許すことにした。
「殺す気かよ」
「手加減はしましたよ」
「嘘だな…」
とはいえ、アルカディアの戦いを観戦して、得られたことはたくさんあった。
まず、スキルは常に発動しているようだった。
最下層の魔物相手に決して引けを取らない強さから見てそれは明らかだ。
さらに俺に対する怒りの感情を出した瞬間、さらに身体能力が上昇していたのも確認できた。
これは俺が思った以上に相当強力なスキルだ。
そこにあの【アヴェンジャー】っていうスキルが加われば……。
英雄レベルの強さに至るのは案外、速いのかもしれない。
「よし、どんどんいこうか」
「え〜〜」
「アルカディア、お前はお前が思っている以上に強い、だから安心しろ」
「真也のその言葉が信用できない」
「まぁ、信用を得られるほど付き合いも長くないしな…それにどちらにせよ、アルカディアには階層主も倒してもらわないといけないし…休憩している暇なんてないぞ」
「ちょっと!!階層主と戦うなんて聞いてないんだけど!!」
「今言ったからな」
そう言って俺は微笑んだ。
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