4話 入学式と幼馴染
誤字修正しました。
月が替わり大学の入学式の日になった。
もちろん自動車教習所通いは続けている。
免許を取るには毎日通ったとしても1月半以上はかかる。
仁美は高校の卒業式にこそでれなかったが、大学の入学手続きは母の手を借りながらも進めていたのだ。
ここで、自暴自棄になって大学もいかなかったらパパが悲しむ、そう仁美は考えたからだ。
大事な人を亡くした場合、自暴自棄になる人、悲しみに暮れて何もできなくなる人などもいるだろう。
しかし、悲しみから目をそらすように仕事や何かに打ち込む人もいる。
仁美は後者だった。
とにかく目の前にある出来ることをやることで、なるべく父の死について考える時間が少なくなるようにしているのだ。
これはストレスマネージメントの観点からも正しい。
人は大きなストレスを抱え続けられるほど強くはできていないのだ。
入学式を迎え、きっと死んでからも見守ってくれているパパに、今日の晴れ姿を見てもらうんだ!と、仁美は一人、手を握りふんす!と気合を入れる。
しかし、気持ちとは裏腹に生まれて初めてのスーツを着込んだ仁美は何度も同じ内容を母佳澄に問いかける。
「ママー、変じゃない?これであってる?」
「はいはい大丈夫。あってるわよ」
朝から何度も聞かされる娘の言葉に同じ言葉を返す母佳澄。
仁美が着ているスーツはネイビーカラーのスカートタイプだ。
後に就活でも使えるようにダークカラーにしている。
スーツの内に見えるシャツは薄い青色でスーツからフリルが見え女性らしさを演出している。
普段履き慣れないストッキングをはくことで、女性にしては少し身長の高い仁美の脚線美を引き立たせている。
肩まであるストレートな髪質は重く見えないように少し茶色に染めている。
大学生にもなったので薄く化粧もしている。
仁美は父べったりでよく父の車に一緒に乗ってついていってはいたが、決しておしゃれに無頓着なわけではなかった。
他の娘ほど興味を持っているわけでもなかったが、父和仁にも「身だしなみはいつも気を付けるように」と言われていた。
佳澄は愛娘の晴れ姿に感極まる。
「本当に立派になって。お父さんがいればほんと喜んでくれたんだけどね」
言葉が終わるころには泣き出していた。
父和仁が亡くなってまだ二か月も経っていない。
「ママ・・・。大丈夫。パパもきっと見てくれてるよ。それこそ、私のことが気になりすぎて天国に行かずにその辺で見てると思わない?」
仁美は一緒に泣きそうになるのをぐっとこらえて、自分の上あたりを指さしながらわざと明るく言った。
「そうよね。パパだものね」
夫の娘の溺愛ぶりは妻である佳澄がすねるほどであった。
「ふふっ」
「ふふふっ」
二人して想像して笑ってしまった。
大学の入学式は親も参列可能だ。
大学といえど学校であり、親からしてみれば高い学費を払って子供を行かせるのだ。
晴れ舞台を見る権利くらいはあるだろう。
もちろんこれが会社になれば入社式に来る親など非常識以外の何物でもないが。
大学は地元の国立大学に合格していた。
選んだ理由は親にお金のことで迷惑をかけたくないからだった。
両親には、
「お金のことは心配しなくていいから、行きたいところに行っていいんだよ?」
と言われていたが、
「大丈夫。地元の大学で学びたいことが学べるから」
と、父和仁譲りの頑固さを十二分に発揮していた。
子供の4年間の大学費用は400万円から私立になると1000万円までかかるといわれている。
仁美はそんな大金で、親に迷惑をかけたくなかった。
自分の家が貧しいとは思ってはいないが、お金持ちといえるほどでもない一般的な家庭であることをよく理解していたのだ。
なので、一番負担の少ない、実家から通える大学を選んだというわけだ。
そして、仁美はそれだけの学業での成績を収めていた。
通っていた高校も進学校だった。
もともとこつこつ勉強するタイプではなかったが、小さいころからそれをわかっていた両親が公立の進学校である中高一貫校を仁美に勧めたのだ。
高校受験は大変だから、中学受験のほうがまだ大変じゃないよ、と。
昔から素直な仁美は、じゃあ受験すると小学校5年生の時から塾でがんばり、見事中学受験を成功させたのだ。
両親は大喜びし、喜んだ両親を見て仁美もとても嬉しかった。
子供が頑張る理由は親が喜ぶからに他ならない。
小学生のころから目的をもって一人で頑張ることのできる子は、ごくまれにしかいないのだ。
受験勉強は両親が一緒になって考え、できたら喜び、時には励まし、成績に一喜一憂して一緒になってがんばったから仁美も頑張れたのだ。
そして中学から進学校に通った仁美は、そのまま周囲の学友の勉強する姿に感化されて自然と毎日勉強するようになったのだ。
両親の目論見通りだった。
和仁曰く、
「パパがそうだったように、自分から勉強できなくても、そういう環境に飛び込めば自然とできるようになるもんだよ。だって、周りを見たらそれが普通なんだもの。勉強することが当たり前になる。要は習慣化するんだね。何事も大変なのは習慣化するまでなんだよ。」
ということだった。
仁美も自分のことながら、なるほど、と思ったのだった。
今日の大学までの道のりは母の車で来ていた。
地元の国立大学は総合大学で敷地面積がとても広く、自動車通学も認められており駐車場も十分な数がある。
仁美も免許を早くとってハチロクで通学する気まんまんだった。
父和仁のハチロクで大学に通学する。
それを考えるだけで心が躍るのだった。
今は学校生活よりもそれこそが一番の興味のあることだった。
駐車場で車から降り、歩きながら内心でハチロクで通学する姿を想像し、ふふふと悦に浸っていると母佳澄に声をかけられる。
「仁美、あそこにある入学式の立札の前で写真を撮るわよ」
「あ、うん、わかった」
妄想から現実に引き戻され、うなずきを返す。
そのとき、後ろから呼び止められた。
「仁美!」
仁美は声の主に振り返った。
「遥!?」
声の主は幼馴染の小島遥だった。
「仁美、もう大丈夫なの!?卒業式にも来ないから心配してたんだから!心の病気だと聞いてたから下手に連絡するなとも先生に言われてて、ほんとに、ほんとに心配したんだから!」
涙目になりながら、遥は仁美につめよるように言ってきた。
本当は連絡したかったができなくて、様子も母伝手にしか聞けなくて心配で何もできないのがもどかしい日が続いていたのだ。
「心配かけて本当にごめん。もう大丈夫、とは完全に言えないけれどそれでも前を向いて歩くくらいはできるようになったよ」
「そう・・・。お、いや、とにかく仁美と一緒に入学式を迎えられて本当に良かったよー!」
遥はとっさに「お父さんのことは・・・」と言いそうになるのをこらえた。
幼馴染である遥は仁美の父和仁に対する並々ならぬ愛情をしっており、和仁の死から二か月とたっていない仁美が引きずっていないわけがないことが分かったからだ。
涙目の遥に仁美は苦笑いをしながらお礼を言う。
「うん、ありがとう。私も遥と一緒に入学式に出れてうれしい」
「うん、うん」
遥は何度もうなずいた。
二人がこのような話をしている後ろでは二人の母親同士が、「この度は・・」「いえいえこちらこそあのときは・・・」と、挨拶を交わしていた。
そして佳澄が、
「じゃあ、せっかくだから二人で写真とりましょうか」
と言って二人で並んで写真を撮った。
それぞれの写真も撮ったあとで会場に一緒に向かいながら仁美が遥に問いかける。
「他に知ってる子で同じ大学に入ったのって誰かいたっけ?」
進学校といえども、地元の国立大学は決してレベルは低くなく、仁美が聞いたのは確か十数人くらいが受験したとのことだった。
「何人かいるけど、そうそう隆も受かったって言ってたよ」
「え、高橋君も?」
高橋隆。仁美と遥の幼馴染で三人とも小、中、高と一緒だが、仁美は高橋とだんだん話す機会がなくなり、今では名字で呼ぶようになって会話すらまともにしなくなっていた。
遥は「隆」と呼ぶことからわかるように、それなり今でも隆と話すようだ。
しかし、そこまで仲が良いというわけではなく付き合ってるとかでももちろんない。
「確か、仁美と同じ学部で同じ学科じゃなかったけ?」
「え!そうなの!?」
遥は教育学部で仁美とは違う学部だった。
仁美はというと工学部電気電子工学科だ。
女性が入る学科としてはとても珍しく、男女比が9:1というほどだった。
「それは、仁美が男子の多い工学部に入るから」
「あー、まあそうだね」
と仁美は苦笑いしながら答える。
そして、遥は内心でつぶやく。
(どーも、隆は仁美が受ける学部と学科知ってたみたいなのよね。小学校のころから仁美に気があるみたいだったし。卒業式の日も慌てて私に仁美のこと聞いてきたし。私の目の黒いうちは仁美はやすやすと渡さないんだからね!)
「ん?何か言った?」
どうやら少し声に出てたらしい。
「え!?いいや、なんでもないよ?なんでも、あはは」
慌ててごまかす遥。
そして二人で入学式会場に入場するのだった。
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高橋隆が入学式会場で座っていると、前の席のほうで水島仁美の姿を見つけて安心していた。
高校の卒業式にこなかったときは本当に心配したが、大学の入学式には来れたようだ。
小、中、高と同じ学校だったが中学、高校に上がるにつれ疎遠になっていった幼馴染。
受験の志望校を決めるとき隆は悩んでいた。
地元の大学の工学部を受けるところまでは決めていた隆だったが、学科をどうするか決めかねていたのだ。
将来特にこれをやりたいという明確なものがなく、やるなら理系のものがいいといった漠然とした理由で工学部を選んでいた。
それを、たまたまクラスメートの女子が仁美がどこを受けるかの話をしているのが聞こえてきたのだ。
たまたま同じ大学、同じ工学部と聞いてとても驚いた。
学科は電気電子工学科だという。
女子たちは「女の子なのにめずらしよねー」「ねー」なんて話をしていたのだ。
工学部でどの学科にするか迷っていた隆は一もニもなく電気電子工学科に決めたのだった。
中学のころから思春期からか、女子と話すのが気恥ずかしくなり仁美とも疎遠となっていき、気が付いたら話しかけたくても話しかけられなくなっていた。
もともと仁美のことは小学校から気になってはいたのだが、それが明確な恋心と自覚したのは高校になってからだった。
何とか話しかけたいと仁美の姿を目で追っている自分に気づいたからだ。
同じ幼馴染である小島遥は活発な性格から隆に対して遠慮なく声をかけてくるが、仁美は落ち着いているというか、積極的な性格ではなく、何か用事がないと話かけづらい雰囲気を醸し出していた。
高校3年間で何とか話しかけようと試みるもうまくいかなかった。
そんな隆に巡ってきたこのチャンス、絶対にモノにして見せると大学受験をがんばったのだった。
しかし、仁美の父が亡くなりショックで仁美が病気になったと聞き心配していたのだが、卒業式にも来なかったので慌てて遥に事情を聴くも遥も直接連絡を取っていないという。
その後、仁美のことを確認しようもなく入学式に来れるかどうか心配していたのだが、入学式会場で前に見える仁美の後姿を見つけ安心したというわけだ。
安堵しつつも、
(同じ学科で同じ授業も受けるはずだから、今度こそ話せるようにがんばろう)
そう心に誓う隆であった。
この日、水島仁美、小島遥、高橋隆は大学生になった。
Appendix
次回、自動車学校の話に戻ります。
というか、免許を取るのにだいたい二か月くらいですから、間にどうしても入学式はさんでしまうわけです。
もし、高校3年生の方が読んでくださっているのでしたら、早めのうちに自動車学校に行くことをお勧めしますよ。
ちなみに私が免許とったころは1か月で免許がとれました。
合宿でもなく毎日通って、しかも中免(今でいう普通自動二輪免許)も一緒に。
さらに、値段も今より10万円以上安かったですね。
もちろん、中免の学科免除もありましたけど。
バイクと車の免許を一緒に取ると、学科の教科がダブるのでその分は免除されるんですね。
当然といえば当然ですが。
昔よりそれだけ授業のコマ数が増えたみたいですね。
さらに、当時の車の免許だと、8t以下ならトラックも運転できるんですよ。
レンタカーでローダー車を借りてハチロク運んだこともあります。
今と昔で免許も変わったというお話ですね。




