20話 自動車部
仁美は今日も大学で授業を受けている。
1年生では専門の授業は少なく共通科目のほうが多い。
共通科目は学部、学科関係なく選ぶことが可能だ。
第二外国語の選択もあり、仁美は遥と同じスペイン語を選択している。
遥に強く勧められたからだ。
発音が他の外国語よりも日本語に近く覚えやすいと遥が熱心に勧めてきたのだ。
もちろん、遥が仁美と一緒に授業を受けたいがために勧めたのだが。
遥と仁美が二人で座っていると、ちらちらと男たちから視線が集まる。
共通科目だけあり女子も半数ほどいるのだが、容姿が一つ抜けた二人に雰囲気がそこだけ別の空間のような様子を醸し出している。
仁美は授業でRの発音の巻き舌に苦労しつつ、休み時間になってから遥に話かける。
「実をいうと自動車部に勧誘されてて」
「え、そーなの?」
仁美に相談されてすぐさま頭が回転する。
(仁美が部活に入っちゃったらただでさえ違う学部で会う時間が高校の時より減ってるのに、これ以上減らされてたまるものですか!)
「部活入らなくても、仁美の家には道具も場所もそろってるから入る必要ないんじゃない?」
「そーなの。だからあまり必要を感じてなくて」
(やった!仁美も同じ考えだった!これなら大丈夫かな)
仁美の言葉に安心する遥。
「だけど今日自動車部をぜひ見学しに来てくれって誘われてるの」
「なんですと!」
「!?」
思わず変な言葉を発してしまった遥にびっくりした仁美だった。
「んんっ!んっ!ごめん、ちょっとかんじゃった」
「え、う、うん」
てへぺろしそうな勢いでごまかす遥にとりあえず仁美は頷く。
(どこのどいつよ!仁美を強引に誘うやつは!)
遥は内心の憤りを隠しつつ、仁美に提案する。
「じゃあ、私も行くよ」
「え!いいの!?」
「もちろんよ!一人じゃ心細いでしょ?」
「うん、そうなの!ありがとー!さすが私の大親友ね!」
「いやいや、それほどでもあるよ」
うんうん、と満足気に頷く遥と嬉しそうな仁美だった。
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仁美と遥の通う大学には各部活が使用する部活棟がある。
棟といってもプレハブの簡易棟だ。
部活棟の前にも駐車場がありその端に軽自動車が野ざらしにしてある。
ボンネットは開かれており、覗いてみてもエンジンがない。
タイヤすらついておらず、ブロックを馬がわりにしている。
もし、これがこの大学の部活棟の駐車場でなかったら車上荒らしにでもあったのかと思われることだろう。
しかし、この野ざらしにされている車は部活棟の自動車部部室の前にあった。
自動車部が車の組みばらしの練習に使った車両だった。
部室の隣にはタイヤが積まれている。
その自動車部部室前に四人の姿がある。
自動車部の福山と仁美と遥、そして隆であった。
「で、なんで隆がここにいるのよ?」
遥が当然の疑問を口にする。
「いや、福山と水島が今日自動車部に行くっていうから興味あって」
同じ学科である福山と仁美が自動車部に行く話を聞いて、思い切って自分も行きたいと話から話かけた隆であった。
「高橋君もやっぱり興味あるよね。MT車の免許取ったくらいだもんね」
仁美も隆が車好きな仲間だということが嬉しいようだ。
そして自動車部に入る気はないが、自動車部そのものには興味があり少しわくわくしている仁美だった。
「じゃあ、3人とも自動車部へようこそ!」
福山がそういいながら部室の扉をあけ中に案内する。
「お邪魔しまーす」
「失礼します」
「・・・どうも」
遥、仁美、隆の三者三葉の言葉で部室に入る。
仁美が中を見た感想は、いろいろごちゃごちゃしてる、だった。
壁側には金属ラックがならび、サスペンションやマフラー、何の車か分からない部品が無造作につまれている。
窓際には作業机があり、工具箱がおかれ壁には工具がかけられている。
部室の真ん中には積まれたタイヤの上に天板がおかれ、テーブルがわりに使われていた。
テーブルの周りにはベンチと車から外されたシートがおかれており、椅子がわりに使われている。
そこに二人の人物が座っていた。
一人は仁美たちより年上に見える男性、もう一人は小柄な女性だった。
「ああ、いらっしゃい。自動車部へようこそ」
男のほうが立ち上がり仁美たちに挨拶をしたのに対し、女性のほうは一瞥して手にしていた車雑誌に視線を戻した。
「僕が3年の自動車部部長泉翔也だよ。部長でも先輩でも翔也君でも好きに呼んでね。こっちの娘が1年の尾道恋。みんな恋って呼んでるよ」
部長の泉が紹介すると、恋はぺこりとおじきをした。
福山が仁美たちのことを泉たちに紹介する。
「部長、この前話したハチロクの同級生とその友達です!」
遥と隆の紹介をはしょる福山。
気にせず仁美たちが挨拶する。
「工学部1年の水島仁美です」
「教育学部1年の小島遥です」
「工学部1年の高橋隆です」
「話は福山から聞いてるよ。水島さんはハチロク乗ってるんだって?女の子なのにすごいね。他の二人は何乗ってるの?」
泉が3人に尋ねる。
「私はTOYOTA86を」
「俺はまだこれからです」
遥と隆は答える。
「へー、君はTOYOTA86か。ハチロクと86というのもすごいね。今日はよく来てくれた。別に部に入るよう無理に勧誘する気もないから気楽に部室には遊びに来てよ」
「あ、はい!ありがとうございます!」
泉の言葉に仁美は安心したようだ。
半ば強引に福山に部室に誘われた手前、入部を強いられるのではないかと少し警戒していたのだ。
「自動車部の活動ってどんなことしてるんですか?」
遥が尋ねる。
「まあ、車に関することなら何でもかな。部室の前の軽(自動車)みたいに車ばらしたりパーツつけたり、あとは走行会とかもやってるよ」
泉の言葉に隆が質問する。
「車いじるときにいろいろ教えてもらえたり手伝ったりしてもらえますか?」
「もちろん。な、福山」
「そうそう。俺も180SX譲ってもらったし、いじるの教えてもらいながら手伝ってもらってるし!」
なるほど、と隆が頷く。
「水島さんだっけ?ハチロク乗るの大変じゃない?」
泉が仁美に話しかける。
「そーなんですよ!最初まともに動かせなくて!」
「あー、もしかして重ステ(パワステなし)なの?」
「そーなんです!」
仁美もハチロクの話にテンションが高い。
二人の会話に仁美が割り込む。
もちろん意図的にだ。
「ところで泉先輩は車何乗ってるんですか?」
「あー、僕はS2000だね。ちなみに恋はスイスポ(スイフトスポーツ)だよ」
泉が答え、恋がうんうんと頷く。
「部長はがちっぱやなんだ!」
ガチで速いといいたいのだろう、福山が話に入ってくる。
へー、と3人が頷く。
「高橋君だっけ?車これから買うんだったら、よかったら相談乗るよ?」
「ほんとですか!?」
「もちろん!別にだから自動車部に入れなんて言わないしね」
泉の言葉に高橋が喜んだ。
「あと、走行会なんだけど興味あればぜひ参加してみてよ。これも自動車部に入ってなくても全然ウェルカムだから」
「あ、はい!そのときはぜひ誘って下さい!」
「検討します」
仁美と遥のそれぞれの返答に笑顔で返す泉。
車の話にその後も盛り上がり夜までずっと話し込む仁美たちであった。
Appendix
作中で書いてて長かったのでこちらにNA車について書こうと思います。
自然吸気であるNA車のフィーリングが好きという人は結構多くてですね、その中でもNA車愛好家の代表といえるのがホンダユーザーです。
1990年代各メーカーがスポーツカーの開発に力を注ぐ中、ターボによる過給に頼らずスポーツカーの開発に注力するメーカーがありました。
それがホンダです。
F1で活躍したエンジン開発力を生かし、ターボ車がひしめくスポーツカー業界でNA車で真っ向から勝負を挑みました。
しかし、単純にノンターボ車とターボ車では同じ排気量のエンジンではターボ車のほうが出力は高いのです。
過給してるので当たり前ですね。
いっぱい空気を入れることができるということはそれだけ燃料も入れられるということです。
混合気を燃やしているので。
排気量が大きいエンジンが速いのはこのためですね。
そのためターボ車に負けないためにはどうするかと考えたホンダはエンジンの回転数を上げることにしたわけです。
エンジンの出力は回転数に比例します。
車のレースの最高峰であるF1も回転数は2万回転まで上がるそうです。
ホンダは考えました。
エンジンの回転数をあげるためにはどうするか。
出力を上げるためにはもちろん、エンジンの精度の高さもあります。
ピストン、クランク、コンロッド、シリンダーブロック、カムシャフト等々、精度が高いほうがエンジンは滑らかに廻り、出力を上げやすくなります。
ホンダはそれだけの技術をF1で培ってきていたのです。
しかし、同じエンジンでいかに精度を上げようとエンジン出力は数パーセント程度しかかわりはしません。
そこでホンダが目を付けたのがハイカムでした。
ハイカムとはカムシャフトのバルブを押すカムの山形状を大きくすることです。
カムをハイカムにすることでバルブを開ける量を大きくでき、エンジン燃焼室に入れる空気量を
増やすことができるのでした。
エンジンはガソリンと空気の混合気を燃焼室で燃やしその爆発力でピストンを上下運動させます。
爆発力を上げれば上げるほど出力があがるわけです。
爆発力を上げるためには混合気を増やせばよく、混合気を増やすためには空気量を増やせばいいということですね。
しかし、ハイカムにもデメリットがあり低回転域のトルクが下がってしまうのです。
トルクとは回転する力のことです。
簡単に言うならトルクは加速力、出力は最高速と考えればいいと思います。
このデメリットの理由は低回転時の空気量が増えすぎてしまうからなんですね。
低回転域と高回転域では必要な空気量が違うのですよ。
より回転数を回そうと高回転に合わせた空気量を入れるためのハイカムでは低回転域に合わないのですね。
レースなどでは高回転域を使い続ける走り方をすればいいのでそれはそれでいいのですが、一般車ではそうはいかないわけで。
街乗りでは0Kmの発進から法定速度の60Kmまでが常用域だからですね。
ちなみに高回転側のハイカムに対して低回転側のカムをローカムといいます。
なので、それまで普通乗用車はローカムが用いられていたんですね。
そこでホンダが開発したのがVTECエンジンなわけです。
VTECとはVariable valve Timing and lift Electronic Control system、可変バルブタイミング・リフト機構のことですね。
これは簡単に言うとローカムとハイカムを一本のカムにしたもので、低回転域と高回転域のカムを油圧を使用して使い分けるというものなんです。
ローカムとハイカムでバルブの開閉タイミングが変わり、リフト量(バルブを押す量)が変わるということでVTECということなんですね。
ちなみにElectronic Contorolというのはコンピュータで制御するPGM-FIを使ったからですね。
要はECUにてインジェクタを電子制御したわけです。
今では当たり前の技術ですが、当時はまだキャブレター車も走っていた時代だったのです。
そしてこれをFF車であるシビックとインテグラに搭載し、さらにその後に開発されたのがシビックタイプR、インテグラタイプRというわけです。
ホンダのレーシングスピリットの象徴であるタイプRの誕生ですね。
かつて、車の黎明期はFR車が主流だったのです。
操舵輪と駆動輪を分けることが普通でした。
それは、グリップ力を考えれば曲がるタイヤと車を推し進めるタイヤを分けるほうが良いし、何より操舵輪と駆動輪を同じ前輪に持ってくると、ドライブシャフトと操舵装置を一緒にしなければならずジョイント部など複雑な構造が製作困難だったからなんですね。
しかし、FR車は後輪を駆動するために車の中心を通るプロペラシャフトが不可欠で、そのためフロアにセンタートンネルを設けなければなりません。
これは人が乗る空間が狭くなるということなんです。
タクシーを思い出してください。
後部座席の足元がせりあがっていますよね。
そこがセンタートンネルで、下にプロペラシャフトが通っているわけです。
ホンダはM・M思想という考えを掲げ各メーカーに先駆けてFF車を開発したのです。
M・M思想とは人のためのスペースは最大に、メカニズムは最小に(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)という考え方なんですね。
これがホンダの車を開発するうえでの基本思想になっているわけです。
そして、このVTECエンジンをのせたFF車でで他社のFRターボ車と互角以上に渡り合っていたのですよ。
このVTECエンジンのフィーリングは作中にて書かせていただければと思います。
そのホンダもダウンサイジングターボがエコエンジンとして注目され、とうとうシビックタイプRも2Lターボエンジン化しました。
1990年代にはターボvsVTECとまで言われたVTECにターボエンジンがついたんですよ!?
当時を知る人にとっては夢のエンジンなわけです。
当時でもシビックなどにボルトオンターボのチューニングカーとかいましたが、車のトータルバランスを崩しサーキットで速いとされるVTECターボはほとんど見たことありませんでした。
それが!
今や280馬力規制もとっぱらわれ、シビックタイプRが300PSオーバー!
お値段も乗り出し500万円オーバー!!
当時のスカイラインGTRと変わらないお値段ですよ。
あのシビックが。
大衆車という名のシビックが!
大事なことなので2回いいました!!
まあ、スペックで言うと今のシビックタイプRのほうが高いわけなんですけれども。
当時の誰が想像できたでしょうね?
シビックがスカイラインGTRを超えるなんて。
なにせニュル(ニュルブルクリンク)ではスカイラインGTーRより全然速いんですからね。
まあ、スカイラインR32GTーRが出てから30年近くたってますから、技術革新というかすごいですよねー。
ほんと、当時はタイプRでR32GTーRにサーキットで勝てるはずもなかったんですけどねー。
いやー、すごい時代になりましたね。
まあ、もちろんスカイラインGTーRもGTーRに進化していて、今やスーパーカーの仲間入りなわけでシビックタイプRよりも相変わらず格が上なわけですけれども。
GTーRがスーパーカーかどうかの議論はここでは捨て置きますね。
すいません、書いててすごく長くなってしまいました。
そのうち本文より後書きのほうが長くなるかもしれません。
というか超えてました。(苦笑)
今後はそうならないように頑張りますので次回も当作品をよろしくお願い致します。




