19話 ドライブ
誤字修正しました。
仁美がTOYOTA86に乗り込むとバフっとドアを閉める。
(うーん、やっぱりハチロクとはドアの音が違うなー)
仁美はハチロクのドアの音と比較して思う。
ハチロクは新車の時点でも大衆車としてのグレードでしかなく、防音材もとっぱらっているのでドアを閉めるとバン!と、それこそ軽自動車のドアを閉めているかのような大きな音がするのだ。
水島家のファミリカーもコンパクトカーなので、高級車とも無縁な仁美だった。
二人ともTOYOTA86に乗り込むと、仁美が遥に問いかける。
「遥は運転するの教習所以来じゃないの?大丈夫?」
すると、自信満々に遥が答えた。
「大丈夫よ。だてに仁美のハチロクの助手席にずっと乗ってないもの」
そうだね、と仁美も納得する。
普通で考えると、運転はしていなかったわけなので久しぶりの運転に不安を覚えるものだが、仁美は仁美で父和仁の隣に乗っていただけで教習車を全く問題なく運転して見せたのだ。
仁美は自分がそうだったので遥も大丈夫だと思った。
実際に遥は助手席とはいえずっと仁美とともに道路状況をしっかり確認してきており、運転さえ問題なくできれば周りの車の流れに乗って問題なく走れるだろう。
エンジンスタートボタンにてエンジンをかける。
キュルキュル、ドォルーン!という音とともにエンジンが始動する。
「ハチロクとはまた違った音ね」
「結構低い音するね」
遥と仁美がそれぞれの感想を口にする。
TOYOTA86にはサウンドクリエーターという排気音を車内に通すシステムがついており、音をダイレクトに聞けるようになっているのだ。
「じゃあ、行くよ!」
「しゅっぱーつ!」
二人ともテンション高く声を上げる。
通常免許をとってからの初めての車、初めての運転ともなると緊張したりするものだが遥は全く緊張していなかった。
仁美もそうだったが、お互いが隣に乗っているのが最近は当たり前になっていてとてもリラックスできており、またハチロクの助手席で運転しているつもりで乗っていたので違和感もない。
ただ、もちろん初めて乗る車なので購入時に事前にスイッチ類の説明は受けている。
遥が半クラッチにすると、車がスススと進み始める。
「教習車より半クラッチが楽だよ」
「トルクが太いんだろうねー」
遥のコメントに仁美が解説する。
教習車よりもTOYOTA86のほうが排気量が大きかったため半クラッチだけでも全然発進するのだ。
排気量が大きいほどトルクは大きくなる。
トルクが大きいことをトルクが太いと表現する。
1速から2速へ半クラッチでつなぐが、教習車と比べても違和感なくシフトチェンジできる。
隣で仁美のハチロクの運転を見てきたが雲泥の差だ。
もちろん自分で運転してはいないがそれはそれは仁美が苦労して乗っていたのを真横で見ていたのだ、その難しさは手に取るように分かる。
そのまますぐ角を曲がると、遥は確かにハチロクや教習車より幅があるのを運転していて感じていた。
ちょっと余裕をもって曲がらないと、そう遥は思った。
そのまま住宅街を抜けて県道にでる。
車が来ていたが、しっかり目視できており通過後にそのまま後に続いて問題なく曲がることもできた。
「教習車よりもアクセル踏んだ時の余裕があるね」
「加速感あるよね」
遥の言葉に仁美も感想を返す。
もちろんフルアクセルなど踏んではいないが、普通に運転しているだけでもその違いは明らかだ。
しかも、視点も教習車より低いのでサウンドクリエイターシステムによる排気音とあいまってより加速感を感じる。
でも、と助手席に乗っていた仁美が思った。
(確かにアクセル踏んですぐの加速感はハチロクより感じるけど、それからの加速はそんな変わらない気がする)
仁美の手前、口には出さない。
実際、仁美のハチロクはTOYOTA86にトルクでこそ劣るものの、車重が300Kgは軽く、3速クロスミッションにファイナルギアまで変更しているので加速感は劣らないのだ。
さらに、ハチロクのシートはローポジションシートレールになっており、車高も下げているので視点がかなり低い。
仁美が女性の平均身長より高いとはいえ、シートに座ると目線がダッシュボードと近い位置になる。
TOYOTA86もスポーツカーとはいえ、ノーマル車高にシートもセミバケ風とはいえ純正シートだ。
その視点はハチロクよりは高い。
口にしたのは別のことだ。
「それにしてもハチロクよりおしゃべりしやすいねー!」
仁美が感嘆の声を上げる。
「それはそうでしょう。ハチロクはちょっと特別だよ」
遥が苦笑いする。
仁美のハチロクは防音材が取り払われているため、それこそロードノイズや小石を跳ねる音すら聞こえる。
もちろん仁美はハチロク以外の車にも乗ったことあるのだが、スポーツカーに対する認識がずれているのだ。
そのまま里美を迎えに遥はTOYOTA86を走らせていく。
それにしても、と遥は思う。
(今までずっと仁美の横に乗ってきたけど、自分で運転すると気持ちいいものね)
自分で行きたい方向へ自分の手でハンドルを切り、自分の足で操作して加速し、減速して止まる。
自分の意のままに動かす心地よさ、とでもいうのだろうか。
遥は確かに車を自分で運転する、操作することの喜びを感じていたのだ。
まあ、ハチロクの乗り心地はちょっとばかりよくないものではあったけど、と遥は心の中で付け加える。
「仁美、ちょっと窓開けていい?」
「うん、いいよ」
遥は仁美に一言いれて運転席と助手席の窓を半分くらい開ける。
もちろん仁美のハチロクとは違い電動ウィンドウだ。
初夏の風が遥と仁美の髪をなでるように入り込んできた。
暑くもなく寒くもなく、心地よい風だった。
「あー、気持ちいいねー」
「そーだねー」
二人して風の気持ちよさに声を漏らす。
仁美のハチロクに乗っているときは風を感じるほどの余裕がないほど、仁美は操作に余念がなく、遥も乗り心地の悪さのほうに気をとられるほどだった。
そのまま20分ほど走ると里美を拾う予定のコンビニについた。
里美の家までだと路地に入らないとならないため、遥の初運転を気にして里美の家の近くのコンビニまで出てきてもらっていたのだ。
そのままコンビニ前の駐車場に前止めで駐車すると、ちょうどコンビニ内で立ち読みしていた里美がこちらに気づいた。
驚きの表情で目を丸くしている。
遥と仁美が車から降りるところに里美が駆け足で店から出てきた。
「遥先輩、この車もしかして!?」
里美にしては珍しく仁美よりも先に遥に声をかけた。
「そうよ。私の車よ!」
遥は自慢するようにその女性らしい胸をそらす。
「はー、遥先輩、彼氏作る気あるんですか?」
「は!?いきなりなによ!?」
里美のいきなりな言葉にけんか腰になる遥。
「いや、だってこんな車乗ってたら普通の男の人は引きますよ?」
「う!」
里美の言葉に遥はぐうの音も出ない。
「そんなことないよ。遥もこの車のこともきっとわかってくれる人がきっと現れるよ。だって遥はこんなに魅力的なんだから」
「仁美ー!」
そばに来た仁美のフォローに思わず遥が仁美のことを抱きしめる。
「あー!遥先輩ずるい!私もー!」
それを見た里美も抱き着いてくる。
「こらこら。もー、仕方ないなー」
仁美は片腕ずつで遥と里美を抱きとめる。
はたから見たら真っ赤なスポーツカーの前で女の子が3人抱き合っている異様な光景ができあがっていた。
コンビニに出入りする客がなんだなんだといった視線を向けてくる。
周りの視線に気づいた仁美と遥は真っ赤になりながら、
「そ、そろそろ行こうか」
「う、うん、そうね」
と口にしたが、
「そうですね。行きましょう!」
里美だけは平常運転だった。
2ドアクーペのTOYTOA86は後部座席に乗るためには前席を倒して前にスライドさせてから乗り込まないとならない。
さらに、通常の車の後部座席より天井が低く前席との距離も近い。
多くのスポーツカーがそうであるように大人の男性が乗るならとても窮屈な思いをするだろう。
しかし、里美は150cm台と小柄な少女であり、前席までのスペースも天井も問題なく後部座席に座れたのであった。
二人もTOYOTA86に乗り込みドアを閉める。
「うーん、ちょっと狭いですねー」
問題なく座れたとはいえ、里美が遥に対して文句を言う。
「乗せてもらってるんだから文句言わない!」
遥が里美に言い返す。
「ホントは仁美先輩の隣がいいんですが、この車じゃしょうがないですねー」
里美も後部座席の狭さをよく分かったうえで自分から後ろに座ったのだ。
「ごめんねー、里美ー」
仁美が申し訳なさそうに里美に謝る。
「いや、もし普通の車だったら仁美と一緒に後ろに座るつもりだったの!?」
「当然じゃないですか」
遥の問いに何を当たり前なことを、と里美が返答する。
「私はタクシーの運転手じゃないよ!?」
「えー、別にいいじゃないですかー。遥先輩、運転頑張って!」
「あんたねー!」
里美の言葉にヒートアップしだした遥。
「まあまあ」
仁美が苦笑いしながら遥をなだめる。
「それより里美、さっき連絡した通り帽子かぶってきてくれてありがとね。直前の連絡でごめんね」
「いえいえ。最初はピクニックだからと思ってたんですが、この車では仕方ありませんね」
TOYOTA86はリヤが傾斜のついたハッチバックのため、後部座席の上側に窓が来るので日差しがあたるのだ。
「日焼け止めあるから、必要なら言ってー」
気を取り直した遥が二人に声をかける。
日差しが強い日に運転すると腕などが日焼けしてしまうのだ。
そのため、腕まである手袋をして運転する女性もいる。
遥や仁美は運転の邪魔になるからと手袋はしていない。
それから三人は目的地である自然公園へ出発したのであった。
最初こそ遥と里美がいつもの掛け合いをしていたのだが、道中では他愛のない話でとても盛り上がった。
それぞれ、家庭の車でお出かけや旅行はもちろんしたことはあるのだが、友達同士での車でのお出かけ、それこそ日帰りの旅行は初めての経験であった。
なんだかんだいいながら、それこそ修学旅行にでも行くようなテンションだった。
今までの高校生活では公共の交通機関を使っての通学しかしてこなかったが、今は自分の車で自分で運転して好きなところへ行けるという、それこそ大人の階段を一歩上ったようなそんな気がしてくる3人であった。
免許を取って車に乗るということは自分の世界が広がるということである。
文字通り、移動範囲が広がり今まで行ったことないところへ行って、知らないものを知り、見たこともないものを見て、知らない人に出会う。
それこそ、車さえあれば日本のどこへでも行けるのだ。
道はどこまでもつながっているのだから。
やろうと思えばフェリーを使って沖縄や北海道さえ行ける。
車はどこへでも連れてってくれるのだ。
これは免許を取るまで決して経験できないことだ。
しかし、別に旅行するだけなら電車や新幹線でもいいだろう。
だが、車は自分で運転していくものなのだ。
自分が行きたい方向へハンドルを切り、通りたい道路を通り、通りたい街を通って目的地まで行くことができる。
寄り道し放題だ。
時には道に迷うこともあるだろう。
今ではカーナビも当たり前の時代とはなったが、それでも道を間違うことはあり、道を間違ってさえも仲間と一緒に乗っていればそれも楽しいイベントになるのだ。
3人は今日それを知ることとなった。
大人へとなる大きな開けた世界への第一歩だった。
目的地までも、目的地でも、それこそ帰り道でも。
今まで経験したことのない楽しさを満喫した3人であった。
Appendix
すいません、ドライブがメインの話なので目的地についてからの話はないんですよ。
車がメインの話ですのでご容赦いただけたらと。
あと、TOYOTA86の話は出しつくたつもりだったのであまり書く気はなかったのですが、結構書いちゃいましたね。
ここで書きたかったのは最後の部分なんですよね。
私も高校までは自転車通学でした。
それこそ十数キロ先の高校へ毎日通ってました。
当時は土曜日午前中まで授業がありましたから、帰りに市の駅のほうまでぶらついてそれこそ30Kmぐらい自転車をこいでまわったものです。
それが大学で免許を取って車に乗るようになり、まさに移動距離が、世界が広がりました。
先輩や同期や後輩たちとそれはもういろんなところに行きました。
どんなことが起きてもそれはもう笑い転げてとても楽しく、人生で一番輝いていた、そんな時間でした。
もちろん、車がなくても仲間たちと騒いでいればそれはそれで楽しかったでしょう。
しかし、車がより一層楽しさを広げてくれたのです。
まさに行ったことないところへ行って、いろんな経験をしたのです。
今は家族があり、当時の仲間たちとも年賀状でしかやりとりはありませんが、それでも家族と車でよく出かけます。
それこそ今でも行ったことないところへ家族と行きます。
新たな経験をし、今でも自分の世界が広がっています。
それこそが免許をとって車に乗ることだと思うんですよね。
まあ、もちろん車を操る楽しみは以前から書いている通りなんですが、別に車でサーキット走らなくても、ドリフトができなくても、車が軽だろうがトラックだろうがいろんなところへ行けるのは一緒なんですよ。
もし、これを読んでくれた人がまだ免許を持っていなくて、別にドリフトとかハチロクとか漫画とかにも興味がなかったけど、免許くらいはとってみようかなと思ってくれたなら筆者はとても嬉しく思います。
また、最近車で出かけてなかったから遠出してみようかなとか、車でだれか誘ってみようかなと思ってくれたらとても嬉しいですね。
そう思ってくれたあなたも車好きの仲間ですので。
どんな車に乗っていても、別に車をいじってなくても、それこそ車を持っていなくても車が好きなら車好きです。
筆者と当作品は車好きを応援します。
車好きの仲間を応援する当作品を次回もよろしくお願い致します。




