6-14 レジスタンス
真上の説明を聞いて、誰しもが口を噤んでしまった。冒頭で忠告されていた通りに、突飛な話しであったからだ。しかも、予想の遙か上をいく、非常識な内容である。
最初に感想を口にしたのは、仙崎総理だった。
「……途方もない話しだ」
そうとしか言い様がない。
総理に続いて、プールサイドに集った他の人々も、口々に感想を口にする。
「真王……それを頂点に据えた巨大帝国……? 私たちは下民と呼ばれ、七企業国王たちによって人権を蹂躙されていると……?」
「有史以来、人類を支配している超文明があるだって? それが君の言う、この世界を陰から牛耳っている“黒幕”だと言いたいのか?」
「そんなおかしな話しを、まともに信じろと言うのか、君たちは?」
仮面の少年は小馬鹿にするよう、肩をすくめて答える。
「事実なんだから、仕方ないだろう? 信じられないという気持ちは、よくわかるけどね」
「正直、世界が宇宙人によって支配されているという話しを聞かされたような気分です。まるで現実味のない、ウソだとしか思えない話しですよ」
真実を聞かされた人々は、半信半疑と言った態度である。
無理もないだろう。まだ何の証拠も見せていないのだから。
だがそれでも、ノーベル賞の受賞者が真顔で話すトンデモ話しなのである。
妄想や作り話だと、一笑に伏すことは難しい。
構わずに、真上は淡々と説明を続けた。
「先ほどもご説明しました通り、人類を含め、地球上の全ての生物は、脳を無線的に並列接続しています。うちのチームには精神分析学を扱う者がいまして、彼女が言うには“集合的無意識”の概念が、それに当たるのではないかと考えていました」
「集合的無意識……?」
「専門ではないので聞きかじりですが。全ての生命が、意識の一部を共有していると考える学説です。目に見えない脳の繋がりによって構築された、世界規模の巨大ネットワークは、事実としてこの世に存在していることがわかりました。そのネットワークは旧人類文明が創ったもので、EDENと呼ばれる地球規模の超巨大システムなのだそうです。我々の文明が創ったインターネットと原理は酷似していますが、電気を使った信号のやり取りではなく、“マナ”と呼ばれる未知の素粒子を使った通信になります」
「旧文明が生み出した目に見えないインターネットに、現代の人類全員の脳が、接続されていると言うことかね」
「はい」
真上は一縷の淀みもなく肯定する。
確信を持っている様子だった。
「チームメンバーの考察によれば、マナは宇宙物理学において未発見とされていた、地球上を含め宇宙の空白部分に存在すると言われる謎の不可視物質、いわゆる暗黒物質なのではないかとの意見もあります。先ほど述べた“知覚制限”の影響で、不可視だから今まで見つからなかったのではなく、不可知だから見つけられなかったという説ですね。その正体は議論が続いているところですが、ようするにマナは大気中にも大量に存在している物質でして、これがEDENのネットワーク基盤になっているのだと思われます。調査したところ、特に植物の内部に多く含まれているようでしたね」
1つ1つの質問へ丁寧に答えながら、真上は続けた。
「このマナと呼ばれるものを、ここ2ヵ月ほどの間、私は研究し続けてきました。幸いなことに、アトラスと呼ばれる機人の証言の中に、様々なヒントが遺されていたこともあって、全くゼロからの研究スタートではありませんでした。スタートダッシュができたんですね」
それが嬉しかったのだろう。真上はニヤけた。
「しかもアルトローゼ財団が提供してくれる研究リソースは潤沢でしたし、何よりも、自分の意思でEDENに干渉し、マナを制御できる少女が協力してくれたことで、驚異的な速度でマナの解明作業が進んでいるところです。およそ20年以上はかかるであろう研究プロセスを、一気に短縮できましたよ」
「マナを制御できる少女?」
「ええ。これができたのも、彼女のおかげですよ」
真上はスーツのポケットから、小型のアンプルを取り出した。
その中には、得体の知れない赤黒い血のような液体が封入されている。
自慢げにアンプルを掲げて見せる真上に、仙崎総理が尋ねた。
「……それは?」
「試作品さ」
答えたのは真上ではなく、仮面の少年だった。
少年は真上からアンプルを受け取ると、プールサイドを歩き始める。
悠然とした足取りで歩を進めながら、集った人々の前を通り、語り出す。
「ボクたち人類は、真王を筆頭とする帝国によって、有史以来ずっと支配を受けている。その支配構造を成立させている要因は、大きく分けて2つだ。1つは、人々に真実を知らせない仕組みである“知覚制限”。そしてもう1つは、絶対の強制命令権である“支配権限”だ。この2つさえ無力化できれば、ようやくボクたちは、帝国に反抗することができるだろう」
「反抗……?」
「ああ。色々と危険な目にも遭ったが……こうして今では、敵の手の内もわかり、それに対抗するための手段である“拡張機能”と呼ばれるものも手に入れた。ならあとは、それを量産して、世界中の人々へ効率良く配給する方法を考案すれば良い段階へきた。つまりこれから、帝国の支配に縛られない仲間を増やんだよ。財団が真上先生へ要求した最優先課題は、その方法を編み出すことさ。その答えが、この“ワクチン”だよ」
真上同様にアンプルを掲げ、不敵な笑みを浮かべて見せた。
そんな少年の言葉へ付け足すように、真上が口を開いた。
「我々の研究に協力してくれる少女は、自身の意思によるマナ制御が可能です。驚くべきことに、マナを使った通信を行うことで、EDENへアクセスすることができるのです。つまり、ネットワーク上の端末である我々の脳へ、マナ通信によるハッキングを行うことができることを意味します」
「脳へ、ハッキングだって……!?」
「まるでSFのような話しね」
「ええ。その力によって、彼女は“偽装フィルター”と呼ばれる拡張機能を複製し、私を含めたアルトローゼ財団のスタッフ全員の脳へインストールしてくれました。原理は不明ですが、彼女はなぜか、そうしたことができるのです。本当に、奇跡のような存在ですよ」
真上の話しを聞いていた、大弓を背負った仮面の少女が、驚いた様子だった。
隣に並び立つ白銀の髪の少女を見やり、唖然としているようだ。
そんな少女たちの様子には気付かず、仙崎総理が真上へ尋ねた。
「さっきから言ってる……その拡張機能と言うのは何なんだね?」
「機人族が作成したものでして、我々にとっては未知の技術で造られたものなのですが……どうやらマナを利用して、プログラムのようなものが作成できるようです。人間の身体をコンピュータに例えるなら、帝国の用いる知覚制限や支配権限とは、生まれながら誰しもの脳にプリインストールされている“ウイルス”のようなものです。拡張機能は、そのウイルスの活動を誤魔化す、あるいは抑制するプログラムのことだと、今は理解してください」
「小難しい話しになってきたわね……」
「申し訳ありませんね……。それで、少女の話に戻りましょう。実際にマナを制御できる人物が身近にいるわけですから。その一部始終を記録し、観察し、分析することができるわけです。仮説を組み立てて検証するよりも、現物を見て仕組みを見いだすのは比較的、容易な作業でした。私たちのチームは、マナ制御中の少女の生体データを収集して解析し、少女がやっていることを人工的に“再現”する方法を探っていました。残念ながら、まだそうする術は発見できていません。ですが、人の脳へ偽装フィルターを複製する時の、マナ通信手順は全て記録することができました」
真上は頬の端を吊り上げて笑む。
そうして確信を告げた。
「つまりですね。細かい理屈はわからなくても、少女の見よう見まねでなら、偽装フィルターを人々の脳へ複製することができると考えたわけです。その成果物が、そのワクチンなのです」
真上は、少年の手にしているアンプルを指さした。
すると全員の注目が、再び少年の方へ戻る。
少年は「フッ」と笑みをこぼし、真上の話しの続きを引き継いだ。
「この中身はマナの塊だ。ただし、君たちの脳へ偽装フィルターをインストールする現象理論が埋め込まれている。今日は、これを注射してから帰ってもらう」
唐突な少年の宣言に、全員が唖然としてしまった。
だが早速、警戒の声が上がった。
「それを打つと、拡張機能と言うものが私たちの脳へ入るの? はっきり言っていかがわしいわ」
「……そんな得体の知れない注射、僕は嫌だぞ!」
案の定な意見を耳にして、少年は少し疲れたように嘆息をして見せる。
そうしてから、窘めるように警告した。
「偽装フィルター無しで、今夜眠るつもりなのかい? 真上先生から説明があっただろう? ボクたちの脳は睡眠状態になるたび毎晩、EDENを介して、思想調整や診断プログラムを受けているんだ。都合の悪い真実を知っていないか記憶を検索されもする。もしもこの中の1人でも、今夜のこの会議の記憶を検出されてしまったなら……翌朝には刺客の怪物を送り込まれ、暗殺されるよ?」
少年の話を聞いていた仙崎総理は、ようやく腑に落ちた。
だからこそ、冷ややかな眼差しを少年へ向けて言った。
「なるほど……。だから君たちは、我々から素顔を隠しているんだな。万が一、我々が全滅しても、君たちの正体は知られない。殺されるのは、互いの顔を記憶している我々だけだ」
他の人々も、遅れて気が付いたのだろう。目を丸くしている。
だが、思惑を看破されてもなお、少年は余裕の態度で答えた。
「さすがは総理。ご明察さ。でもまあ、たしかに。いきなり見知らぬ財団の代表から、怪しげなクスリを打てと言われているんだ。君たちが警戒するのも無理はないだろう。なら、こちらも誠意を見せなければ、納得はしてもらえないかもね」
言いながら少年は、仮面を外して素顔を見せる。
その顔を見た人々は、少年の美しさよりも、若さの方に驚いた。
どう見ても、子供である。年齢はまだ、10代の半ばほどであろう。
声の質からしても若いのはわかっていたが、想像以上の若年だった。
……最近、どこかで見たような気もする顔立ちだが、どこで見たのかは思い出せない。
「イリアクラウス・フォン・エレンディア。アルトローゼ財団の代表を務めている」
少年は名乗った。
エレンディア。どこかで耳にしたことがあるような家名である。
皮肉っぽく、イリアは肩をすくめて続けた。
「どのみちボクは、お尋ね者として、すでに帝国側に顔を知られているからね。今さら、顔見せはリスクにならないだろう。けれど、ここまで手の内を話したんだ。それに関しては大きなリスクは背負っている。君たちの内の誰か1人でも、記憶がEDEN上に流出すれば、この財団が帝国に対して反乱を企てていることが察知されてしまうだろう。この誘いは賭けでもある。ボクたちは、すでに一蓮托生なんだよ」
素顔を見せることで、イリアは誠意を示してきた。
それを理解できたがために、全員が黙り込む。暗がりで陰ったお互いの顔は、よく見えない。だが全員が険しい顔をして、深く思慮していることは、雰囲気からわかった。
「君たちに話したことは全て真実だ。それを知った今、このワクチンを打たなければ確実に殺されることになる。ボクの話しを信じないなら、それでも構わない。だが、明日に後悔しても知らないよ?」
「……さっき、試作品と言ったな。打っても、副作用とかは大丈夫なんだろうな?」
不安の声を、イリアは一笑に付す。
「安心してくれて良い。すでに財団の下級職員で、何度か実験済みさ」
「ちょっと待てよ、人体実験をしたと言ってるのか……?!」
「ああ。当然だろう? 君たちに死なれたら困るからね」
冷酷な笑みを浮かべ、イリアは当然だと肯定する。
ゾッとするような言動に、全員が言葉を失った。
イリアが手を叩いて合図をすると、財団が雇った看護師たちが、プールサイドへやって来た。ワゴンを押している者もいて、そのキャスターがガラガラとけたたましい音を立てている。ワゴンの上には、人数分のアンプルが規則正しく並べられていた。
「お帰りの際に、必ず摂取してください。効果は、1時間後にくらいに現れます」
真上に促されても、人々はしばらく無言で立ち尽くしていた。
だが仙崎総理が先陣を切り、動き出す。
総理がワゴンの前に立つと、看護師が慣れた手つきで、その二の腕へアンプルを注射した。打たれた腕の手のひらを、何度か確かめるように握っては開く総理。そうしてからイリアを見て、告げた。
「どうせ老い先の短い年齢だ。君たちの話が真実か、確かめてみるのも良いだろう」
そう言い捨てて、仙崎はプールサイドを後にして行った。
総理大臣がアンプルを摂取する光景を見て、多少は勇気づけられたのか。他の人々もそれに続いて、注射を受け始める。全員がワゴンの前に並んでいる様を見ながら、イリアは苦笑した。
「ご協力ありがとう。まずは今夜の話しが真実であるかどうか、君たちの目で確かめてみると良い。同じものが見えるようになったなら、また明日以降に、この話しの続きをしよう」
そう告げて、自身もプールサイドを後にした。
◇◇◇
室内プールから去り、フィットネスフロアを通りかかった時に、呼び止められた。
「また、ずいぶんとユニークなことを考えましたね、イリア」
イリアが振り向けば、そこには白銀の髪の少女が立っている。
すでに仮面は外しており、素顔だ。
少女、アデルは感心したのだろう。
いつものムッツリ顔ではあるが、少し鼻息荒く話しかけてくる。
「全人類に偽装フィルターを与えるという作戦ですか。資金力と人脈をうまく使った、イリアならではの一手だと考えます」
「それは、褒めてくれてるのかい?」
「はい。そうですが。褒め方が何かおかしかったですか?」
「いいや、ありがとう。君は何に関しても素直で率直だね」
イリアは苦笑し、何となくアデルの頭を撫でてやった。
撫ででもらえたアデルは嬉しそうに、甘える猫のごとくイリアの方へ頭を突き出した。
その態度が面白くて、イリアは微笑ましい気持ちになってしまう。
「ボクたちに今もっとも必要なのは、多くの仲間だ。お尋ね者として追い詰められているからと言う目先の理由だけじゃなくて、これから強大な帝国に立ち向かっていくためには、たくさんの人々の協力が不可欠になっていくだろう。今のボクたちだけじゃダメだ。だから今夜こうして、賭けに出たのさ」
「そうですね」
頭を撫でられ終えたアデルは、普段の無表情な顔に戻って真面目に応える。
「今日集まった人たちに、どんな過去や想いがあるのかは知りません。ですが皆さん……目に闘志があったように思います。今はまだ私たちの話しについて半信半疑のようですが、偽装フィルターを与えた今、きっと明日には信用してくれるようになると思います。ケイたちが、佐渡を信じた時のように」
「ハハ。アデルもずいぶんと人間の感情というヤツがわかるようになってきたものだね。これも一重に、ボクの調教が良かったのかな?」
「そうなのでしょうか」
「そうだと思うよ。ボクも君と同見解だったからね」
イリアは腕を組んで、今後の展望を口にした。
「今はまだ偽装フィルターをインストールできるワクチンしかないけど、これをもっと発展させることもできるはずなんだ」
「と言うと?」
「リーゼが造ってくれた、帝国人たちの支配権限の効力を弱める指輪を手に入れた。あれは指輪に込められた拡張機能の力だって話しだろ。アトラスがボクたちの脳にインストールしてくれた偽装フィルターも拡張機能。どこに入っているかの違いがあるだけで、同じカテゴリーのものさ。ならアデルの力で“複製”できるはずだ」
「どうでしょうか……。やってみないことには、わかりませんが」
「理屈としてはできるはずなんだよ。それをまた、真上先生のチームに分析させれば、偽装フィルターと同じように、ワクチン化することができる。そうすれば、いよいよもって形になってくるだろう――――人類の“反乱軍”が」
語りながらイリアは、不敵な笑みを浮かべる。
そのイリアの計画を聞いたアデルは、ますます感心してしまう。
そんな2人に慌てた様子で駆け寄ってくる青髪の少女がいた。
「イリア!」
大弓を背負った機人族の少女。リーゼである。
イリアの傍まで来ると、その顔に詰め寄り、鬼気迫る顔で尋ねてきた。
「本当なの? アデルにEDENへ介入する能力があって、他人の持ってる拡張機能を複製できるだなんて……!」
あまりにも必死な様子のリーゼの態度に、イリアは少し気圧されてしまう。
少し頬を引き攣らせながら、何事かと思いながらも答える。
「……ああ、事実だよ? 以前、アデルと一緒に入浴していた時に、彼女はボクの脳内にあった拡張機能を、自分に複製して見せたんだ。だからアデルも、偽装フィルターを持っているんだよ。あの時のことがヒントになってね。拡張機能を全人類に複製できたら、仲間が増えて面白いんじゃないかと思って、色々と手を回してきた。それがこうして実を結んだわけさ」
「……」
「いきなり何だい? それって機人から見ても、珍しいことなのかい? てっきり拡張機能を自作できるような君たちからすれば、大した技術ではないと思ってたけど」
「珍しいことなのですか?」
イリアもアデルも、首をかしげてリーゼへ尋ねてしまう。
リーゼは苦々しい表情で、視線を地面に伏せた。
「……珍しいなんてものじゃないよ。ヒトの脳内へ展開された拡張機能を解析して、その現象理論を復元し、そしてさらに複製できるってことでしょ? それってどう考えても“逆行工学”だよ」
「逆行工学……それはすごいことなのかい?」
「機人なら、拡張機能を造って“配布”することは誰にでもできる。けれど、どこの誰がどうやって造ったのかもわからない、他人が配布済みの拡張機能を取り出し、その現象理論を理解し、複製して使用するなんて芸当は、簡単じゃないわ。即興でそんなことができる存在なんて、アークでも指を数える程しか存在しない。ましてヒトの中でって話しになるなら、そんなの、アデル以外には存在しないかもしれないよ」
「おお。私は、そんなにすごいことが簡単にできてしまうのですか。私はすごいですね!」
呑気にドヤ顔をしているアデルを、リーゼは真顔で見つめた。
「アデル、あなたはもしかしたら、本当に…………」
「本当に? 何でしょうか?」
他意無く問いかけるアデルに、リーゼは答えない。
リーゼはなぜか、自分の考えを最後まで口にしようとしなかった。
まるで、言うことを躊躇っているかのような態度である。
「……いいえ。まだわからない。確証がないわ。だってそうだとしたら……」
「気になる口ぶりだね。もしやアデルの正体について、何か思い当たることでもあるのかい?」
「……」
煮え切らないリーゼに、イリアは少し苛立ちを感じた。
リーゼを問い詰めようと、口を開こうとした瞬間だった。
イリアのスマートフォンが、着信音を奏でる。
画面を見れば、レイヴンからの着信だった。緊急時以外では、電話を使っての連絡をしないように言ってあったのだから、まず間違いなく、急を要する用件なのだろう。
良いところだが、話題を中断するしかなく。
イリアは思わず舌打ちをしながら通話を始めた。
『おっと。お取り込み中でしたかな、イリアさん』
受話口に出るまでに時間がかかったため、そう推察されたのだろう。
イリアは溜息を漏らしながら、レイヴンへ答えてやった。
「いや、良い。それより、何か用かい?」
『いつも通り、良い話しじゃなくて申し訳ないんだけどねえ』
悪びれてもいない口ぶりで、軽く謝りながら、レイヴンは本題を告げた。
『高校のお友達が、警察に捕まってるらしい。どうやら、まずいことになってるみたいだぜ?』