3-10 アルトローゼ財団
店外のテーブル席に腰掛けた5人は、顔をつきあわせていた。
いつもの優雅な態度で、イリアはケイへ指摘する。
「フム。どうやら雨宮くんは、いきなり人間になったアデルのことを、持て余しているようだね」
ケイが今朝のトラブルをおおよそ話したところ、イリアの感想はそれだった。サキとトウゴも、「やっぱりそうだよな」という顔で、腕組みして頷いている。
言われたケイは、不服そうなジト目でイリアを見やった。
「別に。オレじゃなくたって、普通なら持て余すだろ。喋る花が、いきなり女の子になったんだぞ」
「ハハ。たしかにね。言えているよ」
イリアは笑いながら、話題の当人を見やる。
当人。アデルは、首に巻いたマフラーを取ろうとしているところである。無理矢理に解こうとした結果、こんがらがって首を絞める形になったようだ。アデルは徐々に、苛立ってきている。
世間知らずの少女。
見た目には、そうとしか見えない。
一見して微笑ましい光景だが、イリアはその背景事情について、よくよく考えてしまう。
「周囲の生命体の死を無効化する不思議な花、アデル。アトラスが生み出したのではなく、アトラス自身も、花に宿ったアデルという名の知性体について驚いている様子だった。つまりアデルとは、アトラスからしても想定外の存在。今は死んだ少女の肉体に宿り、人間となった。控えめに言っても、こんなのは世間一般からすれば非常識だ。人の身体を乗っ取る花だなんて、まるで“怪物”とも思える所業だよ」
ただの少女に見えて、ただの少女ではないのだ。
アデルはこれまで、人に対して完全に無害な存在だった。だからケイも気にしたことはなかったが……こうして人体に寄生し、人のように振る舞っている様を見ると、本当に危険がない存在なのか、わからなくなってしまう。あの浦谷の姿が、脳裏をよぎってしまった。
「先輩たちが無人都市で見かけたって言う鹿型の化け物、あのシルクハットの怪物は、たしか“肉をまとった植物”じゃないかってことでしたね。だとしたらアデルも、その特徴に似てませんか? 何か関係があるんですかね……」
それを口にするケイの表情は、どこか悲しそうだった。
その場の誰もが、何も言わずに黙ってしまう。
答えはわからないが、つまり否定もできないということだ。
「アトラスが言っていたね。先代の人類文明は、植物を利用した超技術、有機科学とか言うもので栄えていたのだと。無人都市を徘徊していた怪物たちも、あるいはアデルも、その産物なのかもしれない」
「アトラスは死んじまってなければ、今頃はもっと詳しい話しが聞けてたんだろうけどよ」
イリアはテーブルの上に頬杖をついて、改めてその疑問を口にした。
「まったく。いったい君は何なんだろうね」
「それを私に聞かれても困ります。私が知りたいくらいですので」
ようやくマフラーを取ることに成功したアデルが、自由になった口で応えた。
そう告げる顔は無表情。眠そうな、半眼の眼差しのままである。
決死の思いで無人都市へ潜入し、ケイたちは偽の日常を取り戻すことには成功した。
だが、自分たちを取り巻く世界の事情については、まだわからない点が多く残っている。
アデルの存在も、残された疑問の1つだ。
そこでイリアは、ケイを横目に見て尋ねた。
「それで? 昨夜はたまたま、君の祖父が自宅を留守にしていたそうだから、いつも通りにアデルを連れて帰ったわけだが。今夜からは、いったいどうするつもりなんだい?」
「……」
「いつまでも、同居人の祖父から隠しておくわけにはいかないんだろう? これから一緒に住む新たな家族として、紹介でもするのかな? 男所帯に女の子が1人だと、色々と苦労がありそうだね」
イリアは意地悪い口調で言ってきている。
そんなことができるはずないと、知った上での問いかけだろう。
血縁があるわけでもない。見ず知らずの女の子と、いきなり同居させろと言ったところで、祖父が了承することなどありえない。長年、一緒に暮らしてきているケイですら、アデルの正体がよくわかっていないというのに、何も知らない祖父へ説明できるはずもない。
同居など、不可能だ。
だがイリアが言うとおり、早速、今夜からアデルの寝床をどうすれば良いのかを考えなければならないのだ。急いで何とかしなければならない問題ではあるのだが……今のところケイは、その解決策が見いだせていない。
困っている様子のケイを見て、イリアは笑った。
「フフ。すまない。少し意地悪だったね。安心したまえよ、雨宮くん。ちゃんとボクが、解決策を考えてきている」
「……?!」
素直にケイは驚いたが、同時に嫌な予感もする。
そう言ったイリアは、気を取り直して、1つ手を叩いて見せた。
「さてと。その件も含めてだ。今日は君たちと“今後の行動”について話しをしておきたくてね。それでここに集まってもらった」
今日この場にケイたちを呼び出したのは、イリアだったのである。
「そうは言ってもだ。早速、本題に入ってしまうのも、少しせっかちで優雅じゃない。まずは軽食でも頼みに行こう。ボクが奢ろうじゃないか」
ふと席を立ち、イリアは店内の方を見やって言う。
その提案を聞いたサキが、途端に目を輝かせた。
「奢り!? なら行く行く、もちろんついて行きますわよ!」
イリアは、アデルにも声をかけた。
「君も来たまえよ。これから人間として過ごすなら、人間の食事についても、知っておかないとまずいはずだ。肉体を維持するためには食事が必要なんだよ、それに、空腹とは辛いものだよ?」
アデルもサキ同様に、目を輝かせた。
「食事。前々から、ケイたちが食べているのを見ていて興味がありました。もしかして……昨夜からお腹が鳴ったり、苦しい気がするのは、その空腹という状態になっているからだったのでしょうか」
言うなり、アデルのお腹が鳴る。
イリアは、それを微笑ましく思った。
「おや。雨宮くんは食事も与えてくれなかったのかい? ひどいなあ」
「昨晩のケイは疲れていたようです。家に帰ると、すぐに寝てしまいましたので」
「美しい女性を放置して寝てしまうなんて。雨宮くんは、女性を満足させることを知らないようだ。まあ良いさ。雨宮くんとトウゴは、ここで待っていてくれて良いよ。君たちの分は、ボクが適当に何か買ってくるから」
そう言うイリアに続いて、サキとアデルが席を立つ。
3人はワイワイと騒ぎながら、店の中へ入って行ってしまった。
残されたケイとトウゴは、何となく気まずい雰囲気で取り残されてしまう。
「……たぶん。イリアに気を遣われてますよね」
「……おお」
自己中心的なイリアだが、変に気遣いがうまい時もある。
昨日から、ケイとトウゴは、妙にギクシャクしてしまっている。
ケイには理由がよくわからなかったが……トウゴはケイに対して、なにか怒っていたのだ。
なぜ怒っているのか。どうすれば許してもらえるのか。直接聞ければ簡単なのだが、怒っている相手には、どうにも聞きづらい。お互いに、どう言葉をかければ良いのかわからなくて、気まずい沈黙が始まろうとしてしまう。
「……雨宮さあ」
「はい」
「なんで俺が、オカ研にいるのか。前に聞いてきたよな」
トウゴの方から話しかけてきた。
そうして、過去を振り返りながら語り出す。
「1学期の始めに、全校で体力測定やっただろ? 1年のお前のクラスと、2年の俺のクラスが、偶然同じ日の測定だったんだ。入学したての1年坊主たちの運動神経を見てやろうって、ダチと一緒に高みの見物をしてた時、俺は初めてお前を見かけたんだ」
言われてケイは思い出す。
それは高校へ入学したての、今年の春先のことだ。
「あの時のお前、すげー運動音痴でさ。50メートル走も、ハンドボール投げも、全部ダメで。パッと見は、センスがねえヤツにしか見えなかった。ダチ連中も、お前のこと笑ってた。けど俺には、すぐにわかったんだよ。お前、あの時――めちゃくちゃ手を抜いてたよな?」
トウゴは横目で、ケイを見やった。
ケイは返事に困ってしまう。
「俺、一応はアスリートだからさ。人の筋肉の付き方とか、身体の動かし方とか見りゃわかるんだよ、そういうの」
「先輩には、バレてましたか……」
「ああ。お前、だいぶ自主トレーニングして鍛えてるだろ。あの時は、お前がそうする理由なんて見当もつかなかったけどよ。今ならわかるぜ。お前は、人目を忍んでやってることがあった。それがバレないよう、なるべく校内で目立たないようにしたかった。どうせそんなところだろ?」
図星だった。
ケイには、他人に知られたくない“怪物狩り”という秘密のライフワークがある。常人には到底、理解できないし、知られれば間違いなく奇異の目で見られることになる異常行動だからだ。何よりも、まず普通に暮らしている人々が、関わるべきではないのだ。
ようするに全て、それを隠すための工夫だ。
雨宮ケイという存在に興味を抱く人物が少なければ、秘密を探ろうとする者も現れない。だからこそケイは、校内で目立たないよう、気配を潜め続けて生活をしている。最近では“陰キャ”と、クラスの中のヒエラルキーも固定されてきており、ケイにとっては好ましい状況だった。
「1500メートルの持久走の時だ。お前のゴール到着順は真ん中くらいで、一見して平凡な記録だったけどよ。あの時のお前、わざと疲れるフォームで走ってやがった。なのに息1つ切らしちゃいない。俺も試しに、お前と同じフォーム、同じペースで走ってみた。そうしてゴールした時には……余裕なんてなかった。あの時、俺の勘が言ってたんだよ。お前の方が俺よりも実力者だって」
どうやらトウゴだけは、雨宮ケイという人間について興味を持っていたらしい。ケイが懸命に隠していた、本当の雨宮ケイの気配を察知されていたのだろう。
トウゴは少しばつが悪そうに、頭を掻いて言った。
「口にするのがダサすぎて、今まで言い出せなかったけどさ……。たぶん俺には、お前への対抗意識があるんだよ」
「……オレに、ですか? 先輩が?」
「お前は実力があるくせに、それを隠していやがる。頭にきたよ。運動部の連中や先公たちは、みんなして俺の体育の成績を褒めるけどよ。俺よりすげえヤツが身近に、しかも校内にいるのを知ってるのに。素直に喜べねえだろ。自分が1番だって、胸張って自慢なんかできるかよ。ずっとお前に負けたくねえって、そう思ってて……気が付けば、吉見とお前が立ち上げようとしてた、オカルト部に入部した。何のことはない、お前と張り合ってただけっていう、クソダサな理由なんだ」
「……」
「お前がシルクハットの怪物を撃退した時……マジですげえって思った。だってお前、ただの人間じゃねえかよ。それなのに、どうしてあんなとんでもない化け物とタメ張って、勝っちまうんだ。どうして……立ち向かっていけるんだよ。俺は死ぬほどビビってたんだぜ。あの時、ますます置いてかれたような気がして、焦ったんだ」
ケイに対する劣等感。
それをずっと抱えていたからこそ、怪物と対等に戦って見せるケイの姿に、苛立っていたようだ。つまり無自覚に。無配慮に。ケイはトウゴのことを傷つけていた。ようやくケイにも、それが理解できた。
「悪かった、雨宮。俺の勝手な不満を、お前にぶつけちまってた。今までの態度を謝る」
「……別に良いです、先輩。オレの方こそ、今までなんか……すいませんでした」
トウゴは真剣な顔で、ケイに宣告する。
「けど。忘れんなよ。俺はお前のことを、ただの後輩じゃなくて、ライバルだと思ってる。だからこれからはもう、俺の前で出し惜しみなんかするんじゃねえ。たぶん、勝手なこと言ってるんだろうけどよ。俺は、お前の全力を打ち負かしたいんだ。お前が全力でいなけりゃ意味がねえ」
「わかりました。でも先輩、オレに勝つなら、まずはビビりな性格を直さないとですね。幽霊ごときで驚いてたら、どうしようもないですよ。オレは逃げるんじゃなく、殺しに行きますから」
「……ケッ。イカレた怪物殺し野郎が。言いやがるじゃねえか」
どこか狂った日常会話。
だが、互いの顔を見て笑い合う。
打ち解けた2人の元に、店内での注文を終えたイリアたちが戻ってきた。
2人が仲直りしたことを察したサキが、ニヤニヤと笑い、わざとらしく尋ねた。
「あらー? 男同士の会話は終わったのかしら?」
「まあな」
「おかげさまで」
「フム。ならようやく、本題に入れそうだ」
イリアは妖しい微笑みを浮かべた。
◇◇◇
店員がやって来て、イリアが注文した軽食をテーブルに配膳していく。
アデルは、自分の目の前に置かれた平皿をまじまじと見下ろした。
円盤の形状をした、黄色いケーキだ。生クリームがたっぷりとホイップされており、その脇には、色とりどりのフルーツが添えられている。
「イリア、この食べ物は何なのですか……?」
「パンケーキだね」
「ほほう。パンケーキ……」
名前を聞いたアデル。食べ方がよくわからないため、とりあえず、テーブルに置かれたフォークを手にとり、無造作に突き刺してみた。ナイフで切り分けることはせず、小さな唇で齧り付いてみた。
モゴモゴと咀嚼した後、しばらくしてアデルは動きを止める。
「!!?!?」
「どうしたんだ、急にフリーズして?」
「パンケーキ……! パンケーキ……!」
尋ねるケイには目もくれず、アデルは目を輝かせながら、パンケーキを夢中で頬張り始めた。口の周りが生クリームだらけになっていくアデルを見ていられず、隣のサキが、ハンカチで口を拭ってやっていた。
生まれて初めての食事を楽しんでいる様子のアデル。
それを見て、イリアは笑った。
「お気に召してもらえたようで幸いだよ」
「それで? 勿体つけてないで、そろそろ話したかったこととやらを話せよ」
「フム。雨宮くんの言う通りだね」
イリアはテーブルの上で頬杖をついて、淡々と語り始めた。
「まずはお疲れ様。昨日は無人都市の攻略に向かい、無事に生きて帰ってくることができた。佐渡先生の死体も持ち帰って埋葬することができたし、こうして“偽装フィルター”という便利なものを、アトラスから与えてもらうこともできた。真王に、真実を知りすぎたボクたちの存在を検知されることもなければ、怪物たちに命を狙われることもなくなるだろう。当面の問題は解決したと言えそうだ」
イリアが言うとおり、ケイたちは佐渡の死体を持ち帰ることに成功している。トウゴの無免許運転で、佐渡の自家用車を使って、診療所まで運んだのである。
皮肉なことに、死体の埋め方なら、佐渡に教えてもらったことがある。凍結限界より深く穴を堀り、そこに佐渡を埋めたのだ。事件になるのを防ぐため、通常の埋葬はしてやれなかったが……それでも連れて帰ることはできた。ケイたちにできる、せめてもの恩返しだった。
死体を埋葬し終えた頃には夜で、ケイたちはクタクタに疲れていた。
昨夜はすぐに解散したのである。
「実は君たちが死体を埋葬してる時、ボクは診療所内を物色していたんだ」
「たしかに、お前だけ手伝わなかったよな。佐渡先生の埋葬」
「嫌みは止してくれよ。こうして面白いものを見つけて、持ち帰っておいたんだからさ」
イリアは、持ってきていたポシェットの中から、1台のスマートフォンを取り出した。
「……佐渡先生のものか?」
「ああ。4桁のナンバーロックがかかっていたけれど、簡単に破ることができた。佐渡先生が大事に育てていた花。それが答えさ」
すぐに、ケイにも察しがついた。
「64の87、ってところか?」
「さすがは雨宮くんだ。単純な語呂合わせだったよ」
「あなたたち、何気にすごい推理能力じゃない……?」
実際に、イリアは数字を入力してパスワードロックを解除して見せた。
そうして、スマートフォンをテーブルの中央に置き、全員に画面が見えるようにした。
イリアは、佐渡の通話履歴を開いて見せた。
それを見たトウゴが、奇妙な名前を読み上げる。
「…………“コトリ”?」
その名前がズラリと並んでいた。
コトリという名前で登録された人物としか、通話した記録が見られない。
「このコトリという人物だが、おそらく佐渡先生の“協力者”だったと、ボクは見ているね」
「はあ? なんでそう思うんだ? 家族とか、恋人とかかもしれねえだろ」
「理由は簡単さ。ご覧よ。通話履歴を見ると、君たちへ毒薬を配った直後にも通話をしている。それに、ボクが仲間に加わった日にも。無人都市へ潜入する前日にもだ。タイミングから考えて、自分の置かれた状況を報告していたんじゃないかと思う。早速、これらの通話記録を入手しようとしているところだ。残念ながら、すでにこの電話番号は使われていないようだから、かけてみて確かめることはできないからね」
「通話記録を入手って、そんなことができるの?」
「世の中の9割の問題は、金で解決できる。ならボクには、世の中の9割の問題が解決できるということさ。金だけは、無駄にたくさん持っているからね。けどまあ、佐渡先生のことだ。どうせ電話で話しても問題ないような、当たり障りないことしか話していないだろう。ただ少なくとも、通話相手の性別や年齢は、声でわかるはずだ」
状況が一段落したと言うのに、落ち着くこともなく、イリアは次の行動に出ていた。その手際の良さに感心しながらも、それが同時に恐ろしくも感じられる。
トウゴが、呻くように言った。
「前から思ってたがよ、イリア。お前って……かなりの危険人物だよな。探偵雇ったり、通話記録を入手できたり。しかも違法な銃火器まで調達してきやがった」
「こういう状況じゃなければ、まず近寄らないタイプの人よね……」
「だからオレが言った通りでしょう? なるべく関わりたくない知り合いだって。イカレてるんです」
「ハハハ。ひどい言われ様には慣れてるよ。ただ、雨宮くんにだけは言われたくないかな」
どうということはない様子で、イリアは続けた。
「アトラスの言葉を思い出してくれ。彼がボクたちに指示したことは2つ。“罪人の王冠”を探せ。そして人類にとって最後の希望だと言う少女、つまり今では“アデルを守れ”という意味になるわけだが、その2つだ。そうすることで“ヒトの王”とやらが現れ、真王を滅ぼすことができる。晴れてボクたち人類は、真王が率いる帝国の支配から解放されて“全人類を救う”ことができる。まあ、おおよそ、そういう意味だったんだろうと、ボクは考えるね」
「ありゃあ、やっぱりマジに人類を救えってことだったのかな……ただの高校生の俺たちに……」
トウゴが不安そうに呟く。
だがイリアは、肩を竦めて言った。
「おや。自覚がないようなら言っておくけど、もうボクたちは、ただの高校生じゃないだろ? ある程度なら世界の実態を知っていて、そして一般人には知覚できない世界を見聞きすることができる。希少な能力を有した、貴重極まる人材だよ。ボクが当事者じゃなかったら、大枚をはたいて君たちを雇っているところさ」
「言われてみると、たしかに私たちも、とっくに普通じゃなくなってるのかもね」
イリアは不敵に笑んだ。
「世界の秘密を暴き、真王の支配から全人類を救う。それができるのは今、この世におそらく、ボクたちだけだ。こんな面白いことが他にあるかい? ボクは決めたよ。このプロジェクトに、本格的に出資しようと思う」
「出資ですって?」
「100億円。まずはそれを元手に、財団を創設する」
「ひゃ、ひゃくおくぅ!!?」
驚愕するサキとトウゴ。ケイは頭痛が始まったようで、こめかみを抑え始めた。アデルはマイペースにパンケーキを貪り続けている。そんな仲間たちを見渡し、イリアは告げた。
「財団の名前はそうだな――――“古びた赤花”、なんてどうだろう」
「アルトローゼ……」
「ああ。ボクたちは、アルトローゼを運営する仲間。人類を救うことを目的に集ったチームさ。財団としての下地が整うのに、少し時間がかかるけれど、まあ見ていてくれよ。近く、君たちにも色々と面白いものを見せられると思う」
言いながらイリアは、佐渡のスマホを指さした。
「それはさておき。まずはこの、コトリと言う人物を探してみよう。佐渡先生の仲間だとしたら、何か知っている可能性が非常に高い」
この上なく楽しそうに、イリアは提案した。