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アデル・オブ・シリウス ―原死の少女 天狼の騎士―  作者: うづき
12章 旧き時代の者たち

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12-13 秘密情報指定



 星々が輝き、砕けた月が漂う夜空。

 月光に照らし出された砂浜は、幻想的なきらめきを返す。

 バーベキューの火を囲みながら、一同の注目は、銀髪の男へ向けられていた。


 呆れたように、まずはジェシカが言った。


「死んだと思っていたヤツを、修理して蘇らせるなんて……思っていたよりもずっと、機人(エルフ)って、とんでも種族だったのね」


 皮肉されたリーゼは、誤解がないようにと思い、応えた。


「さすがに、個人情報(イデア)EDEN(ネットワーク)へ還った機人(エルフ)は、普通の生き物と同じで、完全に死んでしまっているから。修理したくらいで蘇ったりはしないよ。アトラスの場合、正確には死んでいたわけじゃなかった。個人情報(イデア)は残っていて、機能停止してるだけみたいだったから。再起動させることができればって思って、チャレンジしてたんだよ。ここまで上手くいくとは、思ってなかったんだけど」


 リーゼの話を捕捉するべく、アトラスも口を挟んできた。


「あくまで我は、再起動しただけ。息を吹き返しただけと言える。さっきも言った通りだ。我に残された記憶データの大半は、以前の身体の老朽化と共に失われてしまっている。それに、2500万年分の膨大なデータを保持できるほど、我が脳記憶容量(ストレージ)は巨大でなかった。ある程度、情報は取捨選択を繰り返しながら捨てていった。今もなお残っている情報となると、少ないだろう。データの保存状態も、鮮明ではない」


「フーン。なんか頼りない感じの、ボケが入った爺さんって感じねえ」


『お姉ちゃん、失礼だよ……!』


 姿のないエマが、急に発言したことで、アトラスは驚いている様子だった。

 事情を知らないため、周囲をキョロキョロと見回して、エマを探している。

 経緯を説明するのが面倒なため、全員スルーしているが。


 ジェシカが妹にたしなめられたところで、今度はジェイドが口を開いた。


「しっかしよお……。いきなりフッツーに現れたと思ったら、そいつが、2500万年前の機人(エルフ)族ですー、だなんて。色々とぶっ飛んだ状況すぎるぜ。星壊戦争が1万年くらい前だってんだから、それよりもずっと大昔から生きてるとか、本当かよ? 機人(エルフ)ってのは、今さらだけど、どんな種族なんだか」


 ボリボリと頭を掻いて言う。話の壮大さに、ジェイドも多少は困惑している様子だった。その話を聞いて、エマは持ち前の知識を披露した。


『私たちは普段、リーゼさんと一緒にいるから忘れがちですけど……。本来、機人(エルフ)族は希少種です。みんな、機人(エルフ)の見た目や、文化の基本的なところは学校で習いますけど、実態は謎なんですよね。遭遇した人が少ないから、研究資料とかも少ないですし。そもそも、どこに住んでいて、普段はどんな生活をしているのか、まるで知られていませんから。一生のうちで、実際に機人(エルフ)と出会う人って、ほとんどいないそうですよ』


「あー。アタシも、リーゼ以外の機人(エルフ)には、会ったこともないわね。たしか、文献に残っている情報だと、機人(エルフ)の平均寿命って800歳くらいだったかしら。人間や魔人(ドワーフ)族の、10倍近くは生きるのよね。なら、アタシたちが全員死んだ後も、リーゼだけは肌つやで生きてるわけ?」


「僕も機人(エルフ)に会ったのは、リーゼさんが初めてですよ。すごいなあ。機人(エルフ)は人間よりもずっと長生きだって、よく耳にしますけど。本当に、それほど長く生きられる種族なんですか、リーゼさん?」


 サムとジェシカに視線を送られ、リーゼは苦笑いして答える。


「さすがにアトラスみたいな、自称2500万年も生きた機人(エルフ)って、私も聞いたことがないかな。人間より寿命が長い種族だっていうのは本当だけど……私たちの有機機械体の身体は、半分が機械だから。適切なメンテナンスをしないでサボっていると、意外と100歳くらいで亡くなってしまう人も、少なくないんだよ。そういうのに気を遣っていれば、もしかしたら1万年以上でも生存可能なのかもしれないけれど……。長老たちでさえ、1500歳。自我を保って生存するとなると、それ以上は難しいんじゃないかな」


「じゃあよお。アトラスは桁違いに長生きできた、とんでもなく希少な機人(エルフ)ってことになんのか?」


「……」


 アトラスは、リーゼとジェイドをマジマジと見つめていた。

 物珍しそうに観察しているような態度だった。


「何なんだ、さっきからよお。俺やリーゼのことをジロジロ見やがって」


 見世物にされているような気がして、ジェイドはイヤそうに表情をしかめた。

 悪びれもせず、アトラスは尋ねてきた。


「リーゼ殿が機人(エルフ)族で。そして君が、ジェイド殿だったか。君はたしか……獣人(ラース)族だったか?」


「ああん?」


 妙な質問である。ジェシカが、アトラスのことをボケ老人扱いしていたが、思いのほか的外れではなかったのだろうか。少し、認知能力に疑いを向けたくなるような、確認を求めてきていた。


「そうだぜ。それがどうしたよ」


獣人(ラース)族……ジェイド・()()()()()()か」


「?」


「いいや。ただ君が、昔の友人に似ていると感じただけだ。気にしないでくれ」


 アトラスは1人で、感慨深く納得している様子だった。

 何を考えているのか、まるで予測できない。


「それより君たちは、我に星壊戦争のことを聞きたかったのだろう? 近く、それに近しい大戦が起きる気配があり、アーク全ての人々がヒリついている世界情勢と聞く。過去の話の中から、今に活かせる教訓を探るべく、リーゼ殿は我をこの場へ連れてきた」


「うん……。困窮している、今のアルトローゼ王国が、これから起きる戦争で生き延びるための、ヒントになるような話が、アトラスから聞ければ良いなと思って」


「なるほどな」


 ケイは納得した。

 過去のことから、現代を学ぶ。

 そうしたくてリーゼは、修復されたばかりのアトラスを連れてきているのだ。


 正直なところ、過去の戦争以外のことについても、ケイはアトラスに、尋ねたいことが山ほどあった。だが、アトラスが復活した今、そうした疑問は、後からいくらでも聞けるだろう。まずこの場では、直近の戦争に役立ちそうなことを聞いて、全員で情報共有するのが良い。


「……その前に。以前に、アンタから聞いた話を思い出していた」


 話し始めたケイへ、アトラスは視線を向けてくる。

 人間の姿になったアトラスと向かい合うのは、おかしな気分である。

 構わずに、ケイは続けた。


「無人都市で初めてアンタに遭遇した時は、人間になったアデルのことで、頭がいっぱいだったから。そのせいで、色々と忘れてたことだけど。今になって考えてみると、おかしいことがあるなって、気が付いたんだ」


「と言うと?」


「アークの史料によれば、初めて真王が、この地上へ降臨したのは1万年前。千国時代の世の混乱を平定するために、姿を成して現れたって聞いている。けれど、それよりもずっと以前。2500万年前の、アトラスたちの文明も、たしか“真王と戦った”と言っていたよな」


「その通りだ。そして我々は、真王に敗れた」


「ならつまり、真王は1万年前の、星壊戦争以前にも存在していたわけだよな。その話が帝国史に残っているのか、オレは知らないけれど。2500万年前の戦争から、星壊戦争までの間、姿を見せていなかったことにならないか? 遙か昔から真王は存在していたけれど、初めて人の姿で現れたのが1万年前って意味だとしたら……それ以前の真王は“いったい何”だったんだ?」


「星壊戦争以前の、真王か」


 アトラスは腕組みをして真顔になる。


「君たちは、真王についてどこまでのことを知っている」


 その問いには、ジェシカが答えた。


「7つ企業国(ユニオン)の、いずれにも属していない領土。聖都って呼ばれる、一般のアーク市民は入ることも許されない巨大な謎大都市があるわ。星壊戦争の時に降臨して以来、そこへずっと引きこもって、姿を見せたこともない皇帝よね」


「へっ。つい最近、アデルの結婚式にノコノコと姿を現したかと思えば、呆気なくアルテミアにぶっ殺されちまった。帝国貴族どもはショックを受けてるみてえだったが、帝国市民階級の奴等からすりゃ、知らないお偉方が死んじまった程度の話。存在感が空気みてえな野郎だったな」


 ケイたちの真王観について、おおよそのことを把握できたのだろう。

 アトラスは少し考えてから、発言をした。


「まず誤解がないように言っておこう。真王は――――()()()()()()()()()


「!」


 全員が驚いた顔をする。


「それは……どういう意味なんだ、アトラス。まだ真王が生きてるって言いたいのか?」


「以前に言っただろう。真王という存在を説明するのは、簡単ではないのだと」


「まあたしかに、そうは言ってたけれど……」


 困惑した表情で、アデルが口を開いた。


「私は式場で、真王がアルテミアによって両断される最期を見ています。さすがにアレを見て、まだ真王が生存しているのだとは思えません」


 ジェシカも付け足した。


「アンタが言う通り、100歩譲って、真王がまだ生きているんだとしたらよ? 今は、どこに雲隠れしてるのよ。アデルの結婚式で、アルテミアに殺されかけた後に、真王は何も動きを見せてないわ。自分へ叛逆したアルテミアに罰を与えるでもなく、ただ放っておくなんてこと、すると思えないわ。復讐するなりなんなり、やることがあるでしょう。帝国の秩序を無視して、戦争の準備をしている企業国王(ドミネーター)たちを見過ごしているのも変よ。死んでるって考えれば、全て納得がいくことでしょ?」


 当然の疑問を投げかけられたアトラス。

 その答えに、全員の注目が集まった。


 アトラスは、厳かに語り出す。


「真王とは――――」


 一拍の間を置かれ、全員が固い唾を飲み込んだ。


「真王とは……?」


「………………話せん」


 予期せぬアトラスの答えに、全員が肩透かしを食らった。


「な、なんだよそりゃ! 肝心なところは秘密ってかよ!」


「それ、ギャグのつもりで言ってんの?! 面白くないんだけど!」


「真王がまだ生きているんだとしたら、それは大事(おおごと)なんだよ!? ふざけてる場合じゃないよ、アトラス!」


 攻め立てられたアトラスは、困ったように続けた。


「違うのだ。強制力のある何かが、我が情報を開示することを差し止めている。外部的な要因によって、強制的に口を閉ざされてしまうのだ」


「外部的な要因で話せねえだあ……?」


 自分の意思に反して、話したくても話せない。

 話そうとしても、それができない。

 それに気付いた様子で、アトラス自身も困惑しているようだった。


 だがリーゼには、すぐに思い当たることがあった。


「話したくても話せない。まさかそれって……秘密情報指定(コンフィデンシャル)!?」


 青ざめているリーゼへ、ケイが尋ねた。


「それってたしか……機人(エルフ)族の偉い人が、機人(エルフ)全員に敷いている強制箝口令(かんこうれい)なんだっけ?」


「!」


 アトラスが驚いた顔をする。


秘密情報指定(コンフィデンシャル)……? なるほど、そうやって外部への情報の開示を制限するシステムを構築したのか。どうやら機人(エルフ)という種族は、()()()()()を、よく生かしていると見える」


「過去の経験……?」


「我が、現代の機人(エルフ)によって修復された影響だろうな。現代の機人(エルフ)が受けているのと同じ影響を、我も受けるようになってしまったのだと、考えるべきだろう。以前のように、自由に話すことはできなくなったと見える」


「つまり……リーゼと同じで、機人(エルフ)にとって秘密にしなきゃいけない情報は、教えられないようになってるってことか?」


「そういうことになるのだろう」


「……?」


 アトラスとケイのやり取りを聞いていて、リーゼは眉をひそめている。

 何か、疑念を感じている様子だった。


 それまで黙って話を聞いていたイリアが、溜息と共に肩をすくめて言った。


「ヤレヤレ。なら仕方ない。星壊戦争以前の話や、真王のことは後回しだ。教えられる範囲で教えてくれたまえ」


 前髪を掻き上げながら、イリアは続けた。


「次の大戦を生き延びるためのヒントを得たいなんて。そろそろ遠回しな言い方はやめようか。ボクが聞きたいのはズバリ、以前に君が言っていたこと。――――“罪人の王冠(シリウス・ケテル)”についてだ」


 その名を耳にした途端、リーゼは目を見開いた。

 再び、全員の視線がアトラスへ集まる。


「君はボクたちへ、人類最後の希望なのだと言ってソフィアを……アデルを託した。そしてこうも言った。真王を打倒するために、罪人の王冠(シリウス・ケテル)が必要なのだとね。ヒトの王が、それを戴冠(たいかん)すれば、帝国支配を終わらせられる。以前に聞いたリーゼの推察や、企業国王(ドミネーター)たちがそれぞれ有している王冠(ケテル)のことを考えれば、おそらく罪人の王冠(シリウス・ケテル)とは、アークで最強の“兵器”だろう?」


 聞いていたケイは、イリアの質問の本質を理解した。


「……なるほどな。つまり、こう聞いてるのか、イリア? 真王や帝国を滅ぼせるほどの力を持った兵器を“手に入れる方法はないのか”って」


「さすがは雨宮くん。頭の回転が速いね」


 全員、驚いた顔でケイとイリアを見る。


「アークで最弱のアルトローゼ王国が、一発逆転するための秘策。そんなものがあるとしたら、ボクは、伝説の罪人の王冠(シリウス・ケテル)の入手にかかっていると見ている」


 アトラスが答えるより先に、口を挟んだのはリーゼだった。


「以前……。ケイやアデルと一緒に、企業国王(ドミネーター)であるエヴァノフへ挑んだ時。あの男が、そのことについて話していたよ。王冠(ケテル)は、8つの“枢要罪(すうようざい)”に属した権能を有している。憤怒、暴食、憂鬱、怠惰、虚飾、色欲、強欲、傲慢。それら(ことわり)たる概念を具現化し、御する力を有した至宝だって」


 リンネが怪訝に眉を寄せて言った。


「待ってください。8つの王冠(ケテル)って……7人の企業国王(ドミネーター)に対して、王冠(ケテル)が1つ多くないです?」


「そう。企業国王(ドミネーター)たちの冠する7つの王冠(ケテル)は、元々、1つの王冠(ケテル)だったみたい。つまり、8つ目の王冠(ケテル)が存在した。それこそが、罪人の王冠(シリウス・ケテル)


 ケイも、エヴァノフとのやり取りを思い出し、付け足した。


企業国王(ドミネーター)たちの所有している王冠(ケテル)は、罪人の王冠(シリウス・ケテル)の欠片。全て集めれば、もしかしたら元の姿に戻るのかも知れないと、考えはしたけれど……企業国王(ドミネーター)たち全員から王冠(ケテル)を奪うなんて、至難の業だ。だからリーゼは、罪人の王冠(シリウス・ケテル)を探す旅を、一時的に中断していた。だろ?」


「……うん」


 悲しそうに視線を伏して、リーゼは肯定した。

 その姿を横目にしながら、ケイはイリアへ尋ねた。


「そのことは、お前も知っていたはずだろ?」


「ああ、知っているよ」


 イリアは腕組みをして頷く。


「だが考えてもみてくれ。7つの王冠(ケテル)を集めれば、罪人の王冠(シリウス・ケテル)が手に入るなんて話には根拠がない。あくまでそれは、ボクたちの思い込み。予想でしかないだろ? そもそも、存在自体が伝説めいている王冠(ケテル)なんだ。入手方法なんて、検証のしようもない。そうなると、エヴァノフの話が正しいのかという疑問も湧いてくる。つまり企業国王(ドミネーター)たちの所有している王冠(ケテル)が、罪人の王冠(シリウス・ケテル)の一部であるという情報は正しいのか。その答えを持っている人物が、こうしてボクたちの目の前へ戻ってきているんだ。改めて、確認することは無駄じゃないだろう?」


 イリアは妖しい笑みを浮かべた。

 そうして、アトラスへ向き直る。


「教えて欲しいね。ボクたちが罪人の王冠(シリウス・ケテル)を手に入れる方法はあるのか。あるとすれば、それはどんな手段なのか」





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