表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アデル・オブ・シリウス ―原死の少女 天狼の騎士―  作者: うづき
10章 七企業国崩壊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

253/479

10-60 星気



 ミスター・ジョーと呼ばれる手配犯一派が、港倉庫で、峰御トウゴ一派と取引することは、あらかじめ捕らえておいたレジスタンスの一員から、情報を聞き出せていた。脱出手段として小型の転移装置(ポータル)を運用していることもわかっていたため、あとはテロリストたちが、転移して脱出する先がどこであるのかを知ることができれば、包囲して一網打尽にできる計画であった。


 支配権限によって操った女をレジスタンスに戻し、内通させる。

 現場指揮官として任命されたアーサーが、立てた作戦は成功していた。


機人(エルフ)族が、妙な目眩まし道具を持ってること以外はな!」


 深い霧のように、周囲一帯へ広がる煙幕。ただの煙幕弾よりも拡散範囲が広大で、教会を中心に市街地全体が煙りに覆われたような状況になる。周辺の家々から、煙を誤検知した火災報知器が、合唱するように鳴り始めていた。教会の裏口から出てきたテロリストたちの姿を見失い、FBIの特殊部隊と連携して敷いた包囲網は、総崩れ状態となってしまう。


「ひええ! これじゃ何も見えないよ! 近くにいるの、ケイン!?」


 濃い煙の向こうで、サムが慌てている声が聞こえてきた。近くから、仲間たちの咳き込む音も聞こえてくる。敵味方ともに、視界がない中では、耳に頼って敵の位置を探るしかないだろう。


 無作為に音を出すことは、死に直結している。


「大声を出すな、サム! 敵に位置を知られてしまうぞ!」


 ケインの警告が聞こえたのだろう。

 サムたちは黙り込んだ。


 テロリストたちは、交戦よりも撤退を優先させるだろう。積極的に攻撃してくることはないはずだ。だがケインたちの目的は、テロリストたちの抹殺。峰御トウゴの捕獲だ。このまま黙って見逃すことはできない。煙に視界を奪われた静寂の中で、ケインは思考を巡らせる。


 煙を吸いすぎないよう、呼吸を浅く。

 心を落ち着けた。


 ――――そうしてマナの流れを読む。


 世界を形作るのは、目に見えない、マナと呼ばれるものだ。それは、あらゆる物質を経路(リンク)で繋ぎ、EDEN(ネットワーク)を成している。


 誰しもが世界と、マナを通じて繋がっているのだ。

 ケインとて例外ではない。

 たとえ魔術を使えなくても。

 繋がっている以上は、その機微や流れを読み取ることができる。


 理屈は簡単だが、実践(じっせん)至難(しなん)である。それでもケインは、アイゼンの下で、学んできたのだ。習った剣技とは、すなわちマナの流れを読み、(ぎょ)する技法。無から有を生み出す魔術とは違い、無を無のままに利用する。星の中を血液のように流れる力の奔流を、五感で捉え、自在に操る技術。


「星気術――――」


 五感を研ぎ澄ませば、周囲に満ちたマナの、微細な流れまで感じ取れた。まるで波のない、湖面のように静まった気配。その中で激しく動き回る命の気配があれば、それは激しく湖面を揺らがせる異物となる。近くの木の上で、さえずる小鳥。羽音を立てる小さな虫。ケインの周囲にいる、あらゆる命の気配を、鮮明に肌で感じ取ることができた。その中から、単独で、砂浜の方角へ駆けて去ろうとする峰御トウゴの位置を、ハッキリと感知する。


「逃がさない!」


 ケインは、目の前を埋め尽くす煙の中を駆けだした。視界はゼロに等しいほどに酷い状況だった。だが足をもつれさせることもなく、転ぶこともなく、素早くターゲットの背を追いかける。


 視力が役に立たない状況でも、星気術を使えば、自分の周囲の地形を把握することは容易だった。感覚を研ぎ澄ましていると、目から見える主観視点だけが情報元ではなく、肌や耳を、目のように使うことができるのだ。まるで自分を頭上から俯瞰して見下ろしているように、周囲一帯が広々と見渡せている。前方だけではなく、横や後ろ、上も下も、同時に全てが見えているようだ。自分という存在が、周囲へ大きく広がったようでもある。


 AIV(アイブ)通信で、指揮官のアーサーから連絡が入る。


『こちらアーサー。峰御の仲間の機人(エルフ)族と交戦中だ。刀身の長さを自在に変えられる、光のナイフの使い手のようだ。奴等の機械眼は、この煙幕の中でもこちらの位置を正確に捕捉できている。近接戦に自信のない者は、むやみに仕掛けるな。これから囲い込んで、この私がトドメを刺す』


 アーサーの通信に、ケインは応えた。


「こちらトラヴァース。ビーチの方角へ逃走している、峰御トウゴを追跡中」


『なっ! トラヴァース!? このゼロ視界の中で、どうやって追跡を!?」


「細かいことは後だ。必要に応じて交戦することになるだろう。相手は魔術の使い手じゃないらしいが、普通の戦闘員でもないという情報だったよな。おそらくは機人(エルフ)製の異能装具(アーティファクト)、妙な魔眼を持ってるとか……オレの援護をよこせるか?」


 ケインの報告を聞いたアーサーは、興奮して応えてくる。


『トラヴァース、そのまま峰御トウゴを逃すなよ! 峰御トウゴこそが、本作戦のメインターゲットだ! お前の近くには今……サムとシラヌイがいるな! 2人共、この通信が聞こえているなら、トラヴァースのAIV(アイブ)の位置を目指して合流しろ! 視界が悪い。途中、潜んでいる敵の奇襲に注意しろ!』


『シラヌイ、了解ッス!』


『あ、サムも了解! ケイン、1人で無理しないでね!』


「トラヴァース、了解」


 ひとまず援護をよこしてくれることになった。あとは仲間の合流まで、峰御トウゴを逃がさないようにするだけだ。何も見えない中を、ケインは駆け続けた。





次話の更新は月曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よければ「ブックマーク登録」「評価ポイント」をお願いします。
作者の励みになります。

また、ランキングタグも置いてみました。
この連載を応援いただけるのであれば、クリックしていただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング

©うづき, 2021. All rights reserved.
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ