10-25 夜狂の町
トウゴは急いで、家屋の中に飛び込んだ。
土間で靴を脱ぐことすらせず、一気に廊下を駆ける。
ミズキの呼ぶ声が聞こえたのは、居間の方だ。家が大きいこともあって、玄関先からの距離はおよそ30メートルある。そこを駆け抜ける間に、懐から自動拳銃を取り出し、手際良く安全装置を解除する。
「無事か、ミズキ!」
返事がない。
とにかく急ぐ。
この家には今、9人の人間がいる。トウゴとミズキの2人。それに、篠川たちテレビ関係者が5名。そして家主である老夫婦の2人だ。その大半が、居間に集まっていることが予想できた。
なぜなら居間の方から、笑い声が聞こえている。
談笑する声とは、違っていた。誰もが腹を抱えて笑い転げている。そんな感じに聞こえた。その数は多く、1人や2人ではない。何が面白いのか。なぜミズキが声を上げて、トウゴを呼ぶような状況になっているのか、辿り着くまでは、まるで検討もつかない。
トウゴは、居間に続く障子戸を乱暴に開けるた。畳の敷かれた広い居間には、案の定、テレビスタッフたちや老夫婦が、ちゃぶ台を囲んでいた。
やはり笑っている。
異様なことに、全員が同じ方向に顔を向けて、身動きせずに笑い声を上げているのだ。見つめているのは、居間に面した縁側の向こう。ガラス戸を越して見える、庭のさらにその先。木々が茂った森の暗黒である。
「トウゴさん!」
駆けつけたトウゴに、青ざめた顔のミズキが声をかけてくる。見ればミズキは、ヒナというタレントの少女と身を寄せ合うようにして、狂ったように笑っている老夫婦やスタッフたちに、怯えている様子だった。狂気じみた現場の雰囲気に、トウゴは困惑してしまう。
「こりゃあ……何事だ、ミズキ!」
「わからないんです! 声をかけても、返事をしてくれなくなっちゃって! スタッフの人が、庭の向こうに“何か”がいるって言い出して、そっちの方に注意を向けた途端、みんなこんな感じで、おかしくなちゃったんです!」
「何なのよ、コイツ等! なんで急に、ずっと笑ったままフリーズしちゃってんの!?」
ヒナはミズキにしがみつくようにして、涙目でスタッフたちの奇行を見ていた。
遅れて、寝室から自分のバックパックを持ちだしてきたらしい篠川が、トウゴの後ろから顔を出す。ミズキのただならぬ声を聞いて、篠川も慌てて駆けつけてきたのだろう。見知った仕事仲間たちや老夫婦が、ひたすら家の外を見つめて笑い続けている様を目の当たりにし、言葉を失ってしまう。
「これはいったい……!」
「篠川! あなたは無事だったのね!」
「ヒナちゃん、何が起きたんだい」
ヒナはミズキから離れ、篠川の腕に飛びついた。その後ろに隠れるようにして、居間の様子を窺う。そうしてから、篠川の質問に答えた。
「よくわからないの! あっち! 森の方に何かがいるって、スタッフの人たちが……!」
ヒナは、ミズキと同様のことを訴える。
自身も森の方に目を向けて、その闇の向こうに目を凝らした。
トウゴは居間で笑い続けている全員を見渡し、イヤなことを思い出していた。
「森にいる何かを、見たらおかしくなった……?」
ヒナの目が丸くなる。
暗い森の向こうに、何か白いものが薄らと見えるような気がしたのだ。
見間違いではなかったのかと、闇の向こうへ、よりいっそうに目を凝らす。
そうして気が付いた。
「あれ……? あそこに、何か“白いクネクネしたモノ”が……」
「!?」
トウゴと篠川は、目を見開き驚愕する。
「見るな!」
「ダメだ、ヒナちゃん!」
気が付いた時には遅い。
ヒナの目が見開かれ、一気に充血し始める。
ニタリと唇の両端を吊り上げ、満面の笑みをつくり出した。
「あ……あははは! あははははははは!」
闇の向こうに見つけた何かを凝視して、そのまま笑い声を上げ始めるヒナ。まるで他のスタッフたちと同じである。森の中に何かを発見した途端、それを見つめたまま動けなくなっている様子だ。自分の意思で、視線がそらせないらしい
「ヒナちゃん!?」
「ミズキ、お前も森を見るな!」
篠川は、ヒナの目を手で覆い隠し、無理矢理に視線を切る。そうしてやることで、ヒナは笑うことをやめて、そのまま頭を抱えてうずくまった。激しい頭痛がしているらしく、涙を流しながら、自分の身になにが起きたのか困惑している様子だった。
「いったい、森に何がいるんですか!?」
「……白いクネクネしたものって、言ってたね」
「見たら気が狂う怪物。田舎の都市伝説。まさか“クネクネ”かよ……!」
トウゴは冷や汗を浮かべる。以前に、オカルト好きの少女から聞かされたことがある話だ。田舎に出没する、正体不明の白い物体。クネクネと揺れるように動いている怪物で、その姿を直視したモノはおかしくなるのだと聞かされていた。状況はまさに、その怪物が引き起こしている現象だ。
「……マズい。襲撃だよ、トウゴくん。白石塔に存在する都市伝説の大半は、類似した異能を有した、異常存在による犯行の目撃談であることが多い。かの有名な“クネクネさん”が、トウゴくんを追ってきた、新手の敵ってことかな」
「クソッタレ……! ブラッドベノムの連中は、特殊能力持ち、クラス4を複数体も運用してんのかよ。人の姿を真似るヤツだけじゃないのか。こりゃあ、姿を見たらEDENを通じた精神攻撃をしてくるタイプだな。以前にも似たような野郎と戦ったことがあるが、敵の姿を目視できないのは厄介だ……!」
東京都で、怪物紳士と戦った時にも、窮地に陥ったことを覚えている。あの時は、アデルという特異な存在がいたことで、かろうじて勝利することができた相手だ。だが今回は、残念ながら、アデルが傍にいない状況だ。
森に敵が潜んでいるというのに、その姿を探すことができず、逆に目をそらさなければならない。そうしなければ、ここで狂って、笑い転げている人々たちの二の舞になるのだ。身動きが取れなくなったところを、近づいて容易く殺害されてしまうだろう。敵からすれば、危険を冒して接近戦を仕掛けなくても、トウゴたちに自分の姿を見せれば勝ちなのだ。楽な戦いである。
――――縁側のガラス戸が割れる。
「!」
森の方から、石のつぶてが無数に飛来してきた。まるで銃弾のような速度で放たれたそれは、空気を唸らせ、居間で笑い転げているテレビスタッフや老夫婦の頭蓋を容易く撃ち抜く。血しぶきと脳漿を散らして、呆気なく撃ち殺されてしまった人々。一瞬のうちに笑い声は掻き消え、居間が血の海と化す。
「きゃあああああああああ!」
叫ぶミズキの悲鳴と共に、居間の電灯までもが石のつぶてで破壊される。その辺の石ころを使って、狙撃手のように正確な射撃を繰り出してくる敵。撃ち出す姿を見ることが出来ないため、クネクネがやったのか、あるいは別の怪物がやったのか、判断はできない。ただトウゴは、怒りを覚えた。
「クソが! 容赦せずに一般人まで皆殺しかよ! なりふり構わねえってのか!」
今の攻撃の意図を察知し、篠川が焦った声で言った。
「やられたよ! 姿を見ておかしくなってる人たちの視線の向きを見れば、直接に姿を見なくても、敵のいる方角が、だいたいわかったはずなのに。それを“潰して”きた……!」
「これで、完全にヤツの居所がわからなくなりやがった……!」
わかっているのは、この場に留まるのが危険だということだ。
「逃げるよ、トウゴくん、ミズキちゃん!」
篠川は言うなり、ヒナに手を貸して居間を飛び出る。その後に続いて、トウゴも居間を出ようとする。電灯が消えて暗くなった居間で、ミズキは視界を奪われて戸惑っていた。その手を掴んで、無理矢理にでも連れ出した。トウゴたちが廊下に出た直後、さらなる石のつぶてが居間に撃ち込まれてきた。それが壁や畳に着弾する音を背後に聞きながら、トウゴたちは玄関先に駐めてある、テレビ局のバンを目指す。玄関先に他の敵が待ち構えていないか、気配を探り、包囲されていないことを祈りながら、バンへ乗り込んだ。
運転席に乗り込んですぐに、篠川がエンジンをかけた。
「飛ばすよ!」
バンは急発進し、林道へ飛び出た。見る見る間に背後へ遠のき、見えなくなっていく家屋。木々に囲まれた大きな家の明かりが、フッと全て、一斉に消えるのが確認できた。おそらく襲撃してきた敵の手に落ちたのだろう。間一髪の脱出だったのだ。
◇◇◇
林道は細く、道脇のガードレールの向こう側は、谷底になっている。篠川が運転するバンは、かなりのスピードを出しており、少しでもハンドル操作を間違えれば、落下事故を起こしかねない勢いだった。だがそれに不満を言う者は、車内にいない。敵がまだ、背後の道路を追跡してきていないとも限らないのだ。一刻も早く山を下りて、民家の多い、明るい町まで出たかったのである。
たしか下山してすぐのところに、コンビニがあったはずである。
ひとまずはそこを目指して、篠川は運転を続ける。
トウゴは自動拳銃を手に、車の背後をジッと凝視していた。道中の車内では、ミズキもヒナも無言だった。無理もないだろう。目の前で、人が無残に撃ち殺される姿を目撃したのだ。ミズキは血の気が失せた顔で、身を震わせていた。事情がよくわかっていないヒナについては、さらに不安な心境のはずである。下山するまでしばらくは、全員が黙って、緊張の時間が続いた。
やがて、目的のコンビニ前まで辿り着いた。
「……これって、どういうことですか?」
「……マズい状況ってことだろうね」
ミズキの問いかけに、運転席の篠川が答える。
コンビニの店内には明かりが灯っておらず、看板も消灯していた。どんな田舎町であっても、コンビニだけはいつでも明かりが点いていて、安心できる雰囲気だったはずである。だが、車窓から見える店舗は真っ暗で、森の闇の一部に溶け込み沈んでいる。
篠川は車を止めず、営業していないと思わしきコンビニの前を通りすぎた。背後へ遠ざかって行く店。頭痛が和らいできたのだろうヒナが、少しだけ取り戻した元気で、不満を口にする。
「どうなってるの……? 田舎のコンビニだから、24時間営業してないってこと?」
言いながらヒナは、自分のスマートフォンを取り出して時刻を確認する。まだ20時くらいだ。営業を終了するには、ずいぶんと早い時間帯に思える。ヒナの言葉に、ミズキが反応した。
「でもさっきのコンビニ、24時間営業の看板が出てたよ? やってないのは、おかしくない?」
「……」
「……」
ルームミラー越しに、篠川は後部座席のトウゴを見る。その目と、トウゴの視線が合った。互いに、おそらく同じ事を考えている顔をしていた。
「ねえ、ちょっと変じゃない、この町……」
異変に気が付いたヒナが、それを口にした。
下山して、民家が比較的多く集まっている地区にやってきた。都会のようにひしめくように家々が建っているわけではなく、ポツポツと道路の脇道に民家があるような街並みだ。街灯も点々と灯っているため、公道であってもだいぶ暗い。……むしろ、暗すぎるくらいに感じた。
ヒナが感じた違和感の正体に、ミズキが気が付く。
「全部の家に……明かりが点いていない……?」
言う通りだった。コンビニどころか、周辺の家々まで。明かりが点いていてもおかしくない場所に、明かりがないのだ。夜道を照らす街灯以外には、トウゴたちの車の前照灯しかない。そのため、周囲は異常なまでに闇の濃度が高くなっているのである。
「篠川さん……こりゃあ……」
「たぶんそうだと思うよ」
トウゴと篠川だけが、わかったような口ぶりで以心伝心している。それが気に食わなかったのか、状況がよくわかっていないヒナは、苛立った口調で尋ねた。
「なに? どういうことなのか、わかってるなら教えてよ! いくら田舎町だからって、深夜でもないのに、町がこんなに暗いのはおかしいわよ!」
「……」
どう言ったものか、少し迷った後にトウゴが答えた。
「俺たち諸共、町1つを消し去るつもりだ」
「…………は?」
「この辺の家々って、立地的に、僕たちがいた森の中の家へ向かう道中だろ? さっき僕たちを襲ってきた怪物たちは、たぶん道すがら、この辺の人たちを“皆殺しにした”んだと思う」
「……!?」
「あんまりにも静か過ぎるし、暗すぎんだろ? たぶんもう、全員……」
推測を裏付ける光景が、そのすぐ直後に現れる。
路上に脈絡なく現れた、死体の山。
血みどろの姿になって息絶えた、この辺の住人たちだろう。
まるで焚き火の薪のように、無造作に積み上げられている。
周囲が暗いため、その1つ1つが、鮮明に見えないことだけが救いだった。
「やだ……あれ、さすがにテレビの作り物か何かでしょ……? もしかしてこれ、ドッキリ……?」
「ヒナちゃん……」
「……ミズキ、あんまり見るな」
現実を受け止めきれていない様子のヒナ。衝撃的な光景を目の当たりにして、悲鳴を上げるでもなく、口をパクパクとさせ、絶句していた。ミズキも青ざめ、涙目になってしまっている。この残酷すぎる状況にショックを受けている少女たちへ、どんな言葉をかければ気休めになるのか、トウゴには検討もつかなかった。
積み上げられた死体の山を迂回しながら、篠川の運転する車は、道の先へ進む。無関係な人たちが、容赦なく殺されていく状況に、トウゴは苦渋の思いを抱く。この異常事態の中で冷静さを失うことのないよう、懸命に、怒りと恐怖を噛み殺す。そうしてから、篠川に意見を聞いてみた。
「この様子じゃ……この町はすでに包囲されてるって考えた方が良さそうか?」
「ああ。町1つを取り囲み、包囲網の中にいる人間を全員殺すことになってでも、僕たちを追い詰めようとしている。敵がそれだけ、トウゴくんに盗まれたアンプルを、驚異だと考えている証拠だろう」
「……つまり、今度ばかりは、もう“逃がす気がねえ”ってことだな」
トウゴが言った直後だった。
道路の行き先に、人影のような何かが飛び出しきた。
「くっ!」
衝突したらまずいと、篠川は咄嗟にブレーキを踏んで、ハンドルを切る。だが障害物を完全に回避することはできず、車の左側面が、飛び出してきた何かにぶつかってしまう。車は路上でスピン回転をしながら、制御を失って、道脇のガードレールへ突き刺さった。
「きゃああああ!」
シートベルトをしていなかった助手席のミズキが、フロントガラスを突き破って、車の外へ投げ出されてしまう。そのままミズキの身体は、ガードレール向こうの、草むらの方へ投げ出されてしまった。前照灯の光が届かない闇の中に消えて、見えなくなった。
運転席の篠川はエアバックに打ちのめされ、ヒナは衝突のショックで、それぞれ気絶している。かろうじて意識を保っているトウゴは、頭から血を流しながら、シートベルトを外す。そうして車のドアを開けて路上に出た。フラつく足取りで、ミズキが消えて行った闇の向こうへ叫ぶ。
「くっ……ミズキ!」
返事がない。
見えないところで、気絶しているのか。
それとも……最悪な事態になってしまっているのか。
急いで駆けつけたいところだが、トウゴは軽い脳しんとうを起こしていた。朦朧とする意識を必死に留めながら、まずは自分の背後を見やる。道路に飛び出てきた何か。それが、野生動物の類いでないことはわかっているのだ。
「――――車で勢いよくぶつかってくれやがって。ちょーっとばかり、痛えじゃねえかよ」
「!?」
聞こえてきたのは、知っている男の声だ。
街灯がスポットライトのように照らし出す、僅かな空間。路上に佇むのは、忌まわしい男の姿だ。染め上げた金髪。両耳はピアスだらけである。ロングレザーコートを着込んでいる。
「宇治川で、仲間の機人や兄貴と一緒にやられてりゃ、話は早かったのによお。ずいぶんと手際良く逃げ回って、手を煩わせてくれてるじゃねえかよ、峰御トウゴ」
「斗鉤ダイキ……!」
名を呼ばれたダイキは、ニタニタと不気味に微笑んだ。
「暗殺が1度、失敗したせいでよお。キレちまった上司が、次はこんな大仰しい作戦でやれって言い出しちまった。可哀想になあ。この町の連中、テメエのせいで死ぬことになったも同然だぞお?」
「クソっ! テメエ等、ブラッドベノムは加減ってもんを知らねえのかよ……!」
「へえ」
ダイキは感心した。
「コソコソ逃げ回ってる間に、ちゃーんと、こっちの正体を嗅ぎ回っていたみてえだなあ? ますます生かしておく理由がなくなったぜ」
「ハン。相変わらずのバカで助かる。……これで敵の正体は確定かよ」
半分は探りだったトウゴの皮肉に、ダイキは簡単に引っかかった。追跡してくる敵の正体は、ブラッドベノムであることを認めている。自分の失態に気が付いていない、ダイキ。それを見ていられなかったのか、もう1人の男が、闇の中から姿を現す。
「――――やれやれ。相手にうっかり情報を与えてしまうとは。自我を有する特異な存在とは言え、初期の実験体は知能指数に難がある」
「?!」
気配を感じさせない相手の登場に、トウゴは驚いた。
その顔は、初めて見る顔だ。
自分の失態に気が付いていない、ダイキ。それを見ていられなかったのか、もう1人の男が、闇の中から姿を現す。
日本人ではない。金髪の白人だった。ダブルのスーツ姿で、洒落たビジネスマンのような格好をしていた。だが、そうではないのだと一目で確信させるのは、顔の左半分に負った、酷い火傷の痕跡だ。ただれた皮膚に、剥き出しの眼球。おそらく移植されたのであろう、人工の瞼が付いている。しかも手には、大きな鎌を手にしていた。
ダイキの背後に控えていたその男を見て、トウゴはすぐに察した。
「……あんたが“親玉”か」
「そんな大それたものじゃない。ダイキくんたちの上司。ただの中間管理職さ」
焼けた顔の男は、名乗りもしないでトウゴへ語りかけた。
「白石塔内で起きる、低級の異常存在にまつわるトラブルを解決する。いわゆる関西の解決屋さんだね。帝国騎士団の息がかかった、小間使いでないことは、調べてすぐにわかったよ。普段はザコばかり相手にしている君たちが、驚異だと考えるものは少ないだろう。だが、そう油断してしまったことを認めるよ。君は、こちらが想定していたよりも賢く、機転が利く相手だった。おかげで宇治川では、君を始末しそこねたとも」
「あんたの部下の、ブラッドベノムの連中が間抜けだったおかげで助かったぜ」
「クク。手厳しいね。だが、君は実に有能なようだ。我々の“兵器”を盗みさえしなければ、このような関係になることはなかったのに。君に仕事を依頼できないのは、実に惜しいよ。このまま君を野放しにしておけば、我々の“予定”に差し障りがある。確実に君を殺すためなら、たとえ、このド田舎ごと消し去ることになっても構わないという判断が下ったのさ」
「……予定?」
それ以上、焼けた顔の男は語らなくなった。
あとは殺すだけということだろう。話は終わりだ。
トウゴは自動拳銃を構えて、必死に臨戦態勢を取る。
だが、その足がフラついていることに、ダイキはとっくに気付いている。
だからこそ、ダイキは楽しくて仕方が無かった。
「っつーわけでよお。ここで死んでおこうな?」
ダイキは手近な道路標識を掴むと、信じられない怪力で、アスファルトから引き抜いた。それを、まるで野球バットのように扱い、軽々と肩に担いだ。