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8-56 明日のために



 敵意を向けてくる少年。

 その手に握られた赤い剣が、光を発している。


 暗愁卿(あんしゅうきょう)は、それに驚愕せざるをえない。


「なぜだ……! なぜ今、その剣が光っているのだ!?」


 ついさっきも見たばかりの、発光現象だ。オリハルコンが混じった超硬質ガラスを、たやすく切り裂いて見せた時と同じだ。それが意味しているであろうことは、剣が“死”の(ことわり)を操作する力を、発揮した状態であるということだ。かつては四条院コウスケさえも、斬り伏せた魔剣。すなわち企業国王(ドミネーター)遅効装甲(コラプサーシールド)の機能にさえ死をもたらし、貫く力を有している剣が、覚醒している。


 企業国王(ドミネーター)を殺せると言われる剣が、必殺の状態にある。


 いくら考えてみても、それは起こり得ない出来事だった。なぜなら、剣が力を発揮できないように、暗愁卿(あんしゅうきょう)は状況を制御してきたのだ。把握している限りの情報では、雨宮ケイの赤剣は、所持者が死亡状態に陥らなければ力を発揮しない背水の武器である。雨宮ケイを殺さないようにさえしていれば、剣は無力のままのはず。実際に、つい先程までそうすることで、剣は力を発揮できず、雨宮ケイは手も足も出ずに(なぶ)られているだけだったではないか。


 その状況の、何が変わった。


「いったい貴様、何をしたというのだ!」


「……」


「答えぬか!」


 雨宮ケイは、何も答えようとしない。

 ふとそこで、暗愁卿(あんしゅうきょう)は気が付いた。


 発光する剣を手に、その場で立ち上がりはしたものの、雨宮ケイの手足はいまだ、権能によってもたらされた恐怖によって震えたままである。暗愁卿(あんしゅうきょう)に恐れをなして、その場から身動きも取れないのだ。そのせいで、喋ることもできないのではないだろうか。


 ……杞憂だったか……?


 剣が力を発揮したからと言って、どうやら暗愁卿(あんしゅうきょう)の優位は変わっていない。状況を整理してみれば、そのはずだった。だがそれなのになぜだろう。安心できないのだ。


 なぜ少年は、権能に支配された場で動けるのか。

 なぜ少年は、何度となく暗愁卿(あんしゅうきょう)へ立ち向かってこられるのか。

 目の前で愛する者たちを奪われ、絶望を与えてやったというのに。

 くじけない勇気と戦意は、どこから湧いて出てくるというのだろう。


 どう足掻いても諦めようとしない、厄介極まる存在だ。


「……!」


 思わず、自分の足が後退ってしまっていたことに、暗愁卿(あんしゅうきょう)は気が付いた。


 自分は今、震えている少年から、無意識に逃げようと?

 そう考えてしまったとでも言うのか。

 だとしたらあまりにも不甲斐ない。

 自らの臆病に腹が立ってしまう。


 悔しくて、思わず歯噛みしている暗愁卿(あんしゅうきょう)

 そのすぐ傍で、さらなる信じられない出来事が発生する。


「こんな……こんなバカな!」


 思わず口にして、取り乱してしまいそうになる。


 今しがた刺し殺した、人の王の少女。

 それが、身を起こしたのだ。


「なぜだ……たしかに心臓を貫き、殺した手応えがあった……! なぜ起き上がれる!」


 人の王だけではない。腹を突き刺し殺した、護衛の機人(エルフ)の少女まで、ゆっくりと起き上がってくるではないか。2人とも、自身の身になにが起きているのか理解できていない様子で、出血して痛む傷口を見下ろしていた。理解不能なのは、暗愁卿(あんしゅうきょう)も同じである。


「…………私、生きて……るの……?」


 刺された腹部に残る、強烈な痛み。それはそのままだ。

 だがリーゼは息を吹き返し、苦痛に表情を歪める。

 そうしながらも、何とかアデルを見やり、声をかけた。


「アデル……無事……?」


 尋ねられたアデルも、いまだ血を流している胸部の傷口を手で押さえながら、痛みに耐えている。たどたどしい口調だが、リーゼへ微笑み返した。


「そのようです……とても、胸が痛いままですが……!」


 心臓を貫かれ、絶命したはずのアデル。

 だが死の淵から蘇って見せている。


「どうやら、私の心臓は破壊されています。即死だったはずです。けれど、何でしょう……。今は、何か得体の知れない、冷たい血液が全身に流れている感覚があります……」


「それ、私もだよ。どういうことなの、冷たいこの感触……」


 アデルとリーゼが話していることは、暗愁卿(あんしゅうきょう)には意味不明である。


 確かなことは、これが常識的に考えて起こり得ないということだけだ。致命傷を受けて死んだはずの者が蘇るなど、奇跡と呼ぶことさえおこがましい。完全に、自然の摂理に反した出来事でしかない。この場で何かが。途方もない運命が、致命的に狂い始めている。そうとしか思えない。


 暗愁卿(あんしゅうきょう)の視界の端々に、何かが(ひらめ)めいているのを見つける。


「……なんだ?」


 周囲一面に、赤い“光の粒子”が漂い始めていることに気が付いた――――。


 その粒子の発生源は、周囲に転がる無数の死体である。戦死した親衛隊たち。それに、先程まで死亡状態にあった、アデルとリーゼの身体。その傷口から光の粒子が漏れ漂っており、それがケーブルのような線に束ねられて、ケイの持つ赤剣の柄に接続されていた。死者たちから漂い出る光を、剣が集めている。その集めた光によって、剣身が輝きを発している。傍から見れば、そのように見えた。


「まさか、この光のケーブルは……剣のエネルギーの供給ラインなのか!?」


 暗愁卿(あんしゅうきょう)はその光景を見て、理解する。


「では、その赤剣が力を発揮するために必要な原動力は、使い手の死だけではなく、“他者の死”であっても利用できるというのか!? 」


 推察を投げかけられたケイは、冷ややかな眼差しで答えた。


「……不思議だよ。剣が頭の中に語りかけて、教えてくれている」


 見下ろした赤剣は音すら発せず、ただケイの脳へ直接、情報を送り込んでくる。

 まるで自らのことを雄弁に語るかのように。


「死を喰らい、その死を束ね、また死を与える。それこそが原死の剣(アインセイバー)の有する“死継(しけい)”の力だ。死んだ者たちから、その死を奪い集め、それを束ねて、より強大な死へと練り上げて放つ。まだ死んだばかりの、個人情報(イデア)が残っている肉体(ハードウェア)から死を奪えば、その者は“無死状態”になるそうだ。つまりアデルとリーゼは、剣が死を奪い続けている限り、()()()()()もう死ねない」


 話を聞いていたリーゼが、驚嘆する。


「それってまるで、以前のアデルが持っていた、無死の力と同じなの……?!」


「ではこれが、今までケイが体験してきた、無死状態なのですか」


 かつてはアデル自身が持っていた異能であっても、それを実際に体験するのは、初めてのことだった。初体験という意味でなら、それはアデルだけでなく、リーゼも同じである。2人共、自身の身に起きている非常識な出来事に驚き、ただただ目を(しばたた)かせていた。


 暗愁卿(あんしゅうきょう)は、呻いてしまう。


「ふざけおって……こんな力があってたまるか! 剣の所持者以外をも、死なない状態にできる力まであるだと!? 誰も彼も構わず、不死身にできるとでも言うのか!」


「みたいだな。あくまで、死んで間もないヤツ限定みたいだけど」


「戦場に死が満ちれば満ちるほど、それを喰らって強大な力を有していく魔剣……死という世界の(ことわり)を弄ぶ武器など、王冠(ケテル)の力も同然! いいや、それ以上だ! いったい何なのだ、その剣は! まるで――――」


 言いながら暗愁卿(あんしゅうきょう)は、ハッと息を呑み込む。


「まさか……! では、それがわかっていたからこそ、わざと四条院は貴様を吾輩にぶつけて、亡き者にしようと……!」


 全てのカラクリに気が付き、愕然としている暗愁卿(あんしゅうきょう)

 その隙を見て、ケイはアデルへ視線を投げかける。

 ケイの意図を黙って察し、アデルはよろめく足取りで、その場に立ち上がった。


 破壊された心臓の痛みに歯を食いしばりながら、アデルは集中力を振り絞る。そうして、暗愁卿(あんしゅうきょう)の権能の力にしがみつくような思いで、必死でそれを封じ込めようとし始めた。アデルの踏ん張りのおかげで、ケイの胸中からは、見る見る間に恐怖が掻き消えていく。


「ケイ……これで戦えますか……?」


「ありがとう、アデル。すぐに終わらせて治療してもらうから、少しだけ我慢していてくれ」


 王冠(ケテル)の権能が弱まったことで、剣を握る手に力が戻ってくる。

 アデルが生み出してくれた好機に感謝し、ケイは不敵に笑んだ。


「これでようやく五分だな! 決着をつけよう、企業国王(ドミネーター)!」


 ケイは暗愁卿(あんしゅうきょう)をめがけて、駆け出した。




 ◇◇◇




 輝く赤剣を手に、接近してくるケイ。

 予期せぬ反撃が始まり、暗愁卿(あんしゅうきょう)は舌を巻いた。

 考え込むのを一時中断し、今は目の前の殺し合いに専念する。


「吾輩の権能の力を、(あなど)るなよ、小童(こわっぱ)!」


 言いながら、魔槍を床に突き立てる。

 すると矛先を中心に――――床が泥のように溶け始める。


「!?」


 暗愁卿(あんしゅうきょう)の足下から広がる、床の溶解現象。泥土のようになった足下に動きを絡め取られ、ケイの動きが鈍重化する。


「くっ! 床の強度が(もろ)く……!?」


「言ったであろう! 吾輩の権能は“衰弱”! 弱体化できるのは人間心理だけではない!」


 両脚を絡め取られたケイに、今度は暗愁卿(あんしゅうきょう)の方から飛びかかる。振り上げた槍の矛先を、叩きつけるようにケイの頭上から振り下ろした。それを赤剣で受け止めたケイは、ぬかに打ち付けられた釘のように、膝下まで床に埋まってしまう。


 中途半端にケイを殺せば、無死状態にしかねない。ならば頭を斬り落とすことで、無力化できるのではないか。暗愁卿(あんしゅうきょう)の狙いはそれだった。


「その首、いただくぞ!」


 暗愁卿(あんしゅうきょう)は、遠い間合いからの横薙ぎを繰り出す。槍のリーチの長さを利用し、ケイの反撃が届かない位置から、鋭いは一撃を放った。矛先は容赦なく、ケイの首を跳ね飛ばす軌道で迫り来る。


 それを――――ケイは避けない。


「!?」


 正確には、少しだけ身を逸らした。矛先はケイの頭部を切断することはできず、代わりに喉を深々と切り裂いて、傷口から鮮血を吹き出させた。頭を斬り落とされはしなかったが、十分に致命傷である。だがケイは不敵に笑んで、傷口を瞬く間に再生させて見せた。


「再生能力頼みの受け身……人の戦い方ではないな! もはや獣か!」


 槍を振り抜いたことで、暗愁卿(あんしゅうきょう)の動きに(わず)かな隙が生まれる。ケイは、大きな動きで攻撃を避けなかったことで、そのタイミングで反撃に転じる機会を得た。床に脚が沈んでいるため、追撃はできない。まずはそこから脱出するべく、ケイは赤剣を床に突き立てた。


「お返しだ!」


 原死の剣(アインセイバー)は、床材に死をもたらす。

 泥土と化していた床は固形化し、ひび割れ、砕け散った。

 企業国王(ドミネーター)の邸宅の、床が抜けたのである。


「きゃあああ!」


「アデル、こっちへ!」


 床の崩落に巻き込まれそうになったアデルを、リーゼが(かば)う。そうして何とか、事なきを得た。一方、ケイと暗愁卿(あんしゅうきょう)は、無数の巨岩の瓦礫と化した床材と共に、下層へと落下していく。崩落していく瓦礫を足場にしながら、2人は落下中にも、何度となく斬り結んだ。


 79層。


 貴族たちの館が点在する階層だ。

 緑の柴が広がる広大な庭園の上に、2人は降り立った。


 暗愁卿(あんしゅうきょう)と刃を交え、避けきれなかった一撃がケイの左肩を深々と切り裂いていた。流血と共に、赤黒い肉の断面が覗く傷口を、ケイは苦悶の表情で再生させていた。暗愁卿(あんしゅうきょう)は、ケイの攻撃によって生じた、無数のかすり傷の痛みに苛立つ。


「吾輩に痛みを与えるとは……つくづく許せぬ、無礼な小僧だ!」


「こっちはさっき、首を斬られたばかりだ。それくらいのかすり傷で喚くなよ」


「フン。人狼血族(ウルフブラッド)のような再生能力を有した身体のようだが、奴等の再生能力とて無尽蔵ではない。貴様はすでに、かなりの体力を消耗しているはずだ。散々、吾輩は貴様の治癒力を活性化させてやっていたのだからな。実際のところ、その肩の傷は、ずいぶんと治りが遅くなっているように見えるが?」


「……」


 弱点は、見抜かれているようだった。

 敢えて肯定することはせず、ケイは黙り込んでしまう。

 息切れしかけているのが気付かれないように、ただ睨みを利かせる。


 受けたダメージが大きいほど。治す傷が酷いほど。その再生には体力を消耗するようだった。さっきの首への一撃は、気合いで何とか高速再生できたが、もう同じ事はできないだろう。だいぶ疲れてきているのは、自分でもわかっている。以前にダリウスのテロを止めるべく、ベルディエの街へ潜入した時のように。走れなくなるほどに疲弊してしまうのは、もはや時間の問題だ。そうばればもう、戦ってなどいられない。


 長引かせることはできない。


「……!」


 急激に、ケイの左肩が重くなるのを感じた。見れば、槍に傷つけられた肩口が、ミイラのように干からび始めている。まるで力がどこかへ漏れ出ていってしまうような感覚だ。ケイは再生能力を最大限に駆使し、左腕が枯れていくのを凌ぎ始めた。


「これは……始祖が脚に受けていた怪我と同じか……!」


「吾輩の槍の効力を有効化すれば、傷つけたモノに“衰弱”を与えることができる。その左腕を維持しようとすれば、再生を続けるしかない。なら、よりいっそうに体力を消耗するしかなかろう?」


 燃料タンクに穴が開けられた車のように、ケイの体は、凄まじい速度でエネルギーを消耗し始める。それによって萎縮(いしゅく)したケイの勢いを見逃さず、暗愁卿(あんしゅうきょう)は畳みかけるように、槍の連撃を見舞ってきた。突き、突き、薙ぎ払い。ケイは剣でその攻撃を受け流すが、その衝撃が、いちいち弱った左腕へ響いてくる。


「ハハハハハ! どこまで持つかな!」


 攻撃に翻弄(ほんろう)された挙げ句、ケイは暗愁卿(あんしゅうきょう)に横顔を殴りつけられ、吹き飛ばされた。近隣に生えていた大樹に、背中から叩きつけられると、その衝突力で、太い幹が砕き折れる。その場で吐血して(ひざまず)くケイは、もはや全身血まみれで、ボロボロの姿になっていた。


 暗愁卿(あんしゅうきょう)はトドメを刺すべく、ゆっくりとケイの傍へ歩み寄ってくる。

 そうしながら、自身の身体に刻まれた細かい裂傷の数々を見下ろし、確信していた。


「やはり貴様の剣は……遅効装甲(コラプサーシールド)さえ切り裂く力を持っていると見える。その力は、吾輩以外の企業国王(ドミネーター)にとっても驚異となる。ここで確実に葬っておく以外に道はあるまい」


 槍の間合いにケイが入ると、そこで立ち止まった。

 改めてマジマジと、暗愁卿(あんしゅうきょう)は尋ねてくる。


「しかし、まるでわからん小僧よ。人の王と言い。貴様と言い。その強大な力を、自分のためにだけ使っていれば……あるいは吾輩たちの目から逃れて生き延び、こうして命を落とすこともなかっただろう。なのに身を賭してまで、帝国や企業国王(ドミネーター)に立ち向かってきている。そんなことをして、何の利益が得られると言うのだ。いったい貴様たちは、そうまでして何のために戦っている?」


 よろける足取りで、ケイはその場に立ち上がる。

 もう体力の限界は、とっくにきている。

 それでも動けるのは、もはや気合いと根性でしかないだろう。


 ケイは、血濡れた身体を引きずるようにして、剣の先を暗愁卿(あんしゅうきょう)へ向けた。そうしてクツクツと、低く笑ってしまう。言うべき答えなら、決まっていたからだ。


「――――()()()()()に決まってるだろ」


「……企業国王(ドミネーター)に挑んでいるのだぞ。この自殺行為のどこが、自分のためになっているというのだ」


「お前たちが、金や権力のことを、守るべき大切なモノだと考えているのと理屈は同じだろう。オレにとっては、それが自分以外の他人だったってだけだ。()いてクサい言い方をすれば、()()()()()()()だよ」


 暗愁卿(あんしゅうきょう)は、それを鼻で笑う。


「何を言うかと思えば……。愛などという、くだらん個人の執着を理由に、戦いを挑まれていたとは。片腹が痛くて、笑えもしない」


「たしかにな。お前みたいに、自分の欲望を叶えるためだけに生きてきた、孤独な王様からすれば、そう思うのは当然かもしれない。誰かのために何かしたいなんて、今まで、そんな想いを抱いたこともないんだろう。なら、オレのこの気持ちは、理解することなんてできないだろうさ」


 ケイの方こそ、暗愁卿(あんしゅうきょう)のことを鼻で笑って見せる。


「大切に想っていた人を、失った時の痛みや苦しみを、よく知っているんだ。だからこそ、今この時に、(そば)にいてくれる人たちのことを、かけがえがないと感じるんだよ。その人たちが消えないで欲しい。傷つかないで欲しい。そう願うから、いつだって、何にだって立ち向かっていける」


 赤剣を構え、ケイは力強く宣言した。


「オレは――――望む明日のために、戦ってるんだ!」


 原死の剣(アインセイバー)が、強烈な赤い光を放ち始める。


 全身にのしかかってくる、冷たい重力のようなプレッシャー。それが暗愁卿(あんしゅうきょう)の背筋を粟立(あわだ)たせ、咄嗟(とっさ)に魔槍を構え直させる。


「クッ! まだこれほどの重圧を放てる余力が!?」


「いいや! お前が推察している通り、オレに余力なんてほとんど残ってない! だからこれ以上はもう、余計な小細工は無しだ! 今あるオレのありったけを、正面から叩き込んでやる!」


 赤剣の光は、目が眩むほどの輝きに膨れ上がっていく。強化魔術(アシストスキル)によって、限界まで身体能力を高めたケイの手足からは、青白い火花が(ほとばし)っていた。居合いのように剣を構え、今にも斬りかかってきそうな殺気を放つ。


 この一撃で全てを終わらせるつもりである――――。


 暗愁卿(あんしゅうきょう)は、それを確信した。


「良いだろう! その力比べ! 吾輩も全力で応えてやる!」


 頭上の王冠(ケテル)から強烈な光を放ち、暗愁卿(あんしゅうきょう)も魔槍を構える。突撃の姿勢で、すぐにでも突きを放てる体勢に入った。


 星空の下で、太陽のように輝く2つの赤い光。

 それは目にも止まらぬ速度で交わり、直後に、凄まじい衝撃波を階層全土へ広げた。


「死ねええええええええええええええ!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 衝突した2人の刃。接触面から、赤い光の粒子が溢れ、そこを起点に同心円状の大量破壊を引き起こす。互いに咆吼(ほうこう)をあげながら、自身の武器の力を最大限に解放する。もはや両者の間に理屈など介在しない。あるのは強烈な殺意と、獣同然の野蛮な力のぶつけ合いだけである。


 しばらく拮抗した押し合い。

 その末に変化が生じたのは、赤い魔槍の方である。


 ケイの赤剣の刃が、魔槍の刃に――――食い込み始めた。


「そんな……バカなあああ!!」


「終わりだあああああああああああああ!!」


 原死の剣(アインセイバー)は、ついには暗愁卿(あんしゅうきょう)の魔槍にすら死をもたらし、切断して見せる。剣の切っ先は、とうとう企業国王(ドミネーター)の肩口へ届いた。





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