8-27 東京自衛隊第十戦車中隊
東京の食糧備蓄が、予定よりも早くなくなるという噂。
それはすでに、都内全土へ広がっている。
東京暫定政府が、隣国の都市へ送り込んだと言う、若い外交使節団。
唯一の望みである彼等の足取りも途絶え、その後、続報は何も報道されていない。
人々が不安になり、疑心暗鬼になるのは必然だった。
自衛隊の配給所で、人々が食糧を盗んだり、奪い合う光景が散見されるようになった。公衆の面前で、臆面もなく缶詰を取り合う夫婦を見やりながら、レイヴンは自衛隊から、配給の握り飯を受け取った。それにかぶりつきながら、溜息を漏らした。
「結局、腹が空けば、人間ってのはこうなるんだよな……」
落胆するような思いだった。
死者の軍団から東京を救った英雄。最初こそ、都民たちは、雨宮ケイのことをそう呼んで崇めていたではないか。生存者たちを救うべく、大人の守護もなく、たった数名で未踏の世界へ助けを求めて旅立った少年少女たち。そんな勇気ある彼等のことを信じ、ここで生き延びながら待つことを選んだはすだったのだ。
だがどうだ。
待つことなど、すでに諦めつつある。
外交の旅が、失敗したのだと考え、他人から物資を奪って保身に走る者たちが現れ出したのだ。もしかしたら、もう誰も、外交使節団が東京を救うなどという絵空事を、信じていないのかもしれない。
レイヴンは、配給所から市街地へ向かう。
いまだ片付けられず、路上で腐り、悪臭を放っている死体を遠巻きにしながら、レイヴンは雨宮家に辿り着いた。引き戸を開けて、靴を脱いで上がり込む。
居間には、畳の上に座って茶を啜っている老人がいた。
雨宮ゲンゾウ。ケイの祖父である。
その老人に、レイヴンは貰ってきた配給の弁当を手渡した。
「ほらよ、爺さん。もらってきてやったぜ」
「いつも悪いな、レイヴン」
「足腰が悪いんだろ? 気にすんなって。転移門の修理も終わって、どうせやることなくて暇だったしな。あとは雨宮少年たちが、どこぞの都市と接続してくれるのを待ってるだけの日々さ」
言いながらレイヴンは、畳の上にゴロ寝する。
ゲンゾウは、配給の弁当箱を開けて、箸を付け始めた。東京の電力供給は、冷え込む夜だけに限定されているため、電子レンジも使えない。冷めたまま、それを食べるしかないのだ。
「……雨宮少年たちが旅立ってから、そろそろ期限の3週間か」
レイヴンは天井を見つめながら、ぼやくように言った。
「定期的に、ジェシカが妹のエマちゃんに送ってきていた、EDENを介した姉妹通信とやらも止まってるらしい。何かあったんだろうな。まあ、元より白石塔の下民が、アークの都市と同盟関係を結ぼうなんて、無茶な話しだったんだろう」
「なんじゃ、レイヴン。諦めておるのか?」
ゲンゾウから意外そうに尋ねられる。
起き上がり、レイヴンは窓辺の柱に寄りかかって、庭を見やった。
そうして、冷めた顔をして続けた。
「雨宮少年も、イリアさんも。アイツ等はみんなまだ若い。だからだろう、人間の善性なんてものを信じてやがる。人間ってものの本質が、まるでわかっちゃいないからだ。人間は狡猾で、残忍で、簡単に人を裏切る。……この世に、信用できる他人なんてものはいないのさ」
「その口ぶりじゃあ、過去に手ひどく、裏切られたことでもあるようだ」
「……まあな」
イヤなことを思い出しそうになる。
苦い気持ちをすり潰すように、レイヴンは歯を食いしばった。
「アークの市民たちは、どいつもこいつもクソッタレだ。貴族に見下されて苦しんでいるくせに、自分たちだって、代わりに下民を見下して溜飲を下げてやがる。そんなアークの市民たちが、この東京を助けてくれるなんて思えない。いくら金を積まれたところで、最後は保身に走るに決まってる。他人のために帝国へ立ち向かおうなんて気概があるヤツはいないさ。雨宮少年たちの旅は、きっと失敗する」
「ならどうして、この東京に見切りをつけて、さっさと出て行こうとしない」
「……」
「お前さん1人だけで遠くへ逃げるなら、簡単じゃろ。よく知らんが、空も飛べるんじゃろ」
相変わらず、鋭いことを聞いてくる老人である。
「お前さんはたしかに、アークの市民たちを信じちゃいないんだろう。けれど、ケイたちのことは、信じたいと思っているんじゃないのか?」
心底から信じられないのなら、もうとっくに投げ出している。まだ可能性が残っているから、都民たちだって、自棄へ陥らずに済んでいるのだ。いつだって。誰だって。未来に希望があるのだと、信じたがっている。だからレイヴンも、まだ見届けようと、ここへ残っているのだ。ゲンゾウの言うことは、正しかった。
だが、それを素直に認めるのは癪だった。
レイヴンは黙り込む。
「ワシから見れば、お前さんだって十分に若造だ。お前さんもまだ、人間の本質なんてもんはわかっておらんよ。人は皆、互いを信じたがっている。自分が善人でありたいのだと願っている。実際に、その通りでいられるかは、別にしての」
「孫と同じで、イヤな爺さんだ」
「いい歳して、ひねくれてるお前さんよりはマシだわい」
「……フフ。言えてるぜ」
ゲンゾウの皮肉に、レイヴンは笑ってしまう。
玄関の引き戸が、勢いよく開けられる音がした。
ドタドタと、慌ただしい足音が廊下を駆け、居間へ訪れる。
姿を見せたのは、息を切らせた赤髪の少女だ。
ボブカットにメガネ。
普段は大人しそうな表情を、険しくさせている。
「レイヴンさん!」
「どうしたんだ、エマ」
ただならぬ少女の態度に、レイヴンはその場で立ち上がる。
エマはレイヴンに抱きついて、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「連絡が来ました! お姉ちゃんからです!」
◇◇◇
地下神殿の天井は、剣聖の一撃によって吹き飛ばされた。吹き抜けの向こうに広がる空は、雷を孕んだ雨雲で覆われていて、そこから降り注ぐ雨が、人狼血族の女子供の体毛を濡らした。
冷たい雨の中、ケイと始祖は、剣聖と対峙している。
その後方に匿われた人狼血族たちは、互いに身を寄せ合って震えている。
峰打ちで叩き飛ばされ、悶絶していたジェイドが、ようやく体勢を整え直す。ケイたちに加勢しようと身構えるが、見上げた吹き抜けの天井の端々から、奴隷の兵士たちが、飛び降りてくる姿を目撃する。
「まずい! 剣聖野郎がぶっ壊した場所から、奴隷兵たちが入ってきやがる!」
先ほど、サイラスが派手に暴れて、天井の部材を空高くまで吹き飛ばしたばかりなのだ。外から見れば、いきなり地面が隆起して、火山噴火したかのように見えたことだろう。そんな激しい異変を、ジャングル中に散開している奴隷兵たちが、気付かないはずなどなかった。
「こんなところに、獣人どもが隠れていたぞ!」
「剣聖様が見つけたんだ! 大量得点のチャンスだ!」
「おい、全員こっちに来い! 殺せ!」
銃を携えた奴隷兵たちと共に、空には、実況中継のために偵察無人機も集まってくる。突撃自動小銃を構えながら前進してくる、奴隷兵の大軍。その数は多すぎて、たとえジェイド1人が身体を張って盾になったところで、全員は守れない。
「この数、防ぎきれねえ……!」
奴隷たちの銃身から炎が吐き出されるのを、ジェイドは絶望の思いで凝視する。
だが、少女の声が呪文を唱えた。
「――――炎熱の壁!」
獣人たちと奴隷たちとの狭間に、燃えさかる炎の壁が生じた。高熱の白い炎は眩く、飛来する銃弾を、瞬時に溶解させて消滅させた。
「なんだぁ!? 魔術の障壁!?」
「気をつけろ、魔術を使うヤツが敵に紛れてるぞ!」
困惑する奴隷兵たち。
ジェイドは感謝の思いと共に、その魔術の使い手を見やった。
「助かったぜ、チビガキ!」
「チビガキじゃない! アタシはジェシカよ!」
サイラスに打ち据えられた脇腹を苦しげに押さえながらも、ジェシカは杖を構え、不敵に笑んで答えた。強がっているのだろう。足取りはよろめいており、ダメージが大きかったことを露呈させている。祭壇の近くにあった巨大なリングのオブジェクトに背を預け、なんとかその場で立っている様子だ。
守るだけで精一杯。
そんなジェシカの近くで、よろめくように立ち上がる機人の少女がいた。弓を構える、リーゼだ。唇の端から血を流しながら、痛みに歯を食いしばって、ツルに光の矢をつがえる。そうして、愛用している魔弓の名を叫んだ。
「フェイルノード!」
1度の射出で、複数の光の矢が放たれる。
光の雨のように、矢は奴隷兵たちの前衛に突き刺さり、射貫かれた者を戦闘不能にする。
リーゼは、ジェイドへ向かって声を張り上げた。
「避難者の防衛は、私とジェシカに任せて! あなたはケイを助けてあげて!」
「……!」
人間のケイを、助けろと言う機人。
その願いを素直に聞くことは、本来ならば不本意だ。
だが、炎の壁に守られている、愛しい白衣の少女と、義弟の姿を見れば、そんなことは言っていられない。かけがえのない者たちを守るために、ジェイドは憎々しげにしながらも、返事をするしかない。
「うるせえ! 言われなくてもわかってらあ!」
なりふり構わず、ジェイドは駆け出した。
ケイと始祖の戦線に加わるべく、奴隷兵たちの戦列を掻き分けるように蹴散らしていく。
「!」
しかし、いきなり目の前に飛び出してきた小さな人影に阻まれる。ジェイドは横っ面を蹴られた。重みはないが、鋭い蹴りだ。十分に速度が乗っていたため、まともに受けていれば、首の骨を綺麗に外されていただろう。咄嗟に上体を反らしたことで、直撃を避けることに成功する。
「ちぃっ!」
立ちはだかる奴隷の少女から、ジェイドは距離をあける。
「……今のはヤバかった。誰だ、テメエ!」
「首、折れなかった。お前、強いな!」
赤髪の奴隷の少女は、ニヤニヤ微笑みながらジェイドと相対する。全身に返り血を浴びた姿であり、ここへ来るまでに、何人もの人狼血族を殺してきたのは明白である。
「うそ! ミーナ?!」
弓で奴隷兵たちに応戦しながら、少女を横目にしたリーゼが声を上げる。
「リーゼ、獣人たちに寝返った? なら敵。また戦える!」
「クソが! なんだ、このガキ奴隷は!」
ミーナは、ジェイドへ肉薄して格闘戦を仕掛けてきた。人狼血族よりも遙かに小柄で非力な少女であるはずなのに、ガードに使った腕が痛くなる。どうやら力がないぶん、急所や関節を狙い澄ました、素早い打撃を繰り出してきている。速度だけなら、人狼血族に匹敵する相手である。
リーゼは光の矢を放ち、ジェイドを攻め込んでいるミーナを牽制する。そうしてジェイドを、遠方から援護しながら言った。
「その子は強い! 気をつけて!」
「あは、面白い!」
ジェイドとミーナが格闘戦を繰り広げていると、周囲から狼の咆吼が聞こえてくる。奴隷兵たち同様に、森の中で散り散りになっていた人狼血族たちも集まってきたのだ。崩壊した地下神殿の天井から飛び降りてきて、奴隷兵たちを蹴散らし始める。
「族長たちか!」
「ジェイド! 我々も加勢するぞ!」
「全員、子供たちを守れ!」
他の集落の族長たちと、それが率いる人狼血族の戦士たちである。避難者たちを守るように円陣を作り、銃弾を撃ち込んでくる奴隷兵たちとの殺し合いを始めた。
大乱戦と化した阿鼻叫喚の戦場を見渡し、剣聖サイラスは、苦笑して言った。
「……騒がしくなってきた。だが戦場とは本来、賑やかなものだ。ようやく、らしくなってきたとも言える」
周りで繰り広げられる、人と獣の激しい戦闘など眼中になく。
剣聖の視線は、ただ相対するケイと、始祖へ向けられていた。
刀を手に、ただならぬ重圧を放って近づいてくる敵に、始祖は冷や汗をかく。
相手を凝視したまま、始祖は隣のケイへ語りかけてきた。
「……アマミヤ殿の作戦は、伝令係から聞いた。逃げ回り続けていれば、やがて大会は終わる。犠牲を最小限に抑えた、巧妙な策だと思ったとも。しかし……こうなってくると、事情が変わってしまった」
「……」
始祖の言わんとすることに、ケイは察しがついている。
顔色を悪くしながら、ケイも剣聖を睨みつつ応えた。
「わかっています。大会終了まで隠しておきたかった、女性や子供たちの居所が発見されてしまったんです。そこへ、こうして攻め込まれた。なら、もう逃げ回ってなんていられない」
「人も、人狼血族も。そのうちに皆、ここへ集まってくる。ここは“決戦地”となったのだ。もはや、どちらかが潰えるまで殺し合うしかない」
「剣聖は、こうなることを計算してやったのか? なら、してやられた……!」
もはや作戦は台無しである。
剣聖が、この場を派手に破壊したことで、周囲の注目を一斉に浴びてしまった。
必然的に、敵も味方も、ここへ大挙してやってくるだろう。
この効果を狙ってやったのだとしたら、完全に、剣聖の作戦勝ちである。
戦闘能力だけでなく、戦況を読む目も、その知略も、一級のようだ。
化け物と呼ぶに相応しい。
「アマミヤ殿」
改まった口調で、始祖が語りかけてきた。
「君は自分だけでも逃げることができたのに、我々の力になるべく、戻ってきてくれた。何の見返りも求めず、我々のかけがえのない者たちを守るために、その力を貸してくれている。あのような強敵にさえも、臆せず立ち向かってくれた。人並み外れた“勇気”だ」
言いながら、始祖は自らの窶れた右脚を――――自らの剛腕で引きちぎった。
傷口から鮮血が吹き出すのを見て、激痛に歯を食いしばる。
「始祖! なにを!」
「まことに頭が下がる思いだよ。君やジェシカ殿のような、新たな価値観を持つ若者たちが現れたことを、ワシは心底から嬉しく思う。だからこそ、そんな君たちをここで死なせるわけにはいかない。君たちこそが、このアークの未来なのだ」
始祖の傷口から、新たな右脚が生え出た。再生能力による、肉体修復だ。再生したばかりの脚は、まだ窶れておらず、瑞々しい筋肉をまとった剛脚である。
「企業国王の呪いによって、すぐにまた、この右脚は枯れてしまう。だが再生して間もなくなら、全盛の頃の力を発揮できる。傷を塞ぐのではなく、失った四肢を急速に、しかも丸ごと修復するのは、かなりの消耗だ。何度もできることではないが、この一時の戦いに、ワシの全てを賭けよう」
苦しげに、脂汗を額に滲ませながら、始祖は微笑んで見せた。
「――――人間と共に戦えることを、誇りに思う」
咆吼を上げ、始祖はサイラスに向かって飛びかかる。剛脚の加速は凄まじく、蹴られた地面からは破裂したような音が生じ、土砂が巻き上がる。始祖は、ケイやジェイドよりも速い。
始祖の繰り出したツメの一撃を、サイラスは刀で受け止める。だが先ほどまで、ケイたちの攻撃を軽々しく受け流していた時とは様子が違う。刃から肩へ抜けていく、痺れるような重撃。それによって、サイラスの身体は後方へ押しやられた。
「……ほお」
始祖の一撃を受け止めながら、サイラスは嬉しそうに微笑んだ。
「命を賭けた一撃には、その者の背負う業が乗るものだ。すなわち一撃によって、その者の生き様の全てが語られる。獣にしては気迫のある一撃。雨宮ケイたちよりも、どうやら多くを背負っている者のようだな」
「強き人よ! 老いぼれたとは言え! 始祖たる獣の壁、容易くないぞ!」
「おもしろい」
剣聖と始祖。
その戦いに参戦しようにも、両者は次元の違う攻防を繰り広げている。
速さでも。力でも。今のケイでは及ばない領域の戦いになっていた。
迂闊に飛び込めば、かえって始祖の足手まといになりかねない。
「飛び込めない……なんてレベルの戦いだ……!」
2人の一挙手一投足に連動して、大気が揺れる。刀を振れば風圧が生じ、ツメを振るえば、触れてもいない壁が裂ける。周囲の空気が暴風のように乱れ、その余波に巻き込まれて、バラバラに引き裂かれる奴隷兵の犠牲者が出るほどだ。周囲の環境が乱れるほどの接近戦など、ケイはこれまでに見たことがない。非常識な光景である。
両者の表情を見る限り、優勢なのは剣聖の方だ。右脚に無理をさせている始祖の顔色は悪いが、対して剣聖は、呼吸1つ乱していない。始祖の猛攻を凌いでいるが、どこかに余裕を感じさせる動きだった。まるで、まだ本気を出していないような態度である。
「このままじゃ分が悪い。なんとか、始祖を援護しないと……!」
剣聖を援護するべく、始祖に向かって銃を乱射する奴隷兵たちがいた。外野が放つ銃弾を、ケイは右腕の異能で受け止め、投げ返す。そうして戦いの邪魔が入らないように援護する程度のことしか、今のケイにはできない。
「敵が集まりすぎている! せめて多すぎる外野の攻撃をなんとかできれば……!」
「ケイ!」
ふと、呼びかけてくる声に気付く。
AIVによるローカル通話だ。遠い後方で、ジェシカがケイを呼んでいる。
困っている様子のケイへ、ジェシカが不敵に笑んで見せた。
「さっきは剣聖に襲撃されて、言いそびれちゃったけどね!」
ジェシカは自分の傍らにある、巨大なリング状の遺物に手を触れている。祭壇の後ろにあった、この遺跡に放置されていたオブジェクトだ。ジェシカが触れている部分を起点に、なにやら青く発光を始めている。羽音のような起動音を生じさせ、リングの中央に眩い白色の光が溢れ始めた。
戦場に生じた異変。
奴隷兵たちも、獣人たちも、その眩い輝きに目を奪われ、息を呑んだ。
「なんだ!? あの光る輪っかは!」
「まさか、獣人どもの兵器か!?」
口々に不安の声を漏らす奴隷兵たちに構わず、ジェシカは胸を張って天を指さす。
「やっぱアタシって天才! なんとか動かしてやったわ! このリング、遺跡に放棄されてた“転移門”だったのよ!」
白色の光が、リングの中に満ちたと思った直後である。
光の壁の中から――――“戦車”が現れた。
1輛だけではない。2輛。3輛と。光の中から次々に戦車が現れ、奴隷兵たちと、人狼血族の女子供の間に割り込むよう、一列に展開する。それは車体を弾除けに用いた、防御壁である。
ケイは表情を歓喜させ、予期せず現れた頼もしい援軍の名を呼んだ。
「自衛隊!」
戦車のハッチから上半身を露出させた指揮官が、ケイに向かって敬礼する。それは以前、東京で上級魔導兵との戦闘を繰り広げた際、共闘してくれた自衛隊の小隊長だった。
周囲の戦況を見渡し、奴隷兵たちを指さす。
隊長は無線機に向かって、声を張り上げて命じた。
「各班通達! 雨宮殿が加勢している、友軍の獣人たちを援護せよ!」
2021年も最終日。皆様、良いお年をお迎えください。
年明け土日は、特別に連載予定です。