あなた色
名無しのAのこれから作る作品は
■あなた色
■あなたの隣で
■春
です。
~http://お題.com~
待ち合わせ場所にやってきたヒカルを見て、アカネは心の中でつぶやいた。
やっぱり。
ヒカルと待ち合わせをするのはこれで三回目だが、彼女は必ず薄い桃色の服を着てくるのだ。最初の時は一月で桃色のロングコート。二回目が三月で桃色のカーディガン。そして今回は七月で、ヒカルは桃色のワンピース。
ふふん。アカネは得意げに笑ってヒカルに手を振る。
きっと桃色で来るだろうと思っていたから、アカネは薄いグリーンのスカートをはいてきたのだ。並んで歩けば涼やかだろう。
「あれ、今日はスカートなんだ? いいね」
「そうだよ。ヒカルのワンピもよく似合ってる」
駅前でにっこり笑いあうと、二人は予約していたカフェに向かう。
「ヒカルは、桃色、すきだよね」
「うん。桃色っていうか、春が好きでさ。薄いピンクをみると春を連想してつい買っちゃうの」
「あ、さくら?」
「そう」
ふうん、と相槌を打ちながら、歩道脇の街路樹を横目で見上げる。
駅からまっすぐ伸びるこの通りは広く、春には花見でにぎわう。
市の中心にある公園が江戸時代から花見の名所だそうで、そのために街路樹にも桜が多い。
アカネは就職のためにこの市に越してきたが、ヒカルは地元の生まれだ。
春は桜を見て育ってきたから、桜の色が好きなのだろうか。
「そういえば、ヒカルと花見しなかったね」
「ああ、そうだね」
この関係は何なのだろう。
アカネは何度か考えた疑問を今日も思う。
出会ったのは昨年の冬。年末に他県の実家に帰省するために乗ろうとしたバスの停留所で、財布を落としたヒカルをアカネが呼び止めた。
そういえばその財布も桜色だった。いいと断ったのにお礼がしたいとヒカルが頭まで下げるので、連絡先を交換し、正月明けに二人で喫茶店に行った。何となく再会を約束し、数カ月ごとに思い出したように予定のすり合わせをする。
そうだ。会社の同期と花見に行ったとき、桃色の桜を見て、ヒカルを思い出したっけ。
ヒカルにとって桃色は春の桜色だというが、アカネにとってはヒカルの色だというきがしている。まだ片手で数えられるほどしかあっていないのに。
「じゃあ、来年の桜はアカネさんと見ようか」
「いいの?」
「いいよ。アカネさんの隣は、なんだか居心地がいいの」
「わたしも、あなたの隣で桜を見てみたい」
きっとその時も、ヒカルは薄い桃色を身に纏っているのだろう。
瞬きの裏に、ひととき、その光景が見えた気がした。