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第4話 雷

「━━━━━━━━ほう、君はそんなことを願うのか。

面白い。実に、実に君の道行きが楽しみで仕方がない!

そうです、私はこの言葉を聞くためにここにやって来たのですよ!」


「うるさいなあ…こんなのが夢なんて、正直自分でも子供すぎるって思うよ。」


「いえ、いえ。あなただから良いのです!

他の者ならば嘲笑しますがね。

あ、そうでした。これを。」


悪魔は妙な金属の欠片のようなものを渡してきた。


「なんなんだよこれ?」


「そうですねえ…『忘れ形見』、とでも言っておきましょうか。まあ、戦場で使ってみてください。あなたの新しい得物になりましょうぞ。」


「意味わかんねえぞ、こんなのどうやって使えって言うんだよ。しかも俺にはちゃんと槍があるし。

あと、『忘れ形見』って。誰のだよ。」


「輝石については、その時になればわかりますよ。

誰の形見か、ですか。それはそれはそれは…」


「さっさと言えよ、気になるじゃん。」


悪魔は笑顔をキッパリと止め言った。


「それは私の元ご主人様、




━━━━━━━━━あなたの父君でございます。」


「な!?お前俺の親父のこと知ってんのか!?」


名前どころか顔も知らぬ俺の親父。興味はもちろんある。


「それはご主人様ですからね。」


驚いた俺は詳しい話を要求したが、悪魔は「それはまたの機会のお楽しみです☆」と、さっきまでの気持ちの悪い笑みで誤魔化した。





そして、現在。悪魔に送り込まれた塔型のダンジョンの最上階に今俺はいた。悪魔の説明によると、俺らは別々のダンジョンに送り込まれたらしい。

しかし、


「おい悪魔、聞こえてんだろ。死体なんて何処にもねえぞ。」


奴が片付けろと言っていた死体が見当たらない。魔物の物も、人間の物も、それらしきモノは何一つない。


「ああ、人が来る予定ほぼないですからね、そのダンジョン。あまりに放ったらかしにしていたので、白骨化しちゃったかもしれませんね~

それならもういいんですが…」


「待て、ちょっと静かにしてくれ。」


ミシ、ミシと妙な物音がしたので悪魔の言葉を遮る。


「聞いといて酷くないですか~?」


「いいから黙れ。」


「はいよ。」


音に耳を澄ますのと同時に、低く屈む。月光は雲にさえぎられているため、塔の最上階とはいえよく見えない。

こういう時に視力を強化したりできるガレスさんやエリザはいいな、と思う。エリザは魔法を使えるし、ガレスさんは錬金術?とか言っていた。

低い姿勢のまま音の方に接近していくと、全体像が見えてきた。


「なんだよこれ…デカイな…」


デカい何かが、カラカラと音を立てながら蠢いている。

動きの異常さに悪寒を感じていると、雲の隙間から月明かりが差してきた。



龍が居た。しかし、大好きな勇者の英雄譚に出てくるようなそれでは無い。

そこに居たのは、死した後も生者を恨み動き続ける竜の亡骸。

ドラゴンゾンビ━━━━━━そこに龍の威厳など無い。



「龍だと!?聞いてないぞ。そんなのが出るなんて!」


「静かにした方がよいのでは?気づかれますよ?

にしても、片付ける予定だった魔物の死体や人の死体が無かったのは、あいつの仕業だろうねぇ。」


「チッ…どうしたもんかねぇ…」


「例の輝石を使うべきでは?」


興奮した様子で聞いてきたが、


「お前のせいでこんなのと鉢合わせてんだ。お前に渡されたものなんか使えるか。」


「はぁ…嘘なんてついてないのになあ…

まあ、手遅れになる前に試して見てね☆」





様子を伺う。今は動いていない。休んでいるのか?

とにかく今が後期だろう。仕掛ける事にする。


(飛ばれたら厄介だ。先にその羽を頂くことにしよう)


槍を構え、龍の死角から飛び出す。


(悪く思うなよ!)



右翼目掛けて乱れ突きを放つ。

鱗がほとんど剥げていたせいか、弾かれることはなかった。

翼は引き裂かれ、穴だらけになった。龍が叫び声を上げる。

そして、


「グギァァァ…コロス…コロス…」


「ご丁寧に人の言葉でどうも。」


そして、龍は突然引き裂かれた右翼を噛み千切った。

翼だった場所から骨が露出している。


「正気かよ!?あ、死んでるんだったか…イカれて当然だわな。」


「コロス…コロス…」


「左翼もすぐ自分で噛み千切らせてやるよ。」


挑発に乗った龍が火を吹きながら突っ込んでくる。

左翼に近づかせないように、左翼への進路を焼いている。


─────かかったな!両方への翼などに元より興味は無い!


右翼側に向けて走り出す。目指すは露出した骨。

そこを掴み頭目がけて飛ぶ算段だ。

警戒すべきは右腕だけだろう。


────薙ぎ払いが来る!


予想して右腕を躱す。道は開けた。骨まで槍を使って跳ぶ。


────掴んだ!あとは頭まで飛ぶだけ!


骨を掴んだ勢いで一回転し、方向を修正して頭目掛けて飛ぶ。頭が近づく。


────間合いに入った!


槍をしっかりと握り、魔力を込める。

魔法を知らない俺の、たった一つの魔力の使い道。


「これで仕留め切る!

《戦技・一閃》!!」


槍の一閃が龍の頭部を貫く。なんの捻りもなくただ、速いだけ。真っ向から使えば止められるだけの技も、死角からの一撃として使えば猛威を振るう。


「さて、どうしたもんかね…」


龍は殺した、それはいい。だが貫通して地面まで槍で突っ込んでしまったせいか、先端にヒビが入ってしまった。

不意に


「ガァァァァァ!」


「な!?」


龍が起き上がり、尾を薙ぎ払ってきた。


───まずい、槍で受け流すしかない!


右からの一撃を槍で受け流そうとする。─────が

鈍い音を立て、尾に触れるのと同時に先端が完全に割れてしまった。


───もろに受けてしまう!


辛うじて柄で少し防いだが、受け身も取れず塔の端まで弾きだされてしまった。


全身が痛い、足に力が入らず起き上がることも出来ない。


ズシン、ズシンと足音が聞こえる。


(話が通じるタイプじゃなさそうだしなあ…

これはホントにお手上げかも…)


「恨みだけで動く我が身、頭部を貫かれようが死ぬことは無い。」


(そういうタネか…)


全てを諦め眼を閉じる。


(運が無かったなあ…俺の人生。

幸運なんて、ガレスさんが拾ってくれたくらいかな…

ああ、みんな…)


仲間の顔が、思い出が浮かぶ。


(俺が死んだら、悲しむかな…俺が死んだら……)


そうだ。俺が死んだら、俺の願いは─────







儀式の前、悪魔に最後に呼ばれた俺は自分の望みを話した。どうやら願いが大丈夫か一応『面接』をしているらしい。


「どこまで君は利他主義者なんですか……全く度し難い。」


「俺にはそれしか無いからな。」


「そうかいそうかい…なら、願うといいよ。後でね。」


「なら合格か。

後でって、『血の儀式』とか言うやつやるつもりか?」


「形だけだけどね。まあ、悪魔っぽいじゃん。」



そして、儀式の時が来た。


「さあ、願いを申せ」


「俺は我らの物語、英雄譚を望む。」







───ああ、まだ死ねない。物語だ。そうだ、物語だ。


願いなんてなかったが、あの悪魔の言葉とあの笑み。


「死体掃除なんてしてたら、青年少女は精神狂っちゃうかもよ?」


それだけは、それだけはダメだ。仲間が廃人になるなんて耐えられない。だから俺は願った。


華やかな、未来永劫語り継がれる英雄の物語を────






ボロボロの体を、最後の力を振り絞り起こす。もう打つ手はない。あるのは1つ、悪魔から渡された輝石のみ。


「ああ、使ってやろうじゃねえか。」


「そんな石で何が出来ると言うのだ?」


輝石を掴み、砕く。夢中だった。これが正しい使い方な気がした。


石は砕かれると、激しい光を発し消えた。

そして間もなく雨が、豪雨が降り始め─────雷が落ちてきた。

俺の真横に落ちた雷は、消えることなく残っていた。

それは満身創痍の俺には『槍』のように見えた。

光に包まれていて、よく見えなかったが掴むとはっきり見えた。


柄の先端に爬虫類の目のような宝石を宛がったとても精巧な槍だった。


掴むと同時に傷が癒え体に力が取り戻されていくのを感じた。


─────投げろ。


槍が言う。

投げてもダメだ、たとえ貫いても1発じゃダメだ。


─────ならば、何度でも投げるがいい。


言葉数は少なかったが、理解はできた。多分そう言う事だろう。ならやるのみだ。


「そうかいそうかい。ならやってみるか!

オラァ!」


槍を投げる。槍は胴を貫き、空に消えた。


「見事な一撃だ。しかし、もう獲物はなかろうて。」


「どうかな?」


───雷がもう一度龍の胴を貫き、龍の体がグラつく。


「なんだと!?」


槍はまた、俺の手に握られていた。投げた槍は龍の体を貫き俺の元へ帰ってきた。


「もう一度だ。しかし、もう止めることは無いぞ。」


───槍が投げられ、手に帰っていく。何度も何度も。龍が木端微塵になるまで。


「グガァァァァァ……」





龍は消えた。


「ああ、疲れたな…」


「戦闘終わりました?って、君は槍なんだね…

そうか、君にピッタリだ。新たなる英雄譚の主人公にね。」


悪魔の声がした。


「俺が主人公なの?」


「ああ、そうさ。

今迎えに行ってるけど、見える?」


「は?見えるだと?どこか近くか?」


「鯨が見えたら教えてね~」


「今塔に居るんだぞ?鯨なんてどこに…」


巨大な影に包まれ当たりが真っ暗になり、上を見る。


「おいおい、マジかよ…なんだよそれ…」


「よくぞ聞いてくれました!

これが君たちのこれからの家で船、



『虹鯨』さ!!」

おつかれちゃん

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