88.おめでたい
ご飯の炊き上がりと鯛の焼き上がりを待機中…。Now loading…。
ピーッ。ご飯が炊きあがったようだ。タオルで拭いて軽く濡らした、ボウルに出して、先ほど作っておいた酢を回しかける。しゃもじで切るようにして混ぜ、一通り終えたら、ひっくり返して同じ行程を行う。最後に軽く団扇で仰ぎ、水気を飛ばしたら、濡れタオルをかけ、保湿しながら1時間ほど常温に置き、浸透されせれば完成である。
「あら、いい香りね。」
「酸っぱい?…独特の匂いですね。」
「ご主人様、これは…お酢の匂いですか?」
匂いに釣られたわけではないだろうが、女性陣がキャビンに上がってきた。
「そう。お米にお酢の香りをつけてるんだよ。もうしばらくは寝かせないといけないから、まだ食べられないんだけどね。」
「あら、残念。お腹が空いてきたところなのに。」
「ふふ。イヴさん、空腹がお辛いようです。」
「ええ、こんなにも辛いものなのね。…やっぱり何事も経験してみないと分からないものね。」
「まぁ、“空腹は最大の調味料”っていう言葉があるし、今日のご飯はきっと、今までで一番美味しいよ。」
「マスターの世界にも似た言葉があるのね。さっきサーラにも教えてもらったわ。」
「へーそうなんだ――。」
ピピィピピィ!
談笑していると、今度は、オーブンが音を上げる。
「お、ナイスタイミング!」
「「「?」」」
「ご飯とは別に用意してたもう一品が出来たみたい。持ってくるわ。」
ギャレーに行き、オーブンを開け、トレーを引っ張り出す。ムワッとした熱気が立ち上り、白い塊が現れた。みんなが待つテーブルまで運ぶ。
「…えっとマスター、これは何…かしら?」
「白い…塊。」
「茶色っぽいところもありますよ。修一さん、これを食べるのですか?」
「いや、見えている白いのは食べないよ。食べるものは、中に入っているから。イヴ、これ使って中身出してくれる?」
そう言って、渡したのは木槌。知っていれば不思議はないが、知らずに木槌を渡されれば――。
「え、コレで?」
という反応になるだろう。たまに出るイヴの可愛いリアクションいただきました。皆も驚いた表情している。サプライズは大成功だ。
「えっと修一さん、まさかこれで叩くのですか?」
「正解。外皮を叩き割るんだよ。それなりの硬さはあるけど、叩くのは軽くね。あくまで食べ物だから。」
「…こんな料理があるのね。た、叩くわよ?」
「うん、どうぞ。」
緊張した面持ちで塩釜を見つめるイヴ。覚悟を決め、木槌を振り、カツンッと叩く。塩釜に亀裂が走った。
「あっ。」
「割れました!」
「お、いい感じ。その調子でどんどん割ってって。色んな角度から叩いて、バラバラにしてく感じでよろしく。」
「了解よ。」
イヴもノってきたようだ。
木槌でコツコツと叩いていくこと、数回、全体にまんべんなくヒビがはいった。
「…こんなものかしら。」
「完璧だね。後は、これをどかしていけば…。あぁ、いい匂いだ。」
バラバラに砕けた塩釜を退けていく。昆布を上にかぶせていたおかげで、それを引っ張れば、簡単に塩を剥せた。
ふわっと昆布と、白ワインの香りが立ち昇り、鯛が身を現す。
「あら、いい香りね。これはお魚ね?」
「…シルク-ムフェレンス。」
「そう。俺の故郷では、鯛っていうお魚で。縁起がいい魚とされていたんだよ。“おめで鯛”ってね。」
「「「……。」」」
「いや、冗談ではなくね?味も美味しいし、身の赤みが邪を払うって考えられてたんだ。」
「いや、疑ったわけではないのですが、“おめで鯛”…ですか…。」
「…ぷふ。…くふふ。」
「サーラ?」
「…すみません…。くふ…くははっ。」
どうやらサーラのツボに嵌まったようだ。
「ほ、ほら、冷める前に食べよう。味はついてるからそのまま食べられると思う。」
修一は、鯛の皮を剥いで、身を掬う。鱗を残したのが功を奏したのだろう、ペリペリペリっと簡単にはがれた。そして一口。
「はふはふ…熱いっ。……でも、美味い!」
ふっくらとした身に、ちょうどいい塩味。ふわっと香る白ワインと、噛みしめるとしみ出してくる昆布の旨味…鯛の油と相まって、最高のハーモニーを奏でていた。思わずガッツポーズをし、天を仰いでしまう。
「わ、私たちも食べるわよ!」
「はい、いただきます!」
「皆様、こちらをお使いください。」
「ありがと、サーラ。貴方も食べましょ?」
「はい。」
「…ふー…ふー…はむっ……あっつぃ…あっ美味しぃ…美味しいです!」
「ん…いいわね。コレ…。丁度いい塩梅。塩が魚の美味しさを引き出してるわ。」
「美味しいです。周りの白いものの正体は塩だったのですね。」
「そう、塩に卵白を混ぜて、魚に纏わして焼いたんだよ。」
「へー。塩辛くなりそうなのに…面白いわね。」
「はい。寧ろ、ふわっとしたまろやかな塩味になってます。んん…美味しいです。」
鯛の塩釜焼は大成功みたいだ。はむ…うん、ウマい。
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