79.端緒
たまには言葉にするのも悪くない。
大富豪大会の翌日、サーラと盛り上がった修一は、今日も今日とて船上でのんびりと過ごしていた。
「それにしても全然手掛かりがないわね。」
イヴもそろそろ飽きてきたようだ。
「そうだなぁ。そろそろ諦めて方向転換したほうがいいかもな。」
そういって、修一は空を見上げた。
青い空に白い雲が、のんびりと揺蕩っている。
(空の青に雲の白。ぁあ…お前らはいいなぁ。何に縛られることもなく揺蕩っていられて。
…ん?吟遊詩人の詩の『白き海』って…もしかして“雲海”のことか?
…いや、そうなると『潜りて昇らん』じゃなくて“昇りて潜る”ってなるはずだ。
…しかし『潜る』の対象が海や波とは限らない、か。潜る対象が雲かそれに準ずるものだとすると、例えばそう、海上に出来る雲があれば――。)
「――“雲の壁”、霧峰か…。」
「修一さん?霧、峰…とは何ですか?」
「あぁ…えっと、もしかして詩の『白い海』が指すものは海そのものじゃないのかもしれないなと思って。」
「ええっと…マスター?海なのに海じゃない?」
「…確かに、詩ですから、隠喩表現がなされていても不思議はありませんね。」
「確証はないけどね。眼下一面の雲を海に喩えて雲海っていうんだけど。さっき言った霧峰はそれが海上に出来る現象だね。」
「…眼下?ご主人様の世界の人間族は空を飛べたのですか?」
「あはは、まさか。ただ、空を渡る技術を持っていただけだよ。」
「空を渡る…ですか。すごい技術ですね。」
「魔法がない世界だったからその分、科学が発展していたんだよ。」
「カガク?…ですか。」
「そう、世の中の在り方(原理原則)を探求する学問だね。」
「へー、そう。」
「それで、修一さん、『白い海』がその霧峰だとすると、何か心当たりがあるのですか?」
「霧峰は端的に言うと濃霧のことだから、発生原因は、地熱の暖気と海上の冷気の混合だ。ここら辺には陸地がないから、別の要因があると考えると――。」
「海底火山…ね?」
「え?」
メニュー作成の時に、知識を共有していたイヴも修一が言わんとしていることに気が付いたようだ。
「正解。海底火山帯の水温は高い。つまり水上付近は温かい空気が溜まる。そこに何らかの要因でその上部の空気が冷えることが起きれば、さっき言った霧峰の発生原因とは逆の現象が起こる。」
「その場合でも雲が出来るのですか?」
「理論上は。寧ろ、寒気が上に、暖気が下にある状態は、大気が不安定な状態だから、ふとした拍子にそれが逆転すると、強い上昇気流が生じるね。」
「えっと…?」
「空気や水は元々温かければ上に、冷たければ下に溜まる習性があるんだよ。冬場に足元が冷える理由がこれだ。つまり、重いはずの冷たい空気が上にあるというのは、ふとした拍子にガラッと空気が入れ替わるってことになるんだよ。その時、上に向かう気流が出来るから詩の『昇る』って言葉にも該当することになる。」
「…なるほど。ですが、続く文には、『深海への扉が開く』とありますが…。」
「あ、確かに。」
「あの…もしかして『深海』ではなく“神界”なんじゃないでしょうか?」
「「「……。」」」
「えっと?」
「…その発想はなかったわね…。」
「…なるほど。同音異義語ですか。」
「というより、伝わっていくうちに変化していったんじゃないかな。すごいリリシア!よく思いついたね!」
「ありがとうございます。お役に立てて嬉しいです♪」
「つまり、詩に当てはめるとこんな感じになるわけか。」
そう言って、修一は歌詞のメモに書き足していく。
~~~~~
世界が眠る刻 …=夜?
白き海 …何か特別な海域(白い海が実在する)?白波? 霧峰(濃霧)
潜りて昇らん
いざ深海(神界)への扉が開く …深海へ潜るために潜る。では昇るとは? 濃霧に潜り込んで神界に昇る
…
~~~~~
「…見事なまでにつながったわね。」
「まぁ、夜になるとはいえ、濃霧ができるほど空気が冷えるのか、とか、上昇気流が生まれても物理的に船が空に昇れるわけはない、とか懸念はたくさんあるんだけどね。」
「まぁ、物は試しよ。この前の海底火山まで行くわよ。」
「うん、お願い。」
少しだけ秘宝に近づいた?修一たちであった。
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