73.秘宝の詩
船が進めない理由を求めて。
「そう言われれば、人間族がこのような海域にいらっしゃるのは珍しいですね。」
サーラの言葉を受け、リリシアが続けた。
今、修一らがいるのは、地理上で言う北西である。人間族の国域は南東の方であり、この地に来るには、いくつもの国域を超える必要があり、それは大変困難な道中であったことは想像に難くない。
「そう言われれば、なんであんなところにいたんだ?」
「元々は、別の任務…大陸に近しいところでの哨戒任務だったのですが、クラウン様が港町の酒場でとある話を聞いたため、急遽、北の最果て、人魚族の国域を目指すことになったのです…。」
「なるほど…。あいつなら後先考えない突貫工事とかしそうだもんな。」
「ええ、まぁ…かなり無理したものでした。」
「それで、狙いは何だったの?」
「人魚族そのものもそうでしたが、それ以上に深海の秘宝というものです。」
「うわぁ…。」
イヴは直接会ったわけではないが、今の話しだけで十分嫌悪を感じたみたいだ。
「でも、人魚族が狙われやすい種族なのも確かです。」
リリシアが言う。
「え、そうなの?」
「はい。人魚族とは、ヒトの上半身に魚の下半身をもつ種族ですが、女性しかいない種族でして、繁殖時のみ精巣が機能するようになるらしいです。見た目も麗しい方が多いこと、水中速度は随一ですが戦闘能力はあまり高くないこと、鱗の利用価値がとてもあること…などの理由で狙われることが多いそうです。」
「なるほどね…。」
「それで、深海の秘宝っていうのは、何?」
「ごめんなさい、それは私も聞いたことがありません。」
「…吟遊詩人の歌だそうです。歌人曰く、アーティファクトにつながる古の伝承だと。」
「へ~、どんな歌なの?」
そう言いながら、修一はサーラを見やる。リリシアもそれに合わせて、彼女に顔を向けた。
「……え?…わ、わたくしに歌えと…?」
「え?出来るならお願いしたいんだけど…。」
「でもわたくし、その…歌が…。」
「うろ覚えでも構わないから、とりあえず歌ってみてくれないかな?」
「…はい。しかし、決して笑わないようにお願いします。」
少しだけ赤みがさした顔でサーラが歌い出す。
うん、抵抗の理由が分かった。彼女はちょっとだけ音痴だったのだ。
「うん、ありがとう。」
「…いえ…。歌詞はおこせましたか?」
「これでどうかな?」
「……。ええ…これで合っていると思います。」
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世界が眠る刻
白き海
潜りて昇らん
いざ深海への扉が開く
立ち込めて問い
愚者は絶え
賢者は惑い
勇者は堕ちる
世界が再び廻るとき
宮廷への道開かれん
秘宝を手にするもの
死者を越えて命を得られん
~~~~~
「これが、歌詞ですか…。難しいですね。」
「…吟遊詩人が諳んずるものですから。」
「しかし、あいつはこの歌詞にある秘宝が本当にあると思ったのか?」
「アホね。それに秘宝の在処のヒントが全くないわ。」
「ええ…。その通りです。なので私も流しておりました。」
「あるのかも分からない秘宝が、ここから進めないことと関係するとは思えないんだけれど…。」
「まぁ、探すだけ探してみる?どちらにせよ、原因を探ることになるだろうから。」
「確かにそうね。秘宝のことを意識しつつ原因を探ってみようか。」
「サーラも他に何か思い出し次第教えて。」
「かしこまりました。」
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