72.進めず
サーラは、可愛いものが好き。
「…あれ?…マスター…何かおかしいわ…。」
イヴがそう言い出したのは、紫雲が陸を見つけた五日後だった。船はそこを目指す航路の上に居た。
「おかしいって、何が?」
「…船が先に進めないの。」
「え?」
「ある一定距離を行くと、なぜか、船が勝手に回頭するのよ。」
「止められないのか?」
「何度かやってみたけどダメみたい…。」
「…わかった。とりあえず、適当なところで停船してくれ。」
「了解。船が回頭して戻りきったところで止めるわ。」
「それでは、第1回グロリアス=グロストン号、緊急会議をはじめます。船がこれ以上進めないらしい。原因は不明。このままでは大陸には行けない。何か心当たりはあるか?」
「えーっと…。」
「どんな些細なことでもいい。どんどん意見をくれ。」
「潮や風…というのはいかがでしょうか。」
「んー…流石にこの船の馬力を上回るものがあるとは思えないわね。目視ではもちろん、レーダー等々にも異常はないわ。」
「…ダンジョンの特性というのはいかがでしょうか。一般的に山林や洞窟などダンジョンは固定的です。通常に比べ広範的とは言え、この船もそれに準ずるのではないでしょうか。」
「なるほど…。確かに、モンスターはダンジョン領域関係なく進出できるから、紫雲が大陸に到達できたことも説明できるわね。」
「それでは、ここから先には進めないっていうことですか?」
「その場合そうなるかもしれないわね。」
「そうと決まったわけではないし、他の可能性も試していこう。このダンジョンは色々な点で特異的だしね。」
「まぁ確かにそうね。マスターは他に何か考えているの?」
「正直分からないな。挙げるとすれば、イヴ自身に原因があるパターンかな。」
「私自身に?」
「そう。コアに人格が現れたのか、ある者がコアになったのかは未だ明確ではないけれど、後者を前提だとすると、幽霊船のコアになった理由があるのかもしれない。移動可能なダンジョンだという価値において、だ。そのうえでこの海域から出られない理由があるのかもしれない。」
「…なるほど。じゃあこれからどうする?」
「可動範囲を調べるか、原因を探るしかない。ダンジョンの特性上動けないならば、手を打たないといけないからな。」
「そうね。それじゃあまずは、可動範囲を調べてみるわ。」
「この辺りまで来たことはないんだよね?」
「ええ、初めてよ。人がいる地域に近づいたことはなかったわ。」
「それはなんでですか?」
「実は、前の船は舵が利かなかったのよ。私じゃ直せないしどうしようもなくて。」
「え…そうだったのか…。」
イヴが速度狂になった遠因なのかもしれない。
*****
イヴの計測が終わるまで、船は“進んでは戻って“を繰り返す。数日間のんびりと過ごした後、イヴの掛け声の下、再びキャビンに集合した。
「大体終わったわ。」
「どうだった?」
「今、この船は南方に向かっているのだけど、南と東はキツキツみたい。回頭をはじめる距離が短いわ。西には少し余裕があるみたいで戻っていく様子はなかったわ。」
「壁のようなものを感じたりはした?」
「いいえ。ただ、一定距離を行くと、舵が利かなくなって、自然と戻る感じね。」
「範囲は円状?」
「おそらくは。角があった感じはなかったわ。」
「ふむ…なるほど。範囲の広さは?」
「んー…大体半径2500kmってところかしら。」
「なかなか広いですね。」
(確か、日本列島の長さが約3000kmだったから、向こうでいうところのオーストリアがすっぽりと入る程度の広さかな。)
「次は原因を探る?」
「そうだね。範囲円の中心には何かある?島だったり海溝だったり…。」
「特にはなかったはずよ。」
「コアが覚醒した地点とか…。」
「…は覚えてないわ。」
「…あの…すみません。」
それまで口を噤んでいたサーラが声を出す。
「ん?どうした?」
「正確な地図を把握しているわけではありませんし、関係性があるとは限りませんが、少し気になる物がございます。」
「何かのヒントになるかもしれない。それが何か教えてくれないか?」
「…はい。そもそも、人間族である私――およびクラウン様がこの海域におりました理由に関するものでございます。」
そういえば、こんな海域になんで人間族がいたんだろう?
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