64.新たな臣下
イヴの正体に一歩――半歩近づいた。
あれからおよそ3時間後、リリシアとサーラがキャビンに上がってきた。
「…ご迷惑をおかけしました。」
少し恥ずかしげにサーラが言う。
「全然大丈夫。少しは落ち着いた?」
「…はい。」
「それならよかった。」
続けて修一は切り出す。
「それで、君はこれからどうする?君がやりたいことも知らないし、こちらから提供できるものはないと思う。同時に君に期待することもない。」
「…私は……。」
「君は何がしたい?」
「…わかりません。…すみません…。」
「そっか。なら――。」
「「見つけなさい(ましょう)。」」
「…え?」
「おい…。」
「えへへへ。修一さんならそう言うと思ったので…。すみません♪」
「笑顔で謝られてもな…。」
「…あの…。」
「まぁそういうことだ。やりたいことが見つかるまでは、この船にいればいいさ。でもタダでとは言わないからな。リリシアに掃除洗濯料理その他諸々教えてやってくれ。」
「…良いのですか?」
「あぁ。」
「…かしこまりました。これより私は修一様、貴方のメイドとなり、リリシア様に家事のすべてをお教えいたします。」
「え?俺に?リリシアじゃなくて?」
彼女に仕えるよう遠回しに言ったんだけどな。
「…はい。貴方様にです。」
「ふふふ。私もそれが良いと思います。」
え?リリシアも?
「えーっとじゃあ、一時的にせよ俺に仕えてもらおうかな。」
「…はい。宜しくお願い致します。…それでは、私と契約魔法を交わしてください。」
サーラから提案された。
「契約魔法って?」
「…魔力を介して契約することで、契約者を縛ることができます。一応私はアサシンですし、不利益を被らないよう契約することをお勧めします。」
「一理あるわね。確かにお付きが暗殺者って心強いけどリスクでもあるわ。」
「契約魔法は束縛力が強く、時に精神に影響を与えることや、違反時には致死的な罰則が与えられるそうです。しかし、対応が事後的になりがちで、主人への従順を契約しても殺害される例は少なからずあります。」
「そっか、なるほど。まぁ必要ないし、要らないかな。」
「…え?」
「ふふふ。でも大丈夫なの?寝首を搔かれたら流石のマスターでも勝てないんじゃないかしら?」
「そんなことにならないように頑張るさ。…気に入らないことがあったら殺す前に言ってね。」
「…そのようなことをするつもりは毛頭ございません。しかし私は契約で安心を担保していただいた方がいいのですが。」
「きっと修一さんは、サーラさんを信用したいんですよ。」
「…悪い気はしませんが、しかし――。」
「それなら、サーラを臣下にすればいいんじゃない?」
「…臣下?」
「ダンジョンマスターの臣下にするってことよ。契約魔法と違って穴なく行為を禁じることが出来るわ。違反によって致死的罰則を受けることはないし、制限や束縛もかなり応用が効くわよ。」
「なるほど。それは後で解放できるの?」
「問題ないわ。でも、そうなると、サーラが滞在してもダンジョンポイントが手に入らなくなるわ。」
「あれば嬉しいけど、必須ってわけでもないし、ちょうどいいんじゃないかな?」
「…私はもちろん構いません。是非お願い致します。」
ということで、サーラを臣下にすることになった。
イヴの指示で、コアルームに行く。
「いらっしゃい。それじゃ早速、私に手をかざして魔力を流して頂戴。」
「了解。」「…はい。」
――魔力を流すこと40秒ほど。
「――完了よ。これで、サーラはマスターの臣下になったわ。」
「…ありがとうございました。」
確認すると、彼女の称号に『修一の臣下』が増えていた。効果は、修一の居場所や状態、感情を感覚的に読み取れるらしい。
その後、修一・リリシア・ペットおよびこの船を傷つけないことを命として与えた。
「…改めて宜しくお願い致します。ご主人様。」
「うん、よろしく。」
「…クレイシュ様――一番はじめのご主人様に家事のことは叩き込まれておりますのでお任せください。」
「…それはありがたい。俺も、その方——君の御父君に感謝しないとな。」
「――っ。――はい…♪」
一瞬彼女が驚いた顔を見せた後笑う。修一は、表情があまり変わらない彼女がみせた、花が綻ぶようなその笑顔にしばらく見惚れたのであった。
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