42.Side イヴ②&リリシア② ~乙女の約束~
イヴとリリシアのお話です。
リリシアの様子が少し変だった。流石に疲れたのかな。
それぞれ部屋に戻った後、イヴがリリシアに声を掛けた。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「無理しなくていいのよ?鈍感な誰かと違って私は原因に心当たりがあるから。」
「…そうでしたか。恥ずかしいです。」
「誤魔化さなくていいわよ。龍族の生態上仕方のないことだし。」
そう、修一はリリシアが体調不良だと考えていたがそうではなく、その実彼女は発情していたのだった。龍族は、長寿なため他の種とは異なり発情期が不定期で、一定条件下で発情する種であり、今回の場合“誰かを心の底から認めたとき“がトリガーとなっていたのだった。つまり、本能的にリリシアは修一のことを認めたということであり、以前から胸に抱えていた彼への好意が今日の戦闘を経て、恋愛感情に変化したのだった。
「やっぱりマスターの強さが良かったの?」
「それもありますが、それだけではありません。龍族は強者に対し発情するのではなく自らを捧げられると信じられるものに恋し発情します。」
「本当のところ、強さは第一関門でしかないのにその壁が高すぎて普通は出来ないから、強者と言う部分が強調されたのね。」
「まさしくその通りです。でも本当に大事なのは信じられるかです。」
「考えてみれば当たり前の話よね。」
「はい、ふふふ。」
「ねぇ、イヴさん。私は修一さんが好きです。」
「あら、改まってどうしたの?」
「イヴさんも同じですよね?」
「え?…急に何を言い出すのかと思ったら…そんなことは無いわよ。」
「本当のことを教えてください。じゃないと私たち、あとで後悔すると思うんです。」
「――分かったわよ…。でもね、正直自分でも分からないのよ。」
「え?」
「確かに私はマスターに感謝しているし、一定以上の好意を持っているわ。あの人が笑うと嬉しくなるし、いつまでも一緒にいたいと思う。でもきっとこれは恋ではないのよ。コアが恋をするなんて変な話でしょ?そもそも私は自分自身のことが分かっていないのに誰かのことを愛することなんてできないわ。」
「イヴさんはイヴさんです。」
「ふふふ、ありがと。…きっと私は怖いのでしょうね。自分自身が。だからこの気持ちに名前を付けるのはまだ早いのよ。だから、私のことは気にせずマスターにアタックしなさい。寧ろ、お願いするわ。私にはできないことだから。」
「…本当によろしいのですか?」
「ええ。あなただから言うのよ。誇りなさい。でもそうね。いつか、心の整理がついて覚悟が出来たら、その時は協力して頂戴?」
「はい、必ず。」
「ふふふ、ありがと。お礼に私もフォローしてあげるわ。」
「ありがとうございます。あの…私に出来るでしょうか。最初はお礼のつもりだったのに、私ばかり良い思いをして、結局修一さんの負担になるだけではないでしょうか?」
「大丈夫よ。マスターを守りたいなら、あなたはマスターの一部になりなさい。あの人は、普段は恐ろしいくらいに熟考するくせに、自分のことになるとてんで無関心になるから。守りたいなら、守らせなさい。二人でひとつを守るのよ。」
「…ありがとうございます。私、頑張ります!」
「ええ、頑張ってね。」
こうして、乙女たちの約束が成立した。
それぞれに、覚悟を持って。
――まずは、修一さんにお礼をしなければ。あの方は全然私の気持ちが分かっていない。どれだけ感謝しているのかも、貴方を想うこの胸の痛みも。なので私は私のすべてをかけて思い知らしめてやります。龍族の全力を以って。この気持ちを認めたら私のためでしかなくなってしまうことも解っていますが、イヴさんがそれでいいと背中を押してくださいました。なのでもう迷いません。修一さん覚悟してくださいね。
そして、イヴさん。
許してくださってありがとうございます。その胸中は私にはまだまだ図れませんが、いつかその心を今度は私が包み込めるよう頑張ります。修一さんの熱を感じられるその日を、必ず我が姉に――。
――あの子は覚悟を決めた目をしていた。それがとっても眩しくてなんだか羨ましかった。
彼女に言った言葉は本当だ。私は怖いのだ。だから、もう少しだけ時間が欲しい。自分自身で私を見つけ、自分自身を誇れる日まで。その時までマスターのことは彼女に任せよう。
あら、早速今晩突撃するみたいね。いつも自室は遠慮しているけれど、今夜ばかりは覗こうかしら。可愛い妹の晴れ舞台ですもの、やましい気持ちではないのよ?
そしていつの日か、マスター、あなたの横で――。
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